六本の矢
ロングメイスのスパイクの一つにライトのエンチャントをして、トロールケイブを足早に進んでいった。トロールにエンカウントしても一匹二匹なら問題なく捌ける。大量に出てることはなさそうだ。あったらとりあえず逃げる。
二時間くらいかかったと思う、落とし穴まで来た。もっと急ぎたかったが、足場が悪いし、鍾乳石に膝をぶつけそうになるしで時間をとられた。
落とし穴にしたマーキングはそのままだ。念のため中を覗いたが、誰も落ちていなかった。
この先は状況が分からないので、慎重、と言っても普通に歩くペースで進む。とにかく落とし穴は勘弁だ。
少し歩くと、トロールの死体があった。頭から胸まで縦に斬れている。倒したのはアーベルだろう。
しばらく行くとまた一つ。これも剣で首をざっくり斬られている。トロールを一撃で斬れるやつは多分アーベルくらいじゃないかと思う。あともちろん俺もだけど。普通の剣じゃ斬れない。っていうか、他の冒険者の実力を全く知らないのでなんとなく今まで見た感じなんだけど。俺って他人への関心が薄い。
更に歩いていると二体の死体があった。片方はアーベルだが、もう片方は焼けている。炎熱の剣かな、レオか。剣撃じゃない燃え方もある、ビアンカなのかな。死体をひっくり返したら頭に刺し傷があった。つまりアーベル以外の三人でボコボコにしたんだろう。
進んでいくと落とし穴が何箇所かあったので、中を確認して、マーカーを置いといた。
そんな感じで歩いて行くと、やっと合流できた。
レオのパーティを入れて三パーティがキャンプしてる。
「兄さん! 来てくれたのか!」
「どうした? 何かあったのか?」
アーベルがしかめっ面をしながら言う。
「でっかいトロールがよぉ、斬っても斬っても再生しやがんだよぉ」
「でかいってどのくらいだ?」
「見たほうが早いよ兄さん」
レオについて行くと、キャンプから少し先に進んだところで洞窟が開けて、体育館くらいの広さの大広間になっていた。暗闇の中に大きなものが立っている。
俺は鞄から光る石ころを二つ取り出し、投げた。するとそこに、トロールをひょろひょろにして背を高くしたモンスターが浮かび上がった。頭の高さはビルの二階くらいだ。腕が異常に長い。地面につきそうだ。目が弱いのか、こちらには気づいていないようだ
「見たまんまトロールジャイアントだな」
「再生速度が半端ないんだよ」
アーベルとイザベルも見に来た。
「動きも速くて決定打が入らないんだよぉ」
「あんたは剣に頼り過ぎだから。ちゃんと修行しなさいよ」
「ファイアボールは効いたか?」
「そんな高度な魔法は使えないわ。あたしは冷気系だし」
そうなのか。俺が倒そうか。ガチンコ殴りあいを試してみたい気もするが、ファイアボールも試してみたい。しかしストレージ技を見せたくないし、何でもかんでも俺がってのはよくないだろう。
俺は鞄からファイアボールのスクロールを出した。
「これでどうだ?」
「やってみるわ」
レオが後ろのパーティに声をかける。
「おーい、今からリベンジするぞー」
どっちのパーティも空気を察していたのか、戦闘準備ができていた。
「んじゃあぁ作戦を言うぞぉ。ビアンカがファイアボールを撃つ。当たらなかったら逃げる。当たったら囲んでボコボコにする。やばくなったらぁ、俺かレオの合図で逃げろぉ。倒したら血は分配、他のドロップは早い者勝ちだあぁ。いくぞぉ!」
アーベルの号令でそれぞれが陣形をとる。ビアンカが叫ぶ。
「ファイアボール!」
大きな声を出すとトロールに気づかれそうだが、大丈夫だったようだ。スクロールが燃え尽きて、ファイアボールがトロールジャイアント目掛けて飛んでいき、胸部に当たった。瞬間、爆発が起こる。
――あれ? スクロールって燃え尽きちゃうんだ……?
俺がやったときと違うな。火の魔法だからなのかな……?
