トゲ
昨日の話を思い返してみたが、もしかして、太古の吸血鬼ってやつが復活して人間に戦争を仕掛けるんじゃないだろうか? っていうか、はっきりそう言ってたよな。まあ、どこにいるかも分からないし、いったんおいとくか。
俺は朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをする。骨先生は、最初にスパーを始めてから、五段階、弱くなってきたと感じるたびにスピードとパワーを上げた。骨先生も学習してるにもかかわらず、俺がちゃんと強くなってる、そう実感している。
シャワーを浴びて、外に出て、ペプと一緒に道なりに歩き始めた。ここがどこかさっぱり分からない。道が緩く下っているのは分かる。まあ、歩いていけばどっかに着くだろ。そしたら乗合馬車で王都に行こうか。
歩いていると、牛が駆けてきた。そして俺の前で止まり、頬ずりを始めた。
——ちょっ! なんて可愛いヤツ! これじゃあ召し上がれない! 美味しいビーフが食べたいのに!
牛を愛でていると、牛を追いかけるようにモンスターがやってきた。というか、追いかけて来たんだろう。
鷲頭、ライオンのボディ、羽。グリフォンだっけ? グリフィンだっけ? ヒポグリフってやつもいたな。それは馬も混ざってるんだっけ? それにしても結構デカい。牛の倍くらいデカい。そして、俺を睨んでる。
——クケーッ
鳴いた。何を言ってるかわからない。牛をくれって言ってるのかも。くれてやるくらいなら俺が食べる。絶対に渡さない。
俺は牛を庇うように、バトルスタッフを構えて前に出た。アイスショットを発動する。戦杖の先が光る。
——クケケーッ
グリフォン(たぶん)は、立ち上がり、羽を広げて威嚇した。それを待っていた。
何が効くかわからないので、矢とマジックアローとスリング石を何発かずつ、両方の羽に撃った。全部効いた。そしてアイスショットを頭に撃った。鷲の顔が凍った。グリフォンは浮力がなくなり地面に降りてきた。
この隙を逃さず、戦杖でグリフォンをボコボコにしようとしたが、頭に一発、ボディに一発入れただけで躱されてしまった。とんでもなく硬い。鳥頭のくせに。
羽を潰しても、本体がライオンだけあって素早いし力がある。その上、硬いので苦戦している。殴った分、俺も引っかかれたり突っつかれたりしている。ほとんどダメージはないが、倒されたらやばいことになりそうだ。
なるべくお気に入りの戦杖だけで倒したかったが、本気を出さないと勝てそうにない。俺は戦杖を左手に持ち、右手に炎熱の剣を構えた。レオじゃないが二刀流だ。一応。
——ブラインド!
いつもの必殺パターンに持っていく。
——石!
クリーンヒット!すかさず燃えやすそうな鳥頭を炎熱の剣で斬る。
——ボゥワッ
勝負あった。頭だけ焼鳥の気管を裂いた。
牛は無事だ。もー、と鳴いて頬ずりをしてきた。やられてくれれば今日はビーフステーキが食べられたのに。にくいヤツめ。
牛を可愛がっていると、牧場主が走ってきた。
「魔術師様、ありがとうございました。お礼に出来ることなら何でもしますのでおっしゃって下さい。牛が全滅していたら首をくくるところでした」
ん? 全滅?
「はい、二頭殺されました」
「殺された牛を買い取ろう。捌いてくれ」
牛肉をゲットした。
頭が焼鳥のライオン肉もゲットした。食べれるよな? 元の世界じゃライオンの肉なんて絶対に食べられないからレア感ある。ゲテモノっぽいけど。
それにしても……。
「どうして山からグリフォンが降りてきたのか……やはり魔物が活性化しているんでしょうか?」
この世界に来たばかりの俺には正解は分かりようもないが、おそらくグリフォンに関しては、餌場としてたところに別の大きな魔獣がやってきて追い出された、とかじゃないかなあ。グリフォンを追い払うやつなんて勝てる気がしないから、俺は知らんぷりする。牛肉をどうもありがとう。可愛い牛も元気でな、食べられる日まで。
「街に着いたらギルドに調査依頼を出しておこう。なに、費用は気にするな。牛を捌いてくれたお礼だ」
希少部位まで捌いてくれたもんね。知らんぷりとか思いながら俺も人がいい。
ストレージ魔法のことを口止めして、王都への道を聞いて、向かった。
ペプと一緒に歩いていたところ、突然呼び止められた。
「よお兄さん、奇遇だな!」
「レオか。久しぶり、でもないな」
レオはダンジョンに潜るところらしい。近くにフォートモーラーという、昔の砦がベースになったダンジョンがあるとのこと。
「こいつらが俺のパーティメンバーだ。アーベル、ビアンカ、カールだ。……こちらはこないだ話したろ? 一緒に魔族を倒した兄さん、タクヤさんだ」
