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指輪

 目が覚めて、朝のルーチンをこなした後、エリース村へ走って行った。なんとなく時間がもったいないと思ったことと、体力向上のためだ。


 途中で、人目につかない森で骨先生とスパーをした。俺は素手、骨先生は真剣だ。ちょうどいいバランスかと思ったら、骨先生がよく砕けるようになってしまった。骨先生はただの骨だからな。修復を待つ時間がダルい。


——骨先生にプロテクションをかければいいんじゃね?


 ナイスアイデアだった。っていうかすぐに気づけよ俺……。


 朝の時間を有意義に使った。



 エリース村のはずれに植えたオレンジも、とんでもない大きさに育っていた。


「やあ、エリック、あのオレンジはどうやって収穫してるんだ?」

「やあ、タクヤ。意外と早く帰ってきたな。オレンジはハシゴをかけて収穫してるよ」

「ハシゴを一つくれないか?」


 もらった。


 一泊していこうかな。まあ、寝床はストレージハウスなんだけど。エリックに大木を三本出してやった。発注している家はまだできてなかった。じっくり取り組んで欲しい。耐久性は要らないんだけど。


「エリック、ブドウに興味はあるか?」


 俺は使ってない畑に案内してもらった。


「最近はこの村も人が減ってね。戦争だ、冒険だ、と若い者が目を輝かせて出て行っちまう。おっと、お前も冒険者だったか。っていうかお前、若返ってねえ?」


 驚いたのか妙にくだけた感じを見せた。嫌いじゃない。


 俺は畑をさっと耕し、ブドウの種を蒔いて、ヒール水をかけた。蔓が巻き付く紐の設置はエリックに任せた。巻き付ければオレンジの木のように大きくなっても、収穫が大変にはならないはず。せっかくだからこの畑を広げられるように、隣接する森の木を抜いておくことにした。最近、疲れているのに気が張ってるのか、眠りが浅い。木を何本か吸い込んで、ハウスの中で卒倒した。



  ◇◇◇◇◇



 結局あまりよく眠れていない気がする。マナの最大量が増え、相対的にマナの時間あたりの回復量が増えたせいで、大木を吸い込んでも長時間は卒倒しなくなった。まあ、いったん深く眠れたのでいいか。卒倒からの目覚めは悪いが。落ち着けたので、少しゆっくり考える時間をとってみる。


 考えることは強敵のことだ。


 昨日のスーパーゾンビ、どうやって生まれたのか、肉体強化と合わせてなにかしたのは間違いない。やっぱり、人を殺してゾンビにしてるんだよな。すげえ悪者が裏にいるのか。伯爵なのか。シスターは何か知ってるようだが。


 って、ついつい陰謀チックな方を考えてしまうが、俺の課題としてはスーパーゾンビをもっと楽に倒すことだ。あれを生み出す方法があるってことだよな。片っ端からやっつけないと。スーパーゾンビくらい楽に倒せないと魔族は倒せないよなあ。そうじゃないならスーパーゾンビに魔族を倒してもらえばいい。


 あと、やっぱり魔闘気の男のことだ。強いのはもちろん、相当戦い慣れしてた。逃げる準備もしていた。俺もプロテクションが使えることを悟ると、サブミッションを仕掛けてきた。対策も研究してるってことか。


――強くなる必要がある。


 殺されかけたんだ。待ったなしだ。


 当面は、ダンジョンに潜るよりもスパーリングだ。俺は攻防力の移動の訓練を重ねる必要がある。骨先生が硬くなったので、魔闘気の男とやったときのように、死角から矢を放つシミュレーションもしてみよう。


 いや、それだけじゃなく、魔闘気の男に俺の必殺技ロックフォールが効かなかった。効果はあったが、必殺技は決まったら死んでくれないと必殺じゃない。何か、いろいろ強化して新しい必殺技を編み出す必要がある。必殺技は男のロマンだからだ。


 今、持ってる魔法や武器を組み合わせて少しでも強くしておこうか。というか、最近はじっくり見ようと思っても、なんかいろいろ邪魔が入って見れなかった気がする。ゴブリンとかゾンビとか。やっと落ち着いた気がする。エリース村だからか? ストレージハウスの中はいつも一緒だけど、そういうの関係あるのかも知れない。


——よっしゃ、じっくりやるぞ


 俺は起き上がってリクライニングチェアーに寝そべり、氷水を飲みながら、ペプを腹に乗せて撫でた。


 まず、簡単なところからいくと、新しい鎧へのプロテクションの付与だな。俺は手のひらにプロテクションの魔方陣を浮かべて、鎧の胴体、腕、脚の五カ所に貼り付けた。これで、素の俺のと鎧で二重のプロテクション。うーん、鎧である必要がなくなってきたかな……。俺の頭に思い浮かんだのはコートだ。黒の、チェーンがちょっとだけジャラジャラしたやつ。ちょっとだけってのがミソだ。あと羽根がついたやつ。カラスがイメージの。邪魔かな……。暑かったらアイスのエンチャントをすればいいだろう。腕と脚はもったいないから今のをそのまま使うつもりだけど、ハードレザーじゃなくて普通のレザーでもいいな。脚はロングブーツでいいし。模様にもこだわりたいな。特に何がいいってわけじゃないけど、無地は地味すぎるだろう。あ、なんか夢が広がってきた。いや、今はそういう趣旨じゃない。