トロールジャイアントは上半身が火に包まれて暴れ出した。そこにレオが走って行く。アーベルがいくかと思ったが、一番槍はレオだ。炎熱の剣がトロールジャイアントの足首を斬って炎ををあげた。トロールジャイアントは片膝をついた。いつのまにか背後に回っていたカールが、トロールジャイアントの肝臓を刺す。人間ならこれで致命傷だ。
そしてアーベルが、高さが下がったトロールジャイアントの首を斬った。
――浅い
まだ息があるトロールジャイアントに、残りの二パーティが襲いかかる。モンスターは地面に倒れて滅多刺しにされ、それでもなお立ち上がろうとしていたが、アーベルの大きく振りかぶった一撃で息を引き取った。
「急げ! 血を採るぞぉ」
各々が容器やグラスに血を集め始めた。再生能力が高いからかなり高値になるはずだ。
レオが笑顔で話しかけてきた。
「兄さん、助かったよ」
「俺は何もしてないぞ」
ビアンカも少し興奮気味だ。
「そんなことないわ。ファイアボールのスクロールがなければ勝てなかったわ」
——落とし穴で死んでた冒険者のスクロールだけどな……
「よぉっしゃぁ、分けるぞ、パーティで三等分だぁ」
アーベルもうれしそうだ。当たり前か。残りのパーティAのメンバーが話しかけてきた。
「アーベル、俺たちはトロールジャイアントの死体をギルドまで持って行こうと思う。アーベルのパーティはどうする?」
「こんなの持って行けるかぁ?」
「四人で引きずって交代交代ならなんとか……」
「オーケー、俺たちはもう少し先にいくよぉ」
アーベルがやる気を見せる。
「勝手に決められてるけどいいのか?」
「うちのパーティはアーベルがいけるところまで行く決まりなのよ」
ビアンカもカールも異存はないようだ。俺はどうしようか……。
「じゃあ俺もついて行くか。ここまで来てまだ何もしていないしな」
準備が整ったところで、出発した。レオとカールが、さっき俺が投げた光る石ころを拾って、投げながら進む。他のパーティメンバーが一人ついて来たと思ったらサポーター、荷物持ちのようだ。
「兄さんがいれば安心だな」
「あぁ、オーガのときはすごかったからなぁ。でもまだ魔族を倒した強さを見てないぜぇ」
「秘密だ」
「つれねぇなぁ。あぁ、いますぐ魔族が現れねぇかなぁ」
それは俺も思う。さっさと終わりにしたい。
「待て」
先頭を歩いていたレオが止まった。
「また奴だよ」
トロールジャイアントがいた。ビアンカが困り顔で話しかけてきた。
「ねえ、ファイアボールはもうないの?」
「ある……渡しておくが、次は俺が殴らせてもらう」
どのくらいの強さか興味がある。勝てそうになかったら燃やせばいいんだし。念のためビアンカにファイアボールのスクロールを渡した。
「じゃあいくぞ」
俺はメイスのマジックアローの発動準備をした。小走りに近づいて、トロールジャイアントの膝頭をロングメイスで殴った。ダメージは与えたが、倒すまでいかない。そこからは殴り合いだった。とにかくトロールジャイアントの手が長い。フックをガードしたつもりでも後頭部を殴られる。ふっ飛ばされて距離が開くと不利だ。それにだけ気を付けた。防御しつつ足を集中的に殴った。ロングメイスの羽根が肉を抉る。が、直ぐに再生される。埒が明かない。しかし骨にダメージが蓄積されているはず。
メイスに仕込んだマジックアローを発動する。タイミングを計って膝頭に放った。と同時にストレージからマジックアローを五発、同じ箇所に当てた。
膝に六本の魔法の矢が刺さり、トロールジャイアントは膝をついた。その脳天に俺のロングメイスを振り下ろした。頭蓋骨を砕いた感触。しかしこれでは再生される。
知らぬ間にトロールジャイアントの背中に駆け上っていたカールが、トロールの頭を腕で抱き抱えて、短剣で首を何度も刺した。気道と頸動脈を潰されたトロールジャイアントは、うつ伏せになって地面に倒れ、動かなくなった。
――あれ? こんなに硬いやつなのに短剣刺さるの?
「さすがだなぁ、カール」
「剣に頼るな。技で刺すのだ。おまえは修行が足りん」
「へいへい、修行頑張りますよぉ。タクヤもすげえなぁ。結構殴られてたのに全然平気なんだなぁ」
修行の成果とエンチャントのおかげだ。
「ねえ、マジックアロー六発同時ってどうなってるの?」
魔術師のビアンカには当然の疑問だろう。
「マジックアイテムの機能だ」
「アーティファクトなの?」
「それはちょっとよくわからない」
アーティファクトってなんだ? 今度こっそり誰かに聞こう……。俺がエンチャントした武器だからアーティファクトってやつじゃないと思うが。魔法を数発同時に撃つのは複数のエンチャントをすればできるはず。六発が一気に撃てるかどうかは分からないが。
トロールジャイアントから血を抜いていたレオが声をかけた。
「革袋がいっぱいになった。今回はここまでにしないか?」
「そうだなぁ。そうするか」
「俺はもう少し先を見てから戻る」
「わかったよ。気をつけてな、兄さん」
俺はアーベルたちと別れ、警戒しながら先に進んだ。しばらく進んでからハウスに入った。
「ペプ、一人にしてごめんな」
「ナア」
ペプにごはんと水替えをして、俺もシャワールームで用を足した。そういえばあいつらはトイレはどうしたんだろう。もちろん道端だろう。もしかしたら俺が踏んでいたかも知れない。匂いはしなかったが。いやな想像をした。
ペプを連れて先に進んだ。光る石ころを五個放り投げたら、トロールジャイアントが見えたので、ペプをハウスに戻した。
——ファイアボール!
