朝
朝になったかどうかは分からないが目が覚めて、帰ることにした。
帰る前に戦利品の分配をした。低級魔族よりもジャイアント百四匹の方がドロップがよかった。平均すると宝石を三つずつ持っていた。どっから拾ったんだろう? そもそもジャイアント自体はどこから来るのか、または生まれるのか。あの馬面がひょろひょろだったから何か関係があるのかと思うんだが……。
まあ、それを言ったら、なぜ、どうやってこんなダンジョンを作ったんだってところから謎だが。あの変なカプセル、魔石からマナを取り出すというよりも、マナを集めて魔石を大きくしているような感じだった。なぜそう思ったのかうまく説明できない。
あのカプセルと魔石は、もしかしたらこのままにしておけばモンスターが湧き続けるんじゃないかと思って、置いていくことにした。丸ごと吸い込んだ扉も元通りに戻す。
マジックアイテムの剣をレオと一本ずつ分けようとしたが、効果が分からない剣より茨の剣をくれと言ったのでそうする。ダンジョンの出口までは俺が持っていく。
帰り道は、一匹だけジャイアントがリポップしていた。全滅させたのにリポップするってことは、細胞分裂等で増えるわけじゃなさそうだ……。
ジャイアントのすり鉢の入り口に植えたオレンジは、実がなっていた。
「兄さん、これ甘くて美味いよ! このダンジョンの名物になるよ!」
マナで植物が生長してフルーツは美味くなるのがわかったが、ダンジョンだから美味いのかどうかはまだ分からない。っていうか、そもそもダンジョンにマナが多く満ちるのはなんでだぜ?
ダンジョンに何日間いたのかわからないが、出ると雨がやんでいた。冒険者ギルドまで戻ってきて、戦利品をレオに渡した。
「レオ、ありがとうな。面白かった。俺はこの街でやることは済んだ。王都に引っ越そうと思う」
「こちらこそありがとうな、兄さん。たんまり儲けたぜ。俺は元のパーティに合流するよ」
「レオ、俺のスキルのことは……」
「分かってるって。ユニークスキルをペラペラしゃべるほど野暮じゃねえって」
なんかそういう不文律があるのか。
俺はレオと別れて、速攻で街外れに行き、ハウスに入った。
「ペプ、ごめんなー」
ペプの水を替えて、ご飯をあげた。筋トレしてヒール、ハウスとシャワールームの空気の入れ替え、照明のマナの補充。そしてシャワーを浴びてランチ。朝のルーチンを昼にこなした。
「ペプもヒールかけるかなー。痛いの痛いの飛んで行けー」
ハウス内では手からヒールが出せるのが分かったので、ペプにもかけることにした。どこも怪我をしているわけではないが、いつまでも元気でいて欲しい。
そこそこ疲れたので、店を回って、森でハウスに入り、ストレージ内の整理とかストレージショットの補充とかをして、風呂を沸かして入って、ちびちび飲みながら寝た。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをして、シャワーを浴びた。ペプと一緒に朝食を摂った。
街から乗合馬車に乗って、魔術師ギルドに来た。俺は用事はなかったが顔を出した。
ヴァレリウスはいなかったが、エミリーがいた。
「バトルスタッフがとてもいい感じだということを、ヴァレリウスに伝えておいて欲しい」
「わかりました。それで何か倒したんですか?」
「ジャイアントの首にグサッと刺した」
「…………」
エミリーに、マナを充填したノンマジックのペンダントをプレゼントした。下心はない。金持ちの俺にとってはこの程度のアクセサリーなど、一般人にとってのキャンディーと変わらないからだ。エミリーはとても喜んでくれた。
魔術師ギルドで馬車を降りたのは、王都に行く前に行きたいところがあったからだ。
ギルドの手前で川が二つに分かれる。一つは王都を流れてくる。もう一つは山岳の水源地から流れてきてるはずだ。いつも飲んでる水はギルドとヨーギの間で採取したもの。厳密に言えば王都の排水が混ざってる。そんなことを気にしてたら、そこら中にうんこが落ちているこの世界では生きていけないが、どうせ大量にストックできるなら綺麗な水が欲しい。
というわけで、川の上流を目指して、ペプと一緒に歩き出した。
道はほぼ岩だった。たまに崖があった。ちょっとした滝になってた。迂回がめんどうだったので、大きい岩を置いたり、大木を置いたりして登った。
歩いていたら、クマに会った。急いでペプをハウスに逃がし、バトルスタッフを構えて臨戦態勢をとったが、のそのそと寄ってきてハグして頬ずりされた。プロテクションがなかったらハグで死んでたかも知れない。