アーベルは剣と盾、プレートが付いた鎧、ビアンカは魔術師ギルドのローブ、カールは革鎧に短剣、何故か存在感がめちゃめちゃ薄い。レオは両手剣、荷物の中に茨の剣がある。なんというか、バランスが取れたパーティだ。
アーベルが気さくに話しかけてきた。
「レオが世話になったんだって? 話は聞いてるよぉ。強いんだってなぁ。どうだい、一緒に行かないか?」
「お誘いは嬉しいが、王都でやりたいことがある。またの楽しみにしておこう」
この人数にストレージ技を見せるのはなあ……。最近はちょくちょく見せているが、話が広まると危険だよな。それと、今、俺はあのバーにすぐにでも行きたいのだ。
レオ達と別れてしばらく歩いて行くと、側道があった。立て看板があり、『トロールケイブ』と書かれている。ここを行くと、シンシアの三番目のダンジョンのトロールケイブに着くらしい。よし、あとで来よう。今はバーを目指す。
そう思ったら、ゴリラ体型の深緑の毛がふさふさした何か、多分魔獣、が走ってくる。状況的にこれがトロールだろう。俺はペプを逃がし、臨戦態勢をとった。
トロールの顔は、ゴリラのそれを縦に伸ばし、そのまんま魔獣にしたような恐ろしい顔をしている。全身が毛で覆われているが、肩は灰色の硬い皮膚が見えており、皮膚が結晶化したのか、黒く硬い何かがまるでスタッズのように埋め込まれている。
俺が知ってるトロールは、ものすごい再生能力がある。それを確認するためにまずは殴り合ってみる。
俺はアイスショットを準備しながら、右手にトゲトゲの剣を構えた。刃先から円錐形のトゲが出るタイプの茨の剣だ。
トロールの左手の攻撃を戦杖と剣で受ける。右手の攻撃を戦杖で受けて、剣で腹を突き刺した。トゲトゲが出る。剣を引き抜くと、傷口が大きく広がった。トロールが吠える。
——石!
ロックフォールがクリーンヒット! トロールは少しよろめいたが、致命傷ではないようだ。硬い。石がクリーンヒットして効かなかったのは初めてかも。
傷口は、ゆっくりだが確実に閉じていく。なるほど、困った。矢もアローも効きそうにない。
俺は顔にアイスショットを当てた。凍ったがこれも致命傷にはならない。戦杖を収めて剣を両手持ちに構え、顔が凍っているうちに斬りまくった。外皮は硬い。腹部は柔らかいが、斬りにくい。首を切り落とせば死ぬはず。そういえば、火に弱いと聞いたことがあるな。
と、その時、凍結から回復したトロールの一撃が俺の頭にヒットした。爪で耳が抉れる。痛い。
俺は距離をとって、追いすがってくるトロールに矢を五発撃った。刺さったがあまり効いていない。足を止める効果はあったようだ。さらにマジックアローを一発胸に当てた。ダメージはあるがすぐに再生が始まる。俺もヒールをする。耳がどんな形になっているか気にする余裕はない。
——あれを試してみるか
俺は、ストレージから肉体強化のポーションを出し、飲み干した。空き瓶は律儀にストレージに仕舞う。
殴り合いだ。俺はお気に入りのバトルスタッフを構えた。杖で骨先生とスパーを繰り返してきた。肉体強化はどんなもんか、期待した効果があれば、戦杖だけで勝てるはず。
ポーションの効果はすぐに効いてきたのがわかった。俺はトロールに向けて戦杖を振り下ろした。さっきより効いてる。トロールが大きく腕を振って強烈な一撃を食らわせてきた。俺は左腕でガードする。問題ない。
身体を回転して杖を大きく振り、トロールの身体にガツガツとダメージを与える。同様に俺も殴られている。半分は杖で、半分は腕でガードしている。消耗戦か。トロールの再生速度のせいで分は俺のほうが悪いか。俺も戦いながらヒールをした。
——ガツッ
トロールのアッパーカットをまともに受けてしまった。身体が浮く。
——ブラインド!
落下しながら目潰しで追撃を牽制。距離と隙ができた。俺はジャンプして杖をトロールの頭に落とした。
——ガッ! ミシッ……
戦杖が曲がってしまった……お気に入りだったのに……。
トロールはダメージがありながらも、俺に覆いかぶさるように突進してきた。俺はカウンターで戦杖の石突きをトロールの喉に刺した。隠し玉だ。喰らえ。
——ソーン!
石突きの先から魔法のトゲが飛び出した。チューリップの花びらを鋭い牙に変えたような魔力の結晶がトロールの脊髄を貫いた。
トロールは仰向けに倒れた。
ダメ押しに、炎熱の剣を喉に刺し、炎で焼いた。もう再生しない。俺は死体をストレージに吸い込んだ。
結構キツい戦いだった。杖をダメにしてしまった。魔術師ギルドに謝りにいかなきゃ。肉体強化してもブラインドを使わざるを得なかった。剣ならまた違ったのかな。経験は積めたのでよかったが、ちょっと考えなきゃな。
そういやファイアショットのアイテムを用意してないな。火炎放射器の方がいいかな。両方か。
とにかく王都に行って一杯やろう。俺は歩き出した。




