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オーガ

 朝、宿屋のベッドで目が覚めた。ペプと一緒に寝れないのは寂しい。ハウスで手早く朝のルーチンを済ませた。とりあえず武器屋に行くことにした。ストレージには武器がいっぱい入っているが、今の俺は手ぶらってことになっている。


 と言っても開店待ちで時間潰し。ペプの顎の下をこちょこちょして遊ぶ。だんだんペプの髭が前方に集まる。俺はこの現象をヒガンバナと呼んでいる。


「エミリーは王都は詳しいのか?」

「いえ、来たのは三回目です」

「そうか、俺も同じようなものだ。しばらく観光しようか」


 その後、武器屋でやや細い幅広の剣を買った。



 そして防具屋に行った。昨日来たばかりだが。


「すまない、発注している鎧だが、いつできるか知りたい」

「お待たせしてすみません。本日中に届く予定でございます」

「エミリー、そういうわけなので、もう一泊して明日向かおう。今日は自由行動でもいいし、目を離したくないなら一緒にいてもいい」


 そうやって防具屋を出たが……。


「もう、いいです」


 なんか、別れ話的なことを言われた。これは楽になるかな。


「どうせ明日、別宅に着いたらオーガが死んでるんでしょ」


 あれ?


「そうなのか? いったいどうして……」

「もうとぼけなくていいです」

「…………」

「今まで一度もあたしが使える魔法について聞きませんでしたよね。あたしがいなくても倒せるからですね」


 しくじったー!


「まあ、肉体強化のポーションがあればなんとか」

「ギリギリのレベルならあたしにサポートを求めますよね。ヒールとか」


 やべえ、切り返しが思いつかない。オーガを一人で倒しに行こうなんて思ってなかったけど、多分思いついてやってた。


「実は最初から分かってたんです。あなた、全くマナが感じられないから、特別なんだって」

「え?」

「魔法が使えない普通の人でも、絶対にマナを持ってて、感じるんです。あなたからは全く感じません。ずっと一緒にいても一回も。異常なんです」

「…………」

「折れたスタッフには二つもエンチャントがついてました。あんな禍々しいトゲのエンチャントなんて見たことありません。杖に二つもエンチャントするなんて今まで誰もやったことがありませんよ。そんな特別な人だから、あたしを置いて倒しに行くと分かってました。能力を隠すために」

「その、マナを感じる能力は、君のユニークスキルなのか?」

「そうです。魔法は下手ですが、この能力のおかげで魔術師ギルドにいられます」


 ダメだ、お手上げだ。そういうことなら最初から勝ち目がなかった。この娘、ヴァレリウスに忠誠心がありそうだから困ったな。


「君は俺のことをギルドに、ヴァレリウスに報告するのか?」

「わかりません」

「どうして?」


 この前あげたアクセサリーが効いているのか。


「ギルドの上層部の動きが信用できないからです」


 違った。


「詳しく聞かせてくれないか?」

「ギルド長はあの通りの人です。ギルドを運営することよりも召喚と召喚者のサポートばかりに力をいれています。運営は副ギルド長が担当しているのですが、派閥を作って軍事訓練をしているようなのです」


 副ギルド長って、ヨーギの魔法道具屋の前で会ったあいつか。お友達になれそうにない顔だったな。そいつがギルドを軍隊化しようとしているわけか、ヴァレリウスが他のことにかまけてる隙に。


「最近、隣国との関係が悪化しているのは噂で聞いてるかと思います。王国は軍備を急いでいます。召喚者を集めているのも、魔族を倒すのは建前で、戦争に加担させるためだと噂されています」


 そんな中、トロールやオーガをソロで倒せる戦力がいることがバレたら、うわ、めんどくせえ。


「軍備が整ったらきっと戦争になります。なによりも、ギルドを軍隊にはしたくない」

「そうか、困ったな。オーガは倒せないな」

「あたしが目を離してる間にオーガが死んだら、疑われているのでバレます」


 ありゃりゃ、なんかめんどくさいぞ。混乱してきた。強いのがバレるのはだめ。魔術師ギルドに強い魔法使い(魔法が使えないが)がいるのがわかったら、隣国との均衡がくずれて一気に戦争になる危険性があるからだめということか。でも俺の目的はもっと強くなること。強くなってこの街のダンジョンを攻略して、魔族だか魔王を倒して、世界の滅亡を防いで、南国の島のビーチで余生を過ごすこと。ますます混乱してきた。


 もちろん参戦はしない。他国に攻めるなんてしないけど、攻められたら喜んで返り討ちにしたうえでやり返す。倍返しだ。そういうのもダメなのか。


 しかし、どうすっかな。依頼は失敗しましたってのは好きじゃないんだよな。困ってる人がいるわけだし。やっつけてから考えようかな……あれ、なんか思考が脳筋チックだ……。


「よお兄さん、また会ったな」


 そんなとき、レオが歩いてきた。パーティメンバーも一緒だ。あ、なんか、助かったかも?


