エリ
目が覚めた。朝のルーチンは省略した。部屋の空気の入れ替えだけはやっておく。
ペプと朝飯を食べた。俺は軽めにジャーキーとフルーツ。シャワーを浴びて戦闘準備をした。
外の様子を伺って安全確認し、ペプと一緒に外に出た。
ペプを左肩に乗せてジャイアント用の通路を進んでいく。約五十メートル先で突き当りになっている。右に曲がる。更に五十メートル進み、左に曲がる。遠くに光が見えた。同じ作りの通路が続いているその先は、まるで洞窟の出口のように明るい。
「ペプ、あれ、出口かな?」
出口ってなんだ? ダンジョンの出入り口は通常一カ所だろ。
出口らしきところに近づくにつれ目が開けてられないほど眩しくなる。慣らしながら進むとそこは、恐竜が闊歩してる緑の大地だった。
「え? え? え? ペプ? え?」
パニックになった。でかい首長竜、首の周りに襟巻きが立ってるトリケラトプス、背中に剣先のようなトゲが生えてるステゴザウルス、空を滑空するプテラノドンが見える。子供の頃、絵本で見たまんまの原始の風景だ。
ものすごく背の高い植物の葉なのか実なのか、首長竜が長い首を伸ばして食べている。
「ペプ、ここってお外?」
ペプも俺の腕の中から身を乗り出して呆然とした表情をしている。
太陽も空もある。もし、こんなところが王都の近くにあったら、みんなに知れ渡ってて有名になってるだろう。俺が知らないだけ? いや、まさか。
後ろは岩壁になっていて、数十階建てのビルの高さの崖になっている。それが左右にずっと続いている。デザインが人工的だ。やっぱダンジョンの中だよな……?
キョロキョロしていたら、遠くからジャイアントが俺に気づいて走ってくるのが見えた。すると突然、草の茂みから、黄色をベースに赤と緑のまだら模様のカラフルな恐竜が飛び出てきてジャイアントに噛み付いた。ジャイアントはバキバキに折れ、血が吹き出した。俺はキョトンとしながら見ていたが……。
——こっちくるのかよ!
慌ててペプをハウスに逃がした。ドスドスと地面を揺るがせながら走ってくる恐竜は、ティラノサウルスで間違いない。ただ、映画と違って、鳥の羽毛のようなカラフルな毛が生えていて、口の周りが血で真っ赤だ。
——アイスランス!
俺の最強攻撃魔法の少し威力を落としたバージョン、桶いっぱいの水を使った氷の槍。これが効かなかったら走って逃げるしかない。アイスランスはティラノサウルスの胸に刺さり、爆発した。ティラノは走ってきた勢いそのままに前のめりに倒れ、地面に顔を埋めた。胸の肉が深く抉れて凍っている。さすがに死んでるだろう。
俺は恐る恐る近づいて、ティラノサウルスの死体をストレージに入れた。大きいので結構マナを使った。
周りを見てみると、後ろには壁、前と左右には大地が広がっている。ところどころに崖のような山がある。遠くには地平線が見える。
——どうなっているんだ……?
俺は魔族を探しに来たわけだが、もしこれが幻覚ではなく、本当に見たまんまの広さがあるとすると、探しきれない。幻覚だとしても、どうやって攻略すればいいかわからない。まあ、食料と水と寝床の心配はないから時間をかけて攻略してもいいんだけど……。
——かえっか……
帰ってギルドに報告して、攻略方針を決めようと思う。広すぎるのでパーティがいっぱい来て賑わってくれると嬉しい。
俺はペプを抱きながら、要所要所に淡く光るマーキング石を設置しながら歩いて、元来た道を戻った。明りはロングメイスを光らせた。途中でペプが飽きたのか眠くなったので、ハウスに入れた。時間がもったいないので俺はジョギングで出口へ向かった。途中でトロールにばったり会ってもなんとでもなるだろう。
足の裏もプロテクションが効いてて、尖った岩を踏んでも大丈夫なことに気づいた。これは結構便利だ。もしかしてブーツを履かないほうが消耗しなくていいかと思ったが、それはそれでクッション性が足りなくて、いい具合ではなかった。大ネズミが現れて素足に噛み付かれた。
そんな感じで数時間かけて王都に戻った。駆け足で冒険者ギルドに行った。外は日中だが曇りだった。
「すまない、今、何どきだ?」
「日暮れまであと三時間ですー」
この世界は時刻はないが、時間は元の世界と同じ二十四時間制だ。時計はなさそうだが、どこかに日時計があるのだろう。
「タクヤさん、昨日はありがとうございました」
一緒にトロールジャイアントを倒したパーティAのメンバーから話しかけられた。
「俺は何もしていないけどな。どうだ、儲かったか?」
「はい! トロールジャイアントの血は値が付かないので、とりあえずトロールと同じだけもらって、差額は後日、頂けるとのことです! ビアンカさんが、タクヤさんがいなければ倒せなかったと何回も仰ってました!」
