貸切
王都には一時間程度で着いた。肉体強化が切れたのは三十分くらいだった。時間が正確に分からないってこんなにも不便だとは。……肉体強化ポーションなんか戦闘中に切れたら死活問題なのに。
肉体強化は、IDEには現れなかった。魔法ではないということなのだろうか。これが使えたら楽だなあって思ったんだが。
日が暮れそうなのでバーに直行した。
「こんばんは。こないだの酒をくれ。それと、ダンジョンでこれを見つけたんだが、換金が手間だ、これで支払いを頼めるか?」
俺は親指の先くらいの宝石を出した。マナ充填量がそこそこ大きい物を選んだ。
「これならいいでしょう。しかし、お釣りが出ませんがよろしいですか?」
「持ち帰りの酒も、それで支払いが済めば構わない」
「樽でお持ち帰りになれますよ」
「……次に来た時の支払いもそれで頼む」
樽で持ち帰っても良かったんだが、この大泥棒スキルを市中の人間に知られるのはマズい。これだけは気をつけないと。ってことはハウスも街中じゃだめか。でもここ、門まで遠いんだよな……ハウスは見つからないようにすればいいか……。
「水源地の水を手に入れたんだが、飲むかい?」
「おお、これは……」
革袋に入れて渡すのは革の臭いがつきそうだったが、他にいい容器がなく、手のひらどぼどぼ出すわけにもいかず。しかし喜んでもらえたようだ。
「今夜は私もご相伴に預かりますかな。貸切料金は頂戴しておりますので」
交わす言葉は少なかったが、一緒に飲んだ。元の世界の話や、血なまぐさいダンジョンの話をするわけにもいかないので、この方が助かった。ただただお互い、うまいな、うまいですな、と言って飲んだ。
あまり遠くまで歩けそうになかったので、近くの路地裏からハウスに入った。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなした。都会暮らしじゃ骨先生とスパーができないな。毎日バーで飲むわけじゃないから余計な心配か。毎日は飲まないよな……。
遠回りになるが、宝石屋と魔法道具屋の前に市場へ行った。開店時間まで暇だったからだ。観光も兼ねた。知らない道をペプを抱きながら散歩した。
王都の市場は朝でも開いてる。この世界では朝食を摂る習慣がないが、違う人たちもいるってことだろう。俺はブドウを探して買った。今度エリース村に行ったら、ブドウ畑を作ってヒール水で即席栽培しようと思う。そしてワインを作る。
あとは欲しかったのが梨だ。以前も買って食べたんだが、種を全部捨ててしまっていた。詰めれば詰めるほど下の物が消えていく魔法のバッグ方式でがんがん食べ物を買った。
あとは香辛料と燻製が欲しかったのだが、それらの店はまだ開いてなかった。そしてぶらぶらしながら宝石屋へ向かった。
宝石屋と呼んでるが実際は貴金属店だ。扱うのは宝石だけじゃない。ってのは初めて店に入ったときに知ったんだが。
「すまない、この金貨を売りたいんだが」
「これはこれはいつもご贔屓に。ほう、これは………」
これは、ばっかりだ。ミスターこれは、と心の中で呼ぼうか。俺は地下神殿でゲットした財宝の中に入ってた、ハロン王国のものではない金貨を出した。外国の金貨じゃなければ大昔の金貨か。そういえばハロン王国がいつからあるのか、どういう経緯で建国されたのかも知らない。俺ってそういうのあんま興味ない。
「これは太古の文明の金貨ですな」
「太古の文明?」
「各地に遺跡がありますでしょう? それらを作った文明です。大昔に忽然と消えたと伝えられています」
大昔に消えたのなら誰もそれを見てないから伝えられないはずだが。
「ハロン金貨十枚で買い取りましょう」
「いいだろう。何枚買い取れる?」
「え……たくさんあるのですか ……?」
資金の準備がないとのことで、今日は三枚だけ買い取ってもらったが、月に三枚ずつ二十一枚まで買い取ってもらう約束をした。貴金属屋も意外と金がないんだな。可能な限り物々交換にするか。可能なら、だが。
次に、魔法道具屋へ行った。いつも通り魔女っ子がいた。
「鑑定を頼む。この杖と剣だ」
ダンジョンでゲットした剣の一本は、IDEでコードを見たら茨の剣だった。茨の形も前と一緒だった。量産型なんだろうか? コードに見覚えがあるものは鑑定しなくても分かる。今回鑑定してもらうものはコードを見ても分からない。
「この剣は……剣の耐久性があがりまーす」
「剣の耐久性?」
「はい、耐久性でーす。刃こぼれしにくくなりまーす。効果は百振りくらいでしょうか」
これは地味にうれしい。効果も長持ち。
「この魔法の杖は……ヤバいですねー。とにかくヤバいでーす」
ジョークなんだろうか? そもそものしゃべり方からジョークなんだろうか?
