鉄格子
目が覚めて、朝のルーチンをこなした。昨日さんざんスパーしたが、時間があって暇だったのでまたスパーした。スパーの時は、新しい鎧は着けない。汚れたり壊れたりしたら嫌だ。
王都に着いて、冒険者ギルドへ向かった。
「やあ、おはよう」
「おはようございますー」
「実は昨日、道で山賊に襲われてね」
昨日のことを話した。
「よく生きて帰れましたねー」
「敵がなんだか手負いっぽかった。助かったよ」
そのうちラッキーマンとして噂が広まるのだろうか。
魔闘気について聞いた。魔闘気というのは隣のイグレヴ王国のお家芸らしい。マナを使って身体を硬くする、攻撃と防御が一体となった技だ。マナを使うから一応、魔法らしい。ハロン王国では詳しいことは知られていない。多分、プロテクション魔法として使える俺の方がまだ詳しいだろう。
イグレヴ王国は、まさに今、ハロン王国ときな臭い関係になっている、東の隣国で、そこの戦士がハロン王国にきて、偵察や冒険者減らしをしている噂があるとのこと。戦争が始まれば冒険者はそのまま傭兵になる可能性が高いからだ。
——あの山賊たちも戦争になったらハロン王国の傭兵になったんだろうか?
そうなると、山賊を指揮してハロン王国の冒険者を襲えば、敵の戦力を削ぐことになる。なんていいアイデアだ。俺も真似しようと思ったけど、戦争に参加する気はないし、ハロン王国の国民でもないからやめた。っていうか、悪者がすることじゃんか。
しかしこれ、実質、戦争状態だな。仮にイグレヴ王国が指揮してるとして、犯人がバレたら即開戦だよな。国の人間以外でこんなことするだろうか? 僕、お国のために自ら率先して山賊やってきますね! みたいないい子ちゃんはいないだろ。本当の山賊以外は。
レオたちはまだ帰ってきてないのを確認して、俺はギルドを後にした。
「ペプ、戦争だってよ。世界が滅亡するってのに、いい気なもんだよなあ」
「ナア」
ペプは俺の顎を舐め始めた。俺はお腹を撫でてあげる。至福の時間だ。
次に俺は魔法道具屋に行った。
「すまない、このアンクレットを売りたい」
「あら、この前のと同じタイプのアンクレットですねー。被ってしまいましたか? アンラッキーですねー。金貨三枚で買い取りまーす」
いい値段になった。身に着けるだけで一般人がオリンピック選手になれるアイテムだ。金貨数枚ならむしろ安いもんか。マナが切れたら魔術師ギルドで充填してもらえるんだっけ?
「ああ、それで頼む」
「宝石が付いてるタイプだともっと価値がでるんですけどねー」
「ほう、なんでだ?」
「マナが多く充填されていて長持ちだからでーす」
——あれ? もしかしてそういうアクセサリーにエンチャントすればいいの?
俺は掘り出し物がないことを確認して店を出た。
さて、今、俺が強くなるためにやるべき事は、スパーだな。買い物して森へ行くか。エンチャントも見直したいなあ。
歩いていると、教会が見えた。ステンドグラスを見に行くか。
と思ったら、前方からシスターがやってきた。
「ちょっと、探してたのよ? あれ? あなたタクヤだよね?」
「そうだよシスター。どうした? ここの教会も同じ宗派なのか?」
「なんか、初めて会ったときと顔が違うよ? 若く見える」
「ペプのおかげさ」
テキトーに答えた。シスターはまたゾンビ退治に行きたいという。
「またなんか厄介なのか?」
「なんかね、怪しいのよ。場所はこの前の洞窟よ」
「仕方ない、付き合うよ」
馬車をチャーターしようと思ったが、乗合馬車の時間にぴったりだったのでそっちにした。俺たちはヨーギに向かった。
馬車の中で魔闘気を手に集めたり足に集めたり頭部に集めたりと訓練をした。暇つぶしにもってこいだ。
ヨーギに着き、冒険者ギルドの前を通り、北の方に向かう。森の中の小路を十分ほど歩いて、以前にも来た洞窟に着いた。
「いいか、火は使うな。俺が火をつける。ピンチのときは逃げろ」
「もちろんよ」
本当に分かっているんだろうか? 心配だ。
俺は光る石ころを光源にして洞窟を進んでいった。大部屋の手前に、以前はなかった鉄格子の扉がある。かんぬきがかけられている。
シスターが言うとおり、中にはゾンビがいた。俺たちに気づいて襲おうとしてきたが、鉄格子を開けられずにおあずけ状態だ。ガンガン叩いている。
「これは……このまま火をつけようか……」
「まかせて!」
シスターが本当にやろうとした。
「ちょっと待て!」
鉄格子がひしゃげてきた。破られそうだ。
「いったん逃げるぞ」
シスターを引っ張って、洞窟の外まで逃げた。後ろから、ガシャン!と、扉が壊れて壁に叩きつけられる音が聞こえた。
広くて明るい所に出た。ここで迎え撃つ。と思ったけど、ふと思いついたことがある。
「もう一回、洞窟に入るぞ」
「ええ? 噓でしょ?」
俺達はゾンビに追われながら、洞窟前で大きく円を描くようにして、方向転換して洞窟へ逃げた。
洞窟は狭い。素手で戦いたいところだが、感染の危険性があるので剣を使う。ゾンビはこの一体だけだろうか? 援軍が来ると厄介だ。
やや狭い幅広の剣でやりあう。ゾンビはありえないほど硬くて、刃が通りにくい。力も強く、こっちのガードごと飛ばされる。不利ということはないが、噛みつきがヤバい。
俺はストレージから炎熱の剣を出した。そして……
——石!