殺すのはしのびないので走って逃げた。ついてこられても困る。俺が連れ歩いたクマが人を襲った、とかになったらシャレにならない。
逃げ切ってハウスに入ったらペプは寝てた。いい機会だからボディスーツを試すことにする。着る方法はツナギと一緒だ。しかし、細すぎて着れなかった。あいつひょろすぎだろ。仕方ないので普通にローブを着た。ボディスーツは、切って生地にして服を仕立てようか。
三十分ほど歩くと、先の方で騒ぎが聞こえてきた。俺はスタッフを持って走った。
どうやら商人が緑色の何かに襲われているらしい。リヤカーを挟んでくるくる回ってる。俺は走った勢いをそのままに緑色をスタッフで殴った。
少し離れたところで、別の緑色が人に馬乗りになってる。緑色は、耳が尖っている。猫背で、痩せているが腹が出ていて、腰布と、革で作ったブーツを身に着けている。顎が出ていて牙があり、眼窩は窪んでいて、黒目が小さい。手は四本指だ。間違いない、ゴブリンだ。このゴブリンもスタッフで一閃する。頭蓋骨が陥没する音がした。
俺の背後から一匹が襲ってきた。素早い。ガードが間に合わなかった。背中をメイスで殴られたが、ちょっと痛いだけでなんともなかった。プロテクションのおかげだ。スタッフでゴブリンの手を殴ってメイスをたたき落とし、思いっきり回転してガードするゴブリンの左手ごと殴り、胸部に強烈な一撃を与えた。
素早く辺りを見回すと、最後に残ったゴブリンが逃げていくのが見えた。
俺は倒れてる人に駆け寄った。まだ息があるが危険だ。試してみるしかないと思って、ヒール水を飲ませたら、たちどころに怪我が治った。
——マジか。こんなに効果があるのか。元は俺のシャワーの残り湯なんだが……
「助かりました。ありがとうございます」
商人二人は、近くの村の人間で、王都にワインを運ぶ途中だという。最近になってゴブリンの被害が大きくなってきて困っていたとのこと。
俺はお礼に赤ワインを二樽もらった。ちっちゃいサイズの樽だ。この世界ではワインは全て貴族のものなので貴重だ。一樽は飲んで、一樽は何かのときのために取っておくことにする。
せっかくなので、ゴブリン退治に行くことにした。なんかあいつら弱かったし。俺は無双したい。
ゴブリンが逃げていった方に歩いて行くと、怪しい洞窟を見つけた。洞窟の入り口に木の扉があるのだが、その手前に食べ物のかすやゴミが散乱している。コウモリやネズミの死骸もある。所詮は下級生物か。
洞窟だからきっと狭いんだろうなあ。バトルスタッフはやめて剣にするか。俺は木の扉をストレージに吸い込んだ。手で開けるのがめんどくさかったからだ。
そこからは無双だった。光る石ころを投げ、寄ってきたゴブリンを斬り、寄ってこないやつはアローとか矢とかで倒し、一本道の洞窟をどんどん進んでいった。
最奥の部屋は、テニスコートくらいの広さで、最後の一匹がいた。そいつは今までのやつと違い、ボロボロのローブを着て、魔術師っぽい杖を持っている。胸があるからメスだろう。少し身体が大きくて、角のついた兜を被っていた。顔が婆臭い。こいつがゴブリンシャーマンか。
ゴブリンシャーマンの杖が光った。何か撃ってくる。俺はプロテクションを試してみたいので、攻撃を受けることにする。念のため俺のローブが痛まないよう、ストレージに収納する。撃ってきたのはファイアショットだ。左腕で受け止める。少し炎が広がったが、全くダメージがない。ローブは脱いでおいて正解だった。
俺は距離を詰めて、インプのハメ技を使った。ゴブリンシャーマンが撃ったファイアショットが空中で消える。シャーマンが驚いているところにブラインドと剣で一撃。簡単に制圧してしまった。
骨先生とのスパーもあるが、プロテクションのおかげで恐れずに一歩踏み込めるようになったのが大きい。敵が弱かったせいかいまいち性能がつかみ切れていないが。
さて、戦利品を探す。まずはファイアショットの杖だ。持ち手がベトベトしている。宝箱があったので、例によって丸ごと吸い込んだ。あとで一杯やりながらのお楽しみタイムがある。樽に、肉や魚が入っているが、腐っていた。水の樽はない。いちいち川まで行ってるのか。
壁際には祭壇のようなものがあった。杖が祀られているが、この杖はゴブリンの顔のような模様が彫られている。その口には小さな魔石ははめられている。トーテムなのか。もらっておく。祭壇には血のついた短剣が置かれていた。ああ、これは生贄の儀式をしてたな。
他にめぼしい物はない。腐らせるのも都合が悪そうなので、ゴブリンの死体は全てストレージに放り込んで、洞窟を出た。