「魔法の効果がものすごくあがりまーす」
「ものすごくってどのくらい?」
「とにかくすごいでーす。すいませーん、詳しくはわかりません。効果が強すぎて……」
姉幼女神を監禁してた杖だからなあ。幼女神がどれだけすごいか知らないんだけど。神だし、すごいんだろう。妹は俺を生き返したらしいし。ペプも生き返してくれたし。やべえ、そう考えるととんでもなくすごいな。
「この杖ってもしかして、魔法が使えない人にはまるで意味がない?」
「そうでーす。まるでありませーん」
マジか……俺には宝の持ち腐れ。
茨の剣は売った。刃全体から茨が出るので、マナ効率が悪い。戦杖に付呪したみたいに、突いたときにすごいトゲトゲが出るのがいい。あとは初心者向け魔法書を売った。俺には無用の長物だったが、この世界の魔法の仕組みをある程度知ることができた。
掘り出し物がなかったので、魔法道具屋を後にした。
防具屋に行ったが、オーダーしてた鎧はまだできていなかった。ついでに黒いローブを買い増しした。戦っているとすぐボロボロになる。
戦杖を壊したので、代わりの武器を探しに武器屋へ入った。盗賊からゲットした武器はいっぱいあるんだが、素敵な出会いを期待して。ソケット武器ならなんでもよかったんだが、なかった。剣、メイス、両手棍、斧、ポールアーム、槍、どれもしっくりこなかった。変わり種としては、鞭と鎖付き鉄球があったが、扱えそうにない。そういえば、モーニングスターっていうかっちょいい名前の武器は、鎖付き鉄球だとずっと思っていたが、後年になって鎖のないメイスだと知った。何を見て勘違いしたんだろうか。ただのトゲトゲのメイスはなぜかそそられない。鎖付きトゲトゲ鉄球になるとぐっとくる。不思議だ。
しかし、戦杖はかっこよかったし、攻防一体だったし、弱い相手にはとことん強かった。モンスター相手となると現実的にやっぱ剣だろうか。幅広の剣を両手持ちがいいだろうか。そういえば最近は盾を全く使ってない。両手杖を使ってたこともあるが。盾と細身の幅広の剣、ちょっと何言ってるか分からない感じだが、そういうのがいいのかも知れない。
そう思ってもう一回探したけど、しっくりくるのがなかったので、矢とボルトを買って店を出た。魔術師ギルドで、どこで剣を作ってもらえるか聞いてみようかな。
冒険者ギルドに着いた。
「すまない、相談があるんだがいいかな」
俺はグリフォンのことを話した。冒険者みんなでやっつけたことにしておいた。
「というわけで、あの山には何か大きなモンスターがいると思う。費用を出すから調査を、できたら討伐を依頼したいんだが、どういう形式でいくらくらい出せばいいかな?」
「でしたら、調査は成功報酬で、討伐はボーナスがいいと思いますよ。調査対象はグリフォン以上のモンスター、でいいかと思います」
「じゃあそれで頼もう。難易度は高めに設定しておいてくれ。俺の依頼で誰かに死なれたくない」
調査報酬は銀貨五枚、成功報酬は銀貨十枚、ボーナスは宝石一個にした。金貨五枚にはなるだろう。やばいやつがいそうな予感がするんだよね……。
しかし依頼を出すのも面白いな。昔やったシミュレーションRPGで、あぶれたメンバーを宝探しに派遣できたのを思い出した。今回は俺が金を出して派遣するんだけど。たくさんやってみたいものの、ネタがないとできないし、おもしろそうでめんどくさくなければ自分で行きたい。
