マウント
ゴブリン洞窟の前を通る道は、王都と東の隣国を結ぶ街道に繋がっている。街道をフォートモーラーが塞いでいる形だ。街道自体も太古からあったのだろう。
俺は街道に出て歩いていった。もう少し王都に近づいたら、いい感じの森を見つけてハウスに入るつもりだった。
俺の行く手を三人の男が塞いだ。そして後ろから二人の男が現れた。囲むように現れた。間違いない、山賊だ。
おそらくこの人数差でも余裕なんだろうけど、いまだに人間が相手だとドキドキする。俺は自身にプロテクションをかけた。
「おい、なんだこいつ、手ぶらだぜ?」
「ゴブリンの洞窟から出てきたのは間違いねえ。それなりにやるはずだぜ?」
「魔闘気使いか?」
なんか妙な単語が出てきた。洞窟からつけてきたのか。
前の三人は剣、剣、メイス。鎧はありきたりのレザーアーマーだ。悪者顔だ。後ろの二人は、剣と、素手? 同じくありきたりのレザーアーマー。
先制されるのも厄介だ。同時にかかってこられたらかなり困る。こっちから行くかな。俺は右端のやつに走り寄った。と同時に左端のやつが死ぬ。ノールックショット、矢が額に刺さった。剣を出して右端のやつに袈裟斬りに振り下ろすが、剣でガードされる。と同時にそいつの腿にボルトが刺さる。俺は右回りに回転して首を刎ねた。真ん中のやつは完全にびびってる。袈裟斬りでバッサリと斬った。
後ろのやつが剣を放り出して逃げた。俺の技を見られている。最初から逃がす気はない。やつの背中に矢が立て続けに三本刺さって、前に倒れた。
不思議なのは、最後の素手の一人が全く怖じ気づいてないことだ。ヤバそう。怖い。悪者顔だ。矢を撃ったら二本の指で止めてそのまま返ってきそう。ま、そしたらストレージに吸い込むけど。
俺は剣で斬りかかった。一撃目は腕で止められた。二撃目は躱され、三撃目は手のひらで止められた。
——マジか!
プロテクションなのか? 手のひらがなぜ硬い?
敵の攻撃がきた。俺の顎にパンチがヒット。重い。ヘルメットがないから頭は生だし。プロテクションがなきゃパンチで死んでたかも。やつのパンチと同時に、鎧で覆われていない太ももにボルトを撃った。刺さったことは刺さったが、普通はもっと刺りそうだ。
「お前も魔闘気を? イグレヴ王国の人間か?」
「なんだその国は?」
「お前は隣国の名前も知らないのか?」
「ここには引っ越してきたばかりだ」
「なるほどな」
こいつ脚は痛くないのか? なんかヤバいな。必殺技を使うか……?
俺は一歩踏み込んだ。その脚に蹴りを入れられ、俺は回転するように転んだ。剣を落とした。やつが俺に馬乗りになる。マウントポジションを取られた。ヤバい。やつは首を絞めてきた。
——石!
やつの後頭部にロックフォールがクリーンヒットした。その隙にやつを離して立ち上がる。っていうかこいつなんで死なないんだ。なぜ立ち上がれる。
落とした剣とやつを挟んで反対側になった。構わない。俺はむせながら、ストレージから炎熱の剣を出して斬りかかった。手のひらでガードされたが、炎が舞い上がる。やつの手が爛れた。これは効く。
やつは腰の小袋から何か出して、地面に叩きつけた。辺りは煙幕で見えなくなる。
——ヤバい。これじゃ飛び道具が来てもストレージに吸い込めない
煙幕が晴れるまで身構えた。やつはもういなかった。血の跡が続いていたが、すぐになくなった。やつが何をしてくるか分からないから追うのはやめた。
——煙幕ごとストレージで吸えばよかったな
反省点の多い戦いだった。っていうか死にかけた。プロテクションも首絞めには弱いのか。
俺は四人の死体と剣を吸い込んで、その場を離れた。
フォートモーラーの方へ歩いてすぐに森に入った。まだ他に仲間がいて追ってくる可能性もあったが、杞憂のようだ。俺はハウスに入った。
「ペプ、ヤバい敵がいたよ」
俺はローブと鎧を脱いで、座り込んで、やっと一息ついた。冷水を一気に飲んだ。ペプが寄ってきて顎を舐め始めた。
山賊四人はたいした物を持っていなかった。金ばっかりだ。ただの山賊だったのだろうか。一人だけ全く違ったな。
——魔闘気
やつが使っていた——使う物なのかわからないが——あれは、奴らが言ってた言葉からそう断定していいだろう。あれは、プロテクションと同じようなものだったのか。いや、もしかしたら全く同じものかも知れない。プロテクションでも手のひらで剣を止められるのか? パンチも痛かったな。あれもプロテクションの効果? 隣国の、イグレヴ王国? に関係してるのか?
