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木の扉

 昨夜は王都の外でハウスに入って寝た。もうエミリーはうるさいことを言わなかった。しかし、宿で寝れるのにわざわざ野宿を選んだことで、まだ何か隠してると思っているらしい。実際その通りだが。ストレージで物を出し入れできる事はバレても、ストレージハウスに入れる事だけは絶対に秘密だ。俺の最後のセーフティだ。


 朝のルーチンをこなす。昨日確認したように、このルーチンで使ってるヒールに若返り効果がある。毎朝ペプにもかけることにしよう。


「ペプ、若返りのおまじないだよ」

「ナアア」


 仰向けにして、ヒールのついでにお腹を触る。指の間にお腹の毛を挟み、わさわさする。ペプが気持ちよさそうにする。これも朝のルーチンに加えることにしよう。


 俺にかけるヒールは若返り効果を少し下げた。少年に戻って人生をやり直したい、元の世界にいた時はそう思うこともあったが、もう少年になる気はない。


 まあしかし、実際に肉体は若返っているが、これで寿命が伸びるとは思っていない。筋肉と骨以外は自己治癒しないだろうから、見かけ以外のところの、老化は防げないと思うし、そもそも病気になったら死ぬ。ヒールやヒールの殺菌効果で病気も治ってくれればいいとは思う。風邪くらいは治るかも知れない。しかし、癌は微妙な気がする。人間の身体はちょくちょく癌細胞が発生してるらしく、それを撃退する仕組みが備わっている。ヒール魔法でそういう免疫機能が強化されるか分からない。癌以外にも病気はたくさんある。特に、無理矢理肉体を弄ってるわけだから、免疫系とかヤバいことになってそう。逆に寿命縮んでるかも。



 この世界にも喪服はあるだろうか? あるか。教会があるし。俺はいつものローブが黒いのでそのままだ。いつもどおりペプを肩に乗せて、エミリーと合流してあの召喚者の埋葬をする。


 彼はもしかしたら、無理矢理召喚した魔術師ギルドを嫌ってたかも知れないし、ダンジョンも見たくないだろうから、王都を西門から出て、近くの丘の上の木の根元に埋葬することにした。


 穴を掘って、黒焦げの死体を置き、油をまいて火をつけた。燃え尽きてから土を被せた。木の枝を十字にして墓標にした。何か印にしたかったが、遺品がない。彼の名前すら知らない。丘の上の木が墓標の代わりになればいいと、ヒール水をかけておいた。


 

 エミリーを馬車の発着場まで送った。ギルドへの報告はエミリーに任せた。


 さて、どうしよう。って、強くなってダンジョンに潜って魔族を倒すしかないのか。ダンジョンに潜りながら強くなってもいいのか。それはやろうか。でも、戦争とか魔術師ギルドの都合とか、それは知らないな。


 しかし、久しぶりに人と会話した気がする、疲れた。まだ朝だけど。今日は休養日にしよう。休養っていうか、装備を調えよう。鎧ができあがるし。


 俺はとりあえず防具屋へ向かった。



 防具屋には既に俺のオーダーした鎧が届いていた。ハードレザーアーマーだ。革を重ねて硬く固めることで、軽量なのにかなりの防御力になる。俺のは肩などの可動部分を通常の革で作った、動きやすさ重視のものだ。そして黒だ。ブラック。ブラックハードレザーアーマー。かっこいい。


 新しい鎧は、腕と脚は別のパーツになっている。腕の外側がハード、内側は革だ。脚はブーツの上から着けられるレガースタイプだ。脛とふくらはぎがハード、可動部分は革。ボディはスカートタイプ、パンツはない。急所打ちを防ぐにはスカートタイプがいいんだそうだ。そこだけは防ぎたいという俺の要望が形になった。


 革鎧だがかなり硬いので、だいぶ防御力が上がる。可動部が革だが、これはプレートを合わせた鎧でも一緒なので、しょうがないところだろう。まあ、プロテクションもあるし。ん? プロテクション……? エンチャントできるのか……?