念のため掲示板をざっと眺めてみた。寝る前に余裕があったら勉強しているので、だいぶ字が読めるようになった。依頼は、ゴブリンネタがやたら多い気がする。ゾンビが一件。シスターが興味を持ちそう。あとは、炎の剣求むってのもある。あれ? この依頼主、レオじゃね? 一本作っておくか。報酬はいらないけど、ギルドに預けておけばいいか。
そうか、ここに欲しいものを書いておけば誰かくれるのか。じゃあ欲しい魔法のスクロールを書いておくか。どんな魔法があったっけ、って、あれー? 初心者向け魔法書を売っちゃったよ……。五大領域で持ってないのは土と風かな。風とかいいかも。扇風機が作れる。羽根のない扇風機。風魔法があれば。っていうか、本当にそういうのがあるのかわからないな。土魔法に関しては、なんの魔法があるのかさっぱり分からない。
この世界の魔法の原理として、物理的な質量を作れない。だから水魔法ってのはない。水を生み出せないからだ。マナを使って、マジックアローのような魔力の塊は生み出せるが、魔法生物にしか効かない、人間の中にもマナがあるが、マジックアローでは致命傷にはなり得ない。熱の上げ下げ、燃焼や発光という現象なんかはある。ヒールは特殊だけど何かを直接作ってる訳じゃない。細胞が細胞を作っているだけだ。少なくとも五大領域の俺が知ってる三つにはない。だから土魔法っていうのが、土を生み出せないとしたらなんだよ、ってことになるのだ。
って、これから行く魔術師ギルドで聞けばいいか。スクロールもありそうだし。謝りにいくんだけど……。
欲しいものはいっぱいあるけど、具体的にこれと頼めるものはなさそうなので、冒険者ギルドを後にして魔術師ギルドへ行くことにした。
行きがけにまた武器屋に寄って、エンチャントしてプレゼントする用の武器を買った。プレゼントじゃなくても普通に売れると思うし。
市場の露店で、手のひらに乗るくらいの木彫りの置物を売ってる人がいた。田舎の村の出身っぽい感じ丸出しだ。行商に来たついでなのかな。時間の有効利用としてはいいんじゃないかな。よく知らないけど。
置物は、おそらく狼をかたどった物だ。犬にも見える。俺は並んでた十個全部買った。銅貨二枚だった。
「犬より猫の方が売れるぞ」
言ってやった。
道端に座り、IDEを開いて、置物にライトをエンチャントした。常備灯の、光量は少ないが長持ちするタイプだ。そして雑貨屋に入って、銀貨五枚で売った。貴族に一個金貨一枚で売れるだろうということだ。
雑貨屋でデキャンタ、コップ、布類、箱類を買い増しした。布は結構消費する。トイレで必ず使う。タオルにも使う。そういえば服屋に寄るのを忘れてた。まあいい。
干し肉屋での目当ては燻製だ。燻製のやり方を聞いた。普通に干し肉を作ってから、香り付けするように煙で燻すんだそうだ。お礼に何種類か燻製肉を買ったら、おまけに燻製チップをくれた。よし、がんばるぞ。ウイスキーにぴったり合う燻製を作る!
あと、一個でいいから透明のロックグラスが欲しい。飲み口が薄いやつ。元の世界では、有名なブランドのやつを一つ持っていた。グラスの内側にヒダがあって、氷を入れてグラスを回すとカラカラと音がするものだ。ただし、いい音をさせるにはグラスの底を持たなければならず、ビジュアル的にあんまかっこよくなかった。イメージでは、グラスの上部を指でぶら下げるようにして持って、カラカラ氷を回したかった。
ちょうど乗合馬車の時間に発着場に着いた。魔術師ギルドに謝りに行く……。