うーん、考えてもわからん。冒険者ギルドで聞くか。
プロテクションは、なんだろう、手に集中するんだろうか? 俺はヒールと同じ要領で、プロテクション魔法のマナを右手に集中させてみた。できた、気がする。
——わからん
犬二号でも殴らなきゃわからん。今はまだ外に出たくない。部屋の中に二号を出したらペプが嫌がりそうだな。あとでにするか。
プロテクションは常時かけっぱなしにしておく方が良さそうだ。ダメージを受けなければマナは減らない。ちょっとずつは減るようだが、自然回復量の方が多い。
俺はリクライニングチェアーに身体を移した。オレンジを搾って氷を入れたジュースを飲む。落ち着く。そういえば、オレンジジュースをそのまま冷やした方が美味しいよな。簡単に言うと冷蔵庫だ。グラスかデキャンタにエンチャントすればいいかな。でも氷の分だけ多く絞らなきゃダメだな。絞るの結構面倒なんだよな。手がベトベトになるし。うーん、今のところは氷でいいか。
「ペプ、お楽しみタイムだよ」
そして、ゴブリンから頂いた宝箱を開く。じゃーん。中身は金、アクセサリー類、宝石類、また色付きガラスの欠片、そんな感じだった。本当に色付きガラスをどうやって入手したのか。もしかして結構メジャーなのか? 街では見かけなかったが。教会に行ったらステンドグラスがあるかな? そしてナッシングマジックアイテム。がっかり。
そろそろ、オマルに使ってる宝箱が汚くなってきた。中身は定期的に、たいていはスパーの前に穴を掘って捨てているのだが、宝箱は木製なのでだいぶ染み付いた感じになってる。今日ゲットした宝箱に変えよう。
古い宝箱は、どこかに捨てるとして、道端に捨てると通りかかったみんなが喜んで開けるだろうか。中身付きで捨てようか。ダンジョンの方がいいだろうか? やった! 宝箱だ! 開けたらうんこ。俺ならキレる。魔族が現れてダンジョンを汚すなと文句を言ったりするかも知れない。
アクセサリーの中にアンクレットを見つけた。これに今のアンクレットの魔法効果をコピーして身につけたら、効果が二倍になるんじゃないか? やってみた。
——わからん
外に出て走ってみないとわからん。うーん、走るか。
俺はフォートモーラーまで走った。
アンクレットは、つけても外しても一緒だった。全部外すと脚がめちゃめちゃだるくなった。つまり一個だけ効く。重複はしない。アクセサリーが増えるたびに強くなっていくチャラチャラジャラジャラ戦士になれるかと思ったのに。
フォートモーラーを抜けると、ハロン王国に帰ってきた感がした。実際ここが最後の砦だったのだろう。今は砦としては機能していないが。
フォートモーラーから歩いて、街が見えてきたところで森に入った。
可哀想な犬二号を呼び出し、殴った。二号の骨にヒビが入った。普通の状態でもプロテクションは強い。殴り合いでももう負けないんじゃないだろうか。さっき殺されそうになったけど。
二号は自然に回復した。マナ満タンだからな。次に、手にプロテクションを集中させてみた。うまくいったのでもう一回同じくらいの強さで殴ってみる。二号の骨が砕けた。
なんだろうこれ、手が硬いってだけでこれだけ破壊力が違うんだろうか? なんかこれすげえな。俺、もう武器いらないかも。あ、だからあいつは武器を持ってなかったのか。
二号を引っ込めて、骨先生を呼び出して、素手で戦ってみた。戦闘中にプロテクションを集中させるのはなかなか難しい。練習がいる。しかし、集中させても他の部位の防御がおざなりになることはないようだ。
ああ、これ、元の世界のマンガで見たことある。攻防力を上手い具合に配分して組み手して修行するやつだ。あのマンガの続き、もう読めないだろうなあ。続き、出てるかな……。
瞬間的とはいかないが、手のひらにプロテクションを集中すると、骨先生の木刀が砕けた。
——ありゃ
骨先生は殴って襲ってきたが、プロテクションがあるのでほとんど効かない。ストレージから剣を出して地面に落としたら、骨先生が拾って斬りかかってきた。真剣だ。これはスリルがある!
斬られても致命傷にはならないだろうが、頭部はヤバそうだ。こっちからもがんがん攻撃する。
しばらくスパーに熱中して、骨先生のマナが切れるまで戦った。




