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燻製

 洞窟を出ると夕暮れだった。


 道を川の方に歩いていった。しばらく行くと橋があった。そこから川を上っていき、橋が見えなくなったところを今夜の宿に決めた。


 ハウスに入って、さっきふと思いついたことをやってみた。ハウスの中なら手からプロテクション魔法が出せる。ペプにかけてあげられる。これでいきなり野獣に襲われても安心だ。熊などに踏み潰されたりしなければだが。ずっと家猫だったが、さすがに猫は猫なので大丈夫だろう。これで今までよりもっとお外に出してあげられる。


 俺はペプと一緒に河原に出て、日が暮れるまで遊んだ。ペプは最初ははしゃいでいたが、疲れたのか俺の膝の上で丸くなった。


 ハウスに入って、ひとつ作りたい物がある。木の板に熱上昇——ヒートのエンチャントをした。


 鹿肉をナイフで切って、フライパンに油をひいて、外に出て、ヒートの板に乗せて焼いた。


 ちょっと強火だったけど、うまく調節していい感じに焼けた。木の板ってのが不安がある。いつか火が出て燃えるだろう。なんかいい素材を探さなきゃ。フライパンに直接エンチャントでもいいかも知れないが、火から外す方法が無ければ焦げる。


 鹿肉はフーフーしてペプにもあげた。フガフガ言いながら悪そうな顔をして食べてる。俺は塩とハーブをかけて食べた。ソースとバルサミコ酢も欲しいが、作り方が分からない。一番欲しいのはわさび醤油だ。そういえば牛肉を食べてない。野良の牛がいない。これはなんとかして探し出さなきゃ。


 俺はハウスに入り、IDEを開いて、ゴブリンのトーテムをチェックしてみた。プログラムコードがある。何かの魔法のようだ。開いてみたが、書かれていることがさっぱりわからなかった。俺がいつも使ってるコードは、分からないながらもアルファベットベースで書いてあるが、ゴブリンのそれはタイ文字かアラビア文字で書いてある、そんな感じのわからなさだ。完全にお手上げだ。


 トーテムは諦めて、ジンロックを飲みながら、ゴブリンの宝箱を開けた。


 中には金貨にして約十三枚分の硬貨、宝石が十数個、ガラスの欠片も混ざってる。どうやったらガラスが生成されたのかちょっと興味がある。それに指輪とアミュレット、乾いた血が付いている。前の持ち主は生きていないだろう。マジックアイテムはなかった。がっかりだ。



  ◇◇◇◇◇




 目が覚めて、朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーして、シャワーを浴びた。

 

 河原のそばに、桜のような木を見つけた。枝がボツボツゴツゴツした感じの木だ。枝を乾燥させて、火をつけてみたらいい感じの匂いなので、これを燻製チップにすることにした。


 河原に樽を置き、一晩海水に漬けた肉を水で洗ってうまいこと吊す。これが一番難しかった。燻製チップを焼いて、樽に入れる。一時間待つ。暇なのでもう一回スパーした。


 できあがった燻製はべちゃっとしていた。真空乾燥させる。食べてみると、なんか全然違うし、しょっぱい。ふふふ…………失敗だ。


 燻製チップはこれでよかったので、枝を集めておいた。街で誰かに作り方を聞くか。


 

 俺はまた川の上流を目指して歩き出した。一日かけて歩いたがまだまだだ。だんだん険しくなってきた。その日は一杯やりながら寝た。



  ◇◇◇◇◇


 

 翌日もルーチンとスパーをして、上流を目指した。勾配が急なので、ほぼ四つん這いで歩いてる。こんなこと昔はできなかった。昔っていうか、まだほんの数週間前か。短期間で体力と筋力がついたのか。脚力上昇のアンクレットの効果も大きいだろう。


 昼過ぎには山のかなり上の方に着いたようだ。もうそろそろいいかと思ったら、ちょうど岩の間から水が流れ出てきて、それ以上は上流にいけないところまで来ていた。つまり目的地に到着だ。


 山の上の方をみると、雪が積もっているようだ。雪解け水か。


 俺は水流のすぐ側に腰を下ろして、流れてくる水をストレージに吸い込み続けた。試しに水を飲んでみる。美味い! いままでの水が相当、不味かったんだとわかった。美味しい水で氷を作って、ウイスキーをロックで飲んだ。最高だ。


 飲みながら、妻のことを考えた。元気にしてるだろうか? もう立ち直れただろうか? 妻とはよく一緒に飲んだ。妻にワインを教わり、俺はウイスキーを教えた。もう会えないだろうか? 姉幼女神は、俺を元の世界に戻すのは無理だと言った。即答だった。しかし諦めはつかない。この世界で、元の世界では得られない色んな物が手に入って、金持ちにもなって、この世界で余生を過ごしてもいいと思ってるけど、帰りたいという気持ちば消えない。


 妻を召喚すればいいだろうか? だめかな、この不衛生な世界には馴染めないだろうな。ワインも簡単に入手できないし。あ、でも金はあるから、貴族になってワインを買えばいいのかな……。


 俺はペプと一緒に一日中、ウイスキーをちびちび飲みながら、日が暮れるまで水を吸い込んだ。


 

  ◇◇◇◇◇



 翌朝もルーチンとスパーをこなして、王都へ向かうことにした。酒のストックが足りない。またあのバーに行きたい。


 ここからだと王都は南東の方にあるはずだ。山を下ってから登る羽目になるのは嫌なので、なるべく山を下りないように東へ向かってから南を目指す事にする。と言っても、コンパスも無いので正しい方向が分かるはずもなく地図もなく、持ってないどころか見たこともない。完全に遭難者コース。ふふふ……冒険だ。


 まあ、水と飯と寝床があるから死なないので、ハイキング気分で歩くことにする。と言ってもすぐに道を見つけた。せっかくなので、草の根を分けて進むのも億劫なので、この道を選ぶことにした。


 しばらく歩いていたら、地下神殿と同じデザインの遺跡を見つけた。ところどころ崩れた石畳の道が、石扉まで続いている。扉の向こう山だ。遺跡は山を掘って作られているらしい。扉の形も色も地下神殿と同じだ。


——ああ、またお金持ちになっちゃうな。


 いくしかないっしょ!




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