しゃべり方が軍隊チックだな。元軍人かなんかか? ビアンカが褒めてくれるとは思わなかった。性格悪そうだし、エミリーと仲が悪いから俺のことも悪く言うと思ってた。
「レオナルドさんと一緒に魔族を倒したと聞きました! どうやったらそんなに強くなれますか?!」
レオめ。余計なこと吹聴しやがって。
「いい先生を見つけ、毎日修行するんだ」
本当のことを言った。まあ、俺の先生は骨先生だが。
ギルドカウンターの奥でフィリーネが手招きしている。奥の執務室に連れて行かれた。
「フィリーネ、どうした?」
「魔族を倒したって話を詳しく聞かせてもらえる?」
ものすごい圧力を感じた。魔法だろうか? 違うか。仕方なく魔族タスネルのことを話した。
「あなた、そんな重要なことを今まで隠してたの?」
「隠してたというか、聞かれなかったからな」
とぼけた。睨まれている。
「ということはレオナルドと二人で魔族を倒したわけね。いったいどうやって?」
「秘密だが、主に力押しだ」
「空間魔法ね」
「だいたいわかるだろ」
とぼけた。ストレージ魔法がバレても、必殺技は隠しておかなければ。というか実際のところ、レオの剣技がなければかなり苦戦していたか負けてた。
「それで、星間移動ってなんのこと?」
「知らないのか? エイリアンが他の星からこの星にやってくる事だ」
詳しく教えてやった。
「魔族と呼んでいたものは、その……エイリアン……だったわけね」
「エイリアンの死体ならあるぞ」
俺はストレージからタスネルの死体を出して、テーブルの上に置いた。
「……ここに置かないで……あとで倉庫に出して」
なんとなくそう言われるだろうと思ってた。
「他にまだ隠してることがあるの?」
「今日ここには報告に来たが、まだ報告していない」
俺はトロールケイブの話をした。
「恐竜?! なにそれ?」
「エルフなのに知らないんだな」
「ハーフエルフよ」
「恐竜ってのは人類がヒトになる前にこの星の食物連鎖の頂点にいた生物だ。詳しいことは忘れたが数千万年前の話だ」
「そんな時代の話、わかるわけないじゃない」
「俺が元いた世界では常識だ」
「人間がいないのに語り継がれるわけがないでしょ」
「化石や地層を解析してわかったんだ」
「……化石? ……地層?」
うわ、めんどくさ。このレベルで話が合わないやつって、前の世界にはいなかったからなあ。
「あなたってもしかして、この世界の誰も知らない太古の秘密を知ってるの?」
「召喚者って言っただろ? 元の世界の話しか知らないが大昔のことはこの世界でも一緒だろう」
危うく重要人物認定されそうな雰囲気だった。エルフの国に掠われ、世界の秘密を吐けと拷問されるのを想像した。
「トロールジャイアントの死体と、ティラノサウルスの死体ならあるぞ。ティラノサウルスはここの倉庫には出せないな」
「いただくわ」
冷蔵室に移動してトロールジャイアントの死体とタスネルの死体をストレージから出した。金貨五十枚になった。チョロい。
ギルドホールに戻ると掲示板にポップが貼りだされていた。
『トロールケイブ、絶賛難易度低下中、洞窟の奥には広大な緑の大地が! ツアー開催中!』
その後、武器屋、服屋を廻って消耗品などを補充した。めんどくさくて洗濯をしないので、下着が使い捨てになっている。捨ててないけど。服屋に、洗濯屋がないかと聞いたら、服屋で受け付けているとのこと。知らなかった。鞄いっぱいに下着を詰めて渡した。
物陰で、ハウスに小さい窓を開けてペプに声をかけたら、とてとてと歩いて出てきた。
そしてペプと一緒にバーに行った。伝言はなかった。伝言のためにバーに来る頻度を増やしたのに、伝言がないのはなんだか残念な気がする。美味しい酒が飲めるので全然いいけど。
飲みながら考える。今回、できればトロールケイブを攻略したかったが、まさかの広大な大地。魔族はどこにいる? 大地に城が建っているとか? どこかに洞窟がある? 実は見た目ほど広くはない? その場合は魔族に通じる入り口が隠されているだろうなあ。
攻略の糸口が見つからないが、まずは調査かな。もう一回行かなきゃ。他の冒険者の攻略を待って情報を聞くのもいいかな。いったん保留して別のことをしようか。
とりあえずエリース村に行って、エリザベスの様子を確認しないと。エリース村、エリック、エリザベス……エリ、エリ、エリ……これは何かの運命なのか……。違うか。もしかしてエイリアンも! 違うか。とにかく明日すぐに行こう。
俺はいい気分でバーを出た。西門へ向かおうとしたところ、屈強な男四人に囲まれた。すぐにペプをハウスに逃がした。
ロングメイスは既に手に持って構えている。剣と違ってこういう時に便利だ。
「まさかこの人数で俺を仕留められるとでも思ってるのか?」
「いや、俺一人で十分だ」
暗闇からローブを来た男が現れた。
「#####スリープ」
俺は眠った。