「やあ、レオ。いきなりで悪いんだが頼みがある」

「なんだい? 大抵のことなら任せてくれ」

「オーガを倒すのに付き合って欲しい」

「はあ? 兄さんならオーガくらい一人で余裕だろ?」


 エミリーがジト目で俺を見る。


「一人で倒すとまずいんだ。みんなで倒したことにしてくれ。実際に戦うのは俺一人でもいい」

「なんだよ、せっかくだから俺にもやらせてくれよ。みんなはどうする?」


 レオがメンバーに向かって聞く。


「あたしは休みたい。マナもすっからかんで戦力にならないわ」

「俺もだ。ダンジョンではないなら俺の出番はなさそうだ」


 魔術師と影の薄いシーフが言った。確かビアンカとカールだったっけ。


「オレはオーガとやってみたいなぁ。やらせてくれ」


 アーベルが言った。決まりか。


「この娘はエミリー。魔術師ギルドのメンバーだ。一緒に行く」

「知ってるわ。たいした魔法も使えないくせに上層部にうまく取り入ってるって噂の新人だもの」


 うわ……ギスギスしてる……この世界でも人間関係、始まった……。っていうか、エミリーとビアンカが知り合い? 魔術師ギルド員? ぶっちゃけトークはまずかったのか? いきなり失敗したかも……。


「決まりだな、行こうぜ。アーベル、兄さん、エミリーさん」


 レオが仕切る。助かる。


「って、場所はどこだ?」


 少し抜けてる。



 馬車をチャーターし、現場には一時間ほどで着いた。


 貴族の別宅が並んでる別荘地だ。長閑な場所だ。きっとここで貴族の子供に大自然を満喫させるのだろう。夜はお屋敷で寝るのだろうが。


 オーガは、お屋敷にもたれかかって座っていた。いい感じの家を見つけたが、身体が大きくて入れない、そんな悲壮感を漂わせている。俺らが近づくと立ち上がった。


 身長はジャイアントより少し小さいくらい、だが横幅が全然違う。アンコ型の相撲取りのようだ。身体の色は褐色、身につけている物は腰布だけ。顔は身体に比べれば小さい。禿げていて眼窩が窪んでいて、牙がある。


——!!! プロテクション!


 突然、オーガが踏み込んできた。地面が揺れる。右ストレート、ほぼ拳の振り下ろしに近いパンチを俺に放った。俺は腕をクロスにして防御する。プロテクションが間に合った。しかし、右腕にヒビが入った。すぐにヒールする。ペプを馬車に置いてきてよかった。


 バックステップして距離を取った。アーベルは右、レオは左にすでに展開していた。


「オレの新しい剣を試させろぉ」


 アーベルが派手な装飾の両手剣で斬りかかった。大根を切るように、オーガの左腕が一番太いところで切れて落ちた。それどころか、刃先が触れなかったはずの胴体にまで切り傷ができた。


 レオがロングソードでオーガの右足を膝の裏から斬る。オーガが膝を地面に付き、動きを止めた。


 俺はストレージからトゲのハルバードを出し、オーガの頭に真上から切り下ろした。四本の魔法のトゲが頭を貫通する。隠すつもりだったのにストレージから武器を出しちまった。


 アーベルが首を切り落とし、勝負がついた。


「オレの剣、すげえだろぉ」

「さっき拾った剣じゃねえか」


 レオがツッコむ。


「討伐の印に何か持って帰るか。いや、いいか。死体を置いて帰るか。これの処理までは依頼されてないしな。レオ、ドロップ品があったらもらってくれ。それと今回のお礼ってわけじゃないが、炎熱の剣を渡そう。冒険者ギルドに依頼していただろ?」

「おお! 助かるよ兄さん!」

「礼なんて要らないぜ。レオが世話になってるもんなぁ」


 アーベルは気持ちのいいやつだ。


 カールのように影が薄くなったエミリーを連れて、馬車で街まで帰った。


 街で二人を降ろして別れた。そのまま魔術師ギルドへ行こうとしたら、エミリーが言った。


「アーベルさんが持っていた剣、十日前に召喚された召喚者の剣ですよ」

「拾ったって言ってたな。召喚者がダンジョンで落としたか、死んだか。あ、もしかして奴らが殺して奪ったって考えてるのか?」

「そうは言わないけど、その可能性もあります」

「で、今から確かめに行くんだな」

「やっぱりあなた、鋭いですね。天然ボケの振りをして騙してましたね」

「スキルを知られたくないからな。知られたら戦争になるんだろ?」


 天然ボケだと思ってたのか。今となっては結果オーライみたいだ。


 辻馬車でフォートモーラーに向かってもらった。っていうか、今日まで馬車がチャーターできるなんて知らなかった。時間合わせて乗合馬車に乗る必要なんてなかったんだ。金はかかるけど俺にとってはたいした金額じゃない。


「ビアンカから情報が漏れるかも知れないですね」

「レオは信用できる。余計なことは言わない」

「アーベルからビアンカに漏れるかも知れないです」

「あ……」


 スキルがバレた時のことを考えておいた方がいいかな。っていうか実際なにしよ? 戦争は断る、ダンジョン攻略優先にする、これを貫くしかないな。こんな調子でいろいろやってたらすぐ噂になりそうだな。


 そうこうしているうちにフォートモーラーに着いた。戻りの時間が読めないので馬車は帰した。


 初めての本格的なダンジョンだ。なにしろヨーギのやつは酷かったからな……。


 俺はさっき買った細身のブロードソードを携えてダンジョンに入った。



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