 俺は街の外の森に向かう途中で冒険者ギルドに立ち寄った。


 俺が出した依頼がない。剥がされてる。誰か引き受けたんだな。俺は受付のオネーチャンに話しかけた。


「グリフォンの件はどうなってる?」

「今朝パーティが向かいましたー。新しい剣ででかいモンスターを斬ってみたいとか言ってましたー」


——アーベルか……


「わかった。ありがとう。他に何か変わったことはないか?」


 社交辞令的に聞いてみたら……


「ゴブリンの動きが激しいですねー。住民に被害が出ていますー。誰かがゴブリンの部族の一つを潰して、ゴブリントーテムを奪っちゃったらしいですー」

「ゴブリントーテム?」

「ゴブリンの部族のシンボルですー。ゴブリンにとっては大切なもので、これを奪い合ってちょくちょく部族間の抗争がありますー。今回は誰か持って行っちゃったから、他の部族のゴブリンが探しているんでしょうねー」


——俺のせいだ…………


 掲示板の依頼を見たら、近くのゴブリンの洞窟で、ゴブリンの間引きの依頼があった。フォートモーラーの東の方だ。ゴブリンの耳を集めるのはなんかいやなので、報酬はいいや。トーテムを返しに行こう。返すというか、奪ってきたのとは別の部族のとこだけど。あとはゴブリン同士で奪い合いをしてもらおう。ついでに間引きすっか。お宝があったらもらってくるか。


 俺は冒険者ギルドを出て、ゴブリンの洞窟に向かった。



 街から離れたところでハウスに入った。


 新しいアーマーを着る。腕と脚はつけっぱでボディだけストレージから直接着たり脱いだりって感じかな。ハウスの中では全部とってもいいかな。街の外では着たままでもいいような軽さだな。


「ペプ、新しい鎧、どうよ?」


 ペプは新しい鎧の匂いをくんくん嗅いで、シャーって言った。



 俺はIDEを出して、ゴブリントーテムのエンチャント魔法を俺の呪文エリアにコピーしておいた。内容は全く理解できないんだが、役に立つ日が来るかも知れない。念のため。ついでに、すごい魔法の杖と、剣の耐久性アップもコピーしておいた。事が済んだらじっくり見たい。


「ペプ、なんか、俺のせいでゴブリンが暴れてるらしいから、なんとかしてくるよ」

「ナア」


 矢の補充とかアローの補充とか、いろいろやりたいことはあるけど、被害が出てるそうなので先に潰してくる。まあ、無双できて余裕だと思うし。



 ゴブリンの洞窟はすぐにわかった。この部族も洞窟の扉の外に、食べかすやゴミを散らかしている。別の生物が片付けてくれるのだろうか? カラスとか? それにしても汚れは掃除しないと取れない。掃除しても残る。消毒魔法をかけたい。


 ペプをハウスに入れて、気合を入れて突っ込むことにしたが、ゴブリンの扉はゆっくり丁寧に開けた。これからもここに住んでいただくために、蹴破ったりしない。ああ、そういえば、扉を蹴破るのを一回やってみたかった。ドラマとか映画とか見てて、刑事が扉を蹴破るシーンがある。あんな簡単に破れるものなのかと、そんなわけないのはだいたい分かるが、木の扉なら俺でもいけるんじゃないかと思って。でも壊していい扉など、元の世界にそうそうあるわけがなく。っていうか今もだめだけど。洞窟内に扉ないかなあ。あったら蹴破ろう。一回閉めてでも蹴破ろう。でも今は筋力が上がってマジックアイテムで強化もしてるから、簡単に破壊できるんだろうなあ。


 ゴブリンは夜目が利くので、洞窟内の松明が少ない。あるにはあるんだが、かなり暗い。そんなわけで、いつもどおり光る石ころを投げる。


 ゴブリンがかかってくる。あまり殺さないようにしたいが、武器を持って飛びかかってくるやつはやっつけないとしょうがない。一応、間引きに来てるから始末しておくか。


 かかってくるやつを捌きながら早足で進んで行った。分かれ道は、奥義右手の壁伝いを使った。すると大部屋に辿り着いた。前回、ゴブリンシャーマンがいた部屋と似ている。ここがゴールかな? 部屋の真ん中には樽や箱が雑多に置かれていた。


 ゴブリンに追われながら、部屋をぐるっと回ると、奥にゴブリントーテムと宝箱を見つけた。ゴブリンシャーマンもいた。魔法を放ってきた。おそらくファイアショット。ストレージに吸い込んだ。


 俺はストレージからゴブリントーテムを出して、頭の上に掲げた。ゴブリンどもの視線が集まる。それを部屋の真ん中に放り投げた。宝箱をストレージに入れて、走って逃げた。念のため、道々に投げた光る石ころを回収する。証拠隠滅だ。


 洞窟を出て後ろを振り返ったが、追っ手はいないようだ。俺はその場を離れた。





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