 なんかちょっと興奮してきてペプを抱きしめた。ペプと接触する表面積を最大にする、それがいつもの俺の命題だ。両腕は当然、顔と腿も使ってペプを抱いてその感触に浸る。幸せすぎる。



 今、完全に間違った方向に行ってた。俺を強くする話だ。死活問題だ。


 次のテーマは、敏捷性強化のアンクレットだ。重ね掛けできないのはこの間、実験済みだ。次に考えるのは、脚だけなのかってことと、もっと強化できないのか? ってことだ。


 IDEでコードを見てみると、以前は全く分からなかったが、今は敏捷性を強化するコードだと分かる。なぜなのか説明できないんだが、なんか分かる。分かるようになったきっかけは鑑定だと思う。正確には、鑑定結果を聞いてからだ。そして、強化パラメータの記載場所が分かった。今は付けっぱなしでも一週間は保つ。効果を倍にしてみようか。毎朝のルーチンでマナを充填してるから、効果七倍でもいいくらいだが。


 そして、どうもこの敏捷性強化ってやつは筋力強化とは別物らしい。肉体強化ポーションを飲んだ時は、脚ももっとパワフルになった。敏捷性強化で脚力も確かに増加するんだが、筋力ではなく動きの速さや正確性といったところ、アジリティってやつだ。その他の強化アイテムを見つけるのが俺の直接のパワーアップに繋がるはず。インテリジェンスとかもあがるだろうか? とにかく頭がよくなりたい。ガキの頃はそう思ってた。あとはとにかくイケメンになりたい。今はそれは置いとくか。


 ストレージの中の金銀財宝から腕に付けられそうなものを探してみたが、こんなにいっぱいあるのにブレスレットはなかった。腕輪はあるのだが、宝石が入ってない。宝石がある方がマナの充填ができるって聞いた。例えば今のアンクレットの四倍の充填ができるとして、効果を四倍にしても一週間、今のと同じだけ保つ、そういうことのはず。効果とマナ消費量が正比例するかは分からないんだけど。アンクレットにも小っちゃい宝石、多分、ターコイズが付いてるんだが、でかい方がいいはずだ。


 指輪が何個もある。これの効果範囲を全身にすればいいんだろうか。アンクレットは無駄になるが。マナ消費量との兼ね合いだな。試してみるか。


 俺はそれほど目立たないがしっかり宝石が入ってる指輪を選んだ。使うことも考えて。右手の小指にぴったりのものだ。ちなみに、左手の薬指には結婚指輪が填まってる。これだけは外せない。あ、でもこれにもエンチャントできるのかな。


 IDEで、選んだ指輪とアンクレットを比べてみたら、マナ充填量が全然違った。だいたい十倍くらい。俺は指輪に敏捷性アップをエンチャントして、IDEで効果範囲を人間の全身に設定した。この設定画面は、不思議と、人間の指に装着する前提で人間の影が出てくる。俺がIDEを設計するならこうするって感じのインターフェースになってる。ところどころぼやけてるが。強化の効果は倍に設定した。


 指輪を填めてみると全身に、特に腕に力がみなぎるような気がした。おそらく効果が重複して意味がなくなっているアンクレットは外した。外しても指輪の効果はそのままだ。試しに指輪を外すとだるくなった。特に脚が。依存性と中毒性がある。元の世界で会社のデスクに、お腹が減った時のためにチョコレートを入れておいたが、お腹が減ってなくてもちょいちょい食べてしまって、すぐ無くなった。そのくらい依存性と中毒性がある。


——今強化できることはここまでか


 俺は他に、持ち手が熱くならないタイプの炎熱の剣とアイスの剣を作った。これらも使用回数を犠牲にして効果を高めにしてある。それと、マジックミサイル、アイスボール、ファイアボールが発射されるメイスを作った。メイスは敵を殴るわけじゃなく、発射してストレージに入れるためのものだ。ぶっちゃけなんでもよかったし、宝石の方がマナが多く充填できるんだが、なんとなく杖っぽいやつから発射したかった。あと、ゴブリンからいっぱいメイスをゲットしていたから。


 卒倒明けでマナが十分に回復してなかったこともあって、もうすっからかんだ。



 必殺技については、名案が思い浮かばなかった。とりあえずロックフォールについては、今仕込んでる石より約二倍の大きさの石を仕込んでパワーアップすることにする。


 まとめると、


・ロックフォール仕込み直し

・魔闘気の訓練

・マジックアイテムの探索、または購入

・かっこいいコートをオーダーする


 って感じか。簡単に言えば、スパーして納得したら王都いって服屋に行った後ダンジョン攻略だな。


 

 外に出たら夕暮れ時だった。エリックが話しかけてきた。


「この村に住んでもいいってやつがいたら連れてきてくれ。お前の紹介なら信用する。たまに木を抜いて畑を広げてくれさえすれば、村はいくらでも大きくできる」


 木を抜くのって、結構マナがいるんだけど、まあいい。贔屓の村が発展すれば嬉しい。


 その日はささやかに宴会をして、グリフォンの話などした。ささやかだったのは、しばらく来れないと言っていた俺が意外と早く帰ってきたからだろう。グリフォンで思い出したので、牛肉を振る舞った。そしたら村人が湧いてきて、大宴会になった。



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