ロックフォールでスーパーゾンビの動きが止まる。その隙に俺はジャンプして、脳天に剣を振り下ろした。
——ボワッ!
スーパーゾンビの頭は炎に包まれ、脳天が凹んで目玉が少し出た。それでもまだ動いていたので、喉に剣を突き刺して脊髄まで焼いた。
勝ったことは勝ったが、強かった。こんなのが数匹現れたら逃げるしかない。あとで一人反省会だな。
「ちょっと、何その剣。すごいじゃない。隠し持ってたの?」
「そんなことより、このゾンビやばかったぞ。あと、まだ外には出るなよ。火も付けるな」
「どういうこと?」
「前回は罠だったことは気づいてるよな?」
「ええ……うん、まあね……」
まさか、気づいてなかったのか……。
「今回もその可能性がある。外で敵が見ている可能性がある」
「ちょっと待って! そんな!」
「騒ぐな。それより奥を調べよう。しばらくは外に出ない方がいいから」
恐る恐る奥の部屋を調べた。怖いので光る石ころを投げまくった。そのおかげか、危うく見落としそうになったモノを発見した。
「これは……ポーションの空き瓶だ。俺が魔術師ギルドから頼まれて配達したものだ」
と、思う。同じようなギルド製のポーションの可能性もある。しかし、ゾンビに肉体強化ポーションを飲ませてスーパーゾンビにしたと考えれば納得がいく。俺が飲んだ肉体強化ポーションの空瓶をストレージから出して見比べてみたが、同じものなのは間違いなかった。
「どこに配達したのよ」
「王都のなんとか伯爵だ。なんだっけ? フライ……フライ……」
「フライターク?」
「そう! フライターク伯爵」
「やっぱりね」
知ってたのか。
「何そのやっぱりって」
「なんとなく分かってたのよ。なんとなくね」
要領を得ない。まあいいか。それより。
「んじゃあ今から外に出るけど、いいな?」
「いいって何がよ」
「誰か待ち構えてるかも知れないし、こっそり隠れてこっちを見てるかも知れない」
「ゾンビはどうするのよ」
「油をかけて火を付ける」
「そ……そんな方法があったのね」
普通の方法だ。油を用意するだけだ。
俺たちはなるべく平静を装って洞窟を出た。声には出さないが、やったねって感じを出してはしゃいでる振りをしつつ、周りを見た。高台になった丘の上に誰かいるみたいなんだよなあ……。
——リッチのファイアボール!
とりあえず撃ってみた。丘の上の木に火が付いて燃え広がった。
「ちょっと、あなたもいい魔法が使えるのね。っていうか何、詠唱なし?」
「マジックアイテムだ」
誤魔化した。
「気のせいだったか、逃げられたのか」
逃げられたのなら手の内を明かすべきじゃなかったか。失敗かも。
「それより、燃え広がってるよ?」
俺は水をかけたり、木をストレージに入れたりして火を消した。色んな物をストレージに出し入れできることがシスターにバレた。大失敗だったかも……。
「あなた、なんか、いろいろできるのね」
「神の奇跡だ」
ペプのおかげにした。
歩いてヨーギまで行って別れた。お礼とかはない。不思議な関係だ。都合よく使われてるだけな気もする。アッシー君とかメッシー君とかの気持ちかも。せめてゾンビがお宝を持ってたらいいのに。
もう日が暮れそうだ。王都へ戻りたかったが、乗合馬車が行ってしまっていた。ヨーギでは馬車はチャーターできない。できても夜は断られるだろう。
ヨーギの街外れのよくキャンプをしたところに行った。でっかいオレンジの木が立っていた。でかすぎて実に手が届かない。以前よりさらにでかくなってる。ハシゴが欲しい。明日エリース村に行って作ってもらおうかな。
ハウスに入って、一杯飲んだら眠気がやってきたのでそのまま寝た。最近、疲れることばかりだった気がする。