ストレージから撃ったいい感じの大きさのファイアボールは、顔面に直撃して爆発し頭部に燃え広がった。トロールジャイアントはそのうち倒れた。
——一発か……
さっきは膝をつかせるのにも苦労したんだけどな。弱点を突くとこういうもんか。レア物らしいので死体をストレージに吸い込んだ。
ペプを連れて更に進む。鍾乳洞のように切り立った岩でできた洞窟は、段々と岩肌が滑らかになっていき、岩の中を人工的に繰り抜いて穴を開けたような、ジメッとした道に変わった。幅は二トントラック程度だが、高さがトロールジャイアントの頭の高さくらいある。廊下のようだ。どこかの部屋につながっているのだろうか? 変わらず照明がないので真っ暗だ。もしこんなところで光がなくなったら発狂するし、死亡確定だ。想像すると怖い。俺は多めに光る石ころを放り投げた。
五十メートルくらい先で、石ころが壁にぶつかった。それにしてもそんなに遠投できるとは、元の世界にいたときは考えられなかった。ガキの頃はキャッチボールは得意だった。社会人になってから、いつのまにかボールをうまく投げられなくなっていることに気づいた。ただ投げることはできる。しかし、肘とスナップが効かないのだ。もちろんコントロールもガタガタだ。そのときはもう、仕事とゲームで慢性肩こりになっていた。ボールがうまく投げれるはずもない。
それが今は、高校生の時のように肩が動く。肘も手首も動く。肩こりもない。全身を使わなくても、ペプを左肩に抱いたまま右腕だけで遠投ができる。毎日の筋トレ、スパー、ヒールのおかげか。
一人感動していたところ、五十メートル先の壁の明かりの中に、背が高いひょろっとした影。ジャイアントが現れた。すぐにペプをハウスに逃がす。ジャイアントはトロールではなさそうだ。なんだかゴツゴツしてる。新種か?
点々と転がってる明かりを目で追ったんだろう、ジャイアントはこちらに気づいた。走ってくる。地面が揺れる。
俺はストレージから十発、矢を放った。トロールジャイアントでも頭にそれだけ矢が刺さったら即死のはず。しかし、頭部に当たったのに全て弾かれた。
――うそ! ファイアボール!
クリーンヒットして仰け反ったが、燃え広がらなかった。走ってくる。
——マジか!
段々とジャイアントの姿が見えてきた。体中に石の鎧が付いている。と言うより、皮膚が石でできているようだ。
——ストーンジャイアントか
見たまんまの名前を付けた。殴りあうしかないか。石は破壊したらきっと再生はしないだろう。
ロングメイスをくるくる回しながら待ち構える。映画などでよく見るあれだ。これは癖になりそうだ。この回転技を極めれば、飛んでくる矢やボルトを全て叩き落とせるようになるらしい。本当だろうか……?
駆け寄ってきたストーンジャイアントに、回転の慣性を加えたロングメイスの一撃を膝に撃ち込んだ。石が砕ける。身体ごと回転してもう一撃。今度は生身にヒットした。ジャイアントは膝をついた。と同時にパンチが振り下ろされる。避けた俺の顔を掠めた。
俺はメイスを突き上げて顎を殴った。浅い。しかし顔面の石は砕いた。俺を攫うように腕が飛んでくる。ジャンプで躱した。落下と同時にロングメイスを振り下ろす。ストーンジャイアントの額を石ごと割った。
そして石突を口に突き刺した。
——ソーン!
ロングメイスからチューリップの花のようなトゲが放出され、ストーンジャイアントの口の中で広がり、脳を破壊した。
死体をストレージに入れ、辺りの様子を伺う。ロングメイスを一度ストレージに入れてマナを充填する。念のため洞窟を少し戻って、敵の気配が無いのを確認してハウスに入った。
少し疲労感を感じる。人が多かったからか。気を使った。コミュ症なのに。もう夜なのかも知れない。ここで一泊することにした。
疲れたがすぐには寝付けそうにないので少し時間を潰す。使った武器のエンチャントと、最近よく消費している光る石ころの大量生産。マナが尽きそうになるまで、いろいろな光量の石を作った。合計で数百個溜まった。今までダンジョンの帰り道は律儀に石を拾って帰ってきたけど、これからは投げっぱなしでいいか。
牛肉のスープを飲み、ヒールエナジーを身体中に循環して瞑想した。落ち着いてきたので寝た。




