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地球

 魔術師ギルドに着いたのは、多分おやつ時だ。この世界の人たちはおやつってものを知らなそうだ。そもそもスイーツを見ていない。そういえば砂糖を見てないかも。スイーツがあるわけがない。フルーツはめっちゃ甘いのでそれでいいのかも知れない。ペプはおやつは要るかなあ?


 ペプの生前は、えさはカリカリを出しっぱなしで、補充しておくと上からカリカリが落ちてくる餌やり器とかも使ってて、おやつどころかご飯をいつでも食べることができた。あればあるほど食べる犬とは違い、好きなときにちょっとずつ食べるタイプだと思っていたが、少し肥満気味で、肥満が原因と言われる病気で死んでしまった。今、生き返って一緒に居られることが本当にうれしい。


 そういや元の世界では、その後にスティックタイプの小袋に入ったウェット状の猫のおやつが流行った。マタタビよりも喜ぶあれはいったいなんだったんだろうか? 麻薬だろうか? ペプにもあげたいようなあげたくないような。そういやマタタビの木ってここにあるんだろうか? 枝と実と顆粒は知ってるが、マタタビの木が生えているところを知らない。


「ペプ、その辺どうよ?」


 ペプに話しかけると、俺の顎を舐め始めた。



 ペプに舐められながらギルドに入ると、ヴァレリウスとエミリーがいた。


「タクヤか。おや、それは……」


 隠しようがない。折れ曲がった戦杖を持ってきた。


「謝りに来た。すまない。大変気に入っていたのだが、壊してしまった。もらったばかりだというのに……」

「気にしないでくれ。脆い武器を贈った私が恥ずかしい」


 ものすごいことを言われた。隠しといた方がよかったか。


 エミリーが不思議そうな顔で言う。


「いったい何と戦ってそのようになったのですか?」

「ちょっとトロールと……」

「え……? トロール……? お強いんですね」

「肉体強化のポーションがあったので……」


 それは嘘ではない。あれがなければ折れなかっただろう。なかったら別の方法で勝ってた。マジックアロー二百発とか、大岩落としとか。


「杖が君を守って壊れたのだとしたらとても誇らしい」


 この人、言うことがいちいち大げさだな。ちょっと気持ちいい。


「トロールが倒せるなら、お願いしたい依頼がある。オーガ討伐なんだが。報酬とは別に肉体強化のポーションを付けるので引き受けてくれないか?」

「わかった」


 気をよくしていたので何も考えずに即答した。いいのか?


「エミリーをサポートに付ける。というよりも、彼女に実戦を体験させて欲しい。足手まといだが連れて行ってくれないか?」

「わかった」


 実質は監視、実態調査だな。断れないってのが分かってたので、怪しまれないように即答した。オーガってきっとでっかいんだろうな。どうやって倒すかな。ストレージ魔法なしで。あ、道中でハウスにも入れないのか。ペプには常にプロテクションをかけるようにしてるから、外に出してても大丈夫だと思うが、ハウスに入れないと水やトイレが面倒だよなあ。


 っていうか、疑いの目で見られたら、今、俺、テントすら持ってない。え? この人、どうやって生活してるの? 武器も折れたばっかりだし、この人確か魔法使えないよね? 魔法使えないのに魔術師ギルドに出入りして。ご飯とか水とかどうしてるの? 猫のトイレは? あ、本人のトイレは? どうするの? いやー! 考えたくない。そんな感じか。エミリーの頭の中は。


 こういうときの方法は一つしか知らない。プレゼント作戦による懐柔だ。なにしろ貴金属ならすんげえ持ってる。この建物を出たら、ストレージのポケットの中を一つ一つ吟味しよう。


「場所はどこだ?」

「王都の北門を出て北西、クエノス山の北にある。貴族の別宅だ」


 冒険者ギルドに依頼するとならず者が別宅を荒らすのというので、魔術師ギルドに依頼がきた。貴族にとっては冒険者も盗賊も一緒らしい。


「わかった。急ぐか」


 今なら最終の乗合馬車に間に合うはずだ。王都で一泊して準備できる。なんか、聞きたいこといっぱいあったはずだけど、急いで魔術師ギルドを出た。



 王都に着いたときは日が暮れるころだった。以前に馬車が到着したときよりも薄暗い。日が短くなっているんだろうか。とすると、四季がある。ここはどこかの星、惑星ということだろう。地球なのか? 地球と同じく太陽が一つで月も一つあるが。あれ、もしかすると、別の星に飛ばされて、太陽はともかく、月が一個だけ、地球と同じ大きさに見えるってことはものすごい低確率、というか奇蹟なんじゃないだろうか? 見えてる月の大きさと距離が地球のそれと一緒ってことはわからないが。もしかするとすげえ遠くにすげえでかいかも知れない。話が逸れた。月の公転周期、二十八日、計測しないと分からないがこれも同じだったら、ここは地球だと断定していい。月の公転ってどんなんだっけ? ってところが俺には分からないんだが……。


 まあいいや、ここは地球。そうです、地球です。でも異世界なんだから、なにもかも違います。


 でも、地球だと断定するだけでいろいろ捗る。時代によるけど大陸の配置がわかる。中世なんだから、俺の知ってる元の世界の世界地図と一緒だろう。地軸のずれからくる四季があること、公転周期が三百六十五日であること、自転周期が二十四時間であること、この辺も確定する。気候のパターンも分かるし、なんだったらどっから石油が沸くかもわかる。


 ま、本当に地球ならな。直近の問題は、日暮れにエミリー嬢と一緒に王都に着いたけど、この先どうすればいいかだ。貴族のお嬢さんではないよな。そう言われてもおかしくない顔立ちだけど。


「エミリーは宿でいいな。俺はペプと一緒だから野宿する」

「え? 宿じゃないんですか? テントも持ってないじゃないですか」


 いきなり激しいツッコミきたー! そうと知ってれば魔術師ギルドに入る前にテント持ってきたよ!


「慣れてるから大丈夫だ」

「困ったわ。片時も目を離すなと言われているんです」

「ははは……大丈夫だ、逃げたりはしないよ」

「それは心配していません。タクヤさんはあたしを置いて一人でこっそりオーガを倒しに行くから絶対に目を離すなって言われているんです」


 え? それ言う? 俺に言う? っていうか誰がそれ言った? ヴァレリウス?


「わかった、それは絶対しない。約束しよう」

「え? でもなんか怪しいし」


 この娘、なんか見た目と違う。怖い。


「……わかった、宿を二部屋取ってくれ。ペプは隠して連れて行く」


 妥協してもらえたようだ。一部屋にするとか言われるかと思った。俺は既婚者なので困る。


 ペプを部屋に置いてきたていで、宿の一階でエミリーと一緒に夕食を摂った。ここでプレゼントをあげると、今日はここに部屋を取ってあるんだ、的な感じになってしまうのでやめた。俺の作戦、もうだめかも。まあいいさ、オーガにボコボコにされるだけだ。いったんボコボコにされて、ダメでしたとギルドに報告し、こっそり倒せばいいんだ。


「オーガを倒すまで帰ってくるなと言われています」


——ぎゃふん!


 

 寝る前に、マジックアイテムの充填とかエンチャントとか念入りにやっておいた。



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