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森の奥

 すっきり目覚めた。ヒールのおかげだろうか。ここ数年ずっと気持ちよく熟睡した記憶が無い。運動していたころはあったと思うんだが。仕事のせいで間違いなく不眠症になってると思うんだよな。まあ、もうITの仕事はしないからいずれ改善するだろう。


「おはようペプ」


 マットを買ってから、ペプが枕元で寝てくれるようになった。俺の寝相はものすごく悪いらしく、ペプも含め元の世界のうちの猫たちは一緒に寝てくれなかった。ガキのころはよく、目が覚めたら枕と反対の方を向いていた。たまに二段ベッドの上から落ちたりしてた。新しく買ったマットは結構大きくてセーフティゾーンがあるみたいだ。


 鎧と兜を装備、探検の準備をして外に出た。ふと、木が生えて放置されていた畑が気になった。試しに畑の土を吸い込んでみた。土はくっついているが、切り離してストレージに入れられる。ストレージ魔法のコードの「対象物の保護」ってところで、吸い込む土と吸い込まない土を切り離してしていると思われる。用を足すのに、スコップで穴を掘る必要はなかったんだ。ストレージ魔法で、スコップで掘るのと同じことを実行できる。しかし、石のような固い物は分離できなかった。スコップで掘れるとか手で掘れるとか、分離できる固さの境目はその辺らしい。


 そして、ストレージに入れた土をなるべく上空から細かく砕いて畑に戻す。耕すってこれでいいんだよな。なんかこういうのいいな。畑一面を耕しておいた。


 森へ入る前にクロスボウを仕込む。盗賊からゲットしたのは、足で固定して両手で弦を引くタイプのものだ。ボルトは三十本。撃った瞬間すぐにストレージへ吸い込む。これでモンスターに遭遇してもなんとかなるだろう。



 外は陽射しが強く、朝だというのに既に暑いが、森の中は薄暗く涼しい。そういえばこの世界に来てから雨が降ってない。天候はどうなっているんだろう? 乾期なんだろうか? 雨季とかあるのかも。


 森を歩いて、浸食の原因を探す。方向はだいたい分かってるが、何を探せばいいかさっぱりわからない。とにかく何か変な物を探す。期限は明日までにしようか。それでみつからなかったら別の方法を考えよう。



——って、あっさり見つけた!


 森の中でひときわ目立つ太い大木をみつけた。存在感がすごい。確証はないが、この木が原因だろう。どうしよう。吸い込むか。


 俺はハウスに入り、窓を開けてその大木を吸い込んだ。倒れそうな目眩がしたが、卒倒はしなかった。


 枯れ葉やつる植物など、大木に乗ってたものがパラパラと落ちてきた。鳥の巣が落ちてきたのは申し訳ない気持ちになった。そして、うずらの卵くらいの大きさの光石が落ちてきた。ハウスを出てそれを拾い上げた。


 もしかして、原因はこの光石だろうか? そもそもこの永久に光る石はなんだろうか? 放射性物質? だとしたら俺もペプもヤバい、っていうか既に死んでいる。今死んでなくても、もう死んでいる。


 これ、もしかして魔石ってやつだろうか? だとするとギルドで聞けばいいか。


 俺は光石を拾ってストレージに入れた。すると……。


——ブルッ


 背後から音がした。振り向くと、猪がいた。デカい。が、魔物ではなく普通の猪に見える。初めて見るからわからないけど。もしかしたらお子様だった頃に動物園で見たかも。


 数秒、睨み合った。突進されたらヤバい。牙で腿の動脈を刺されて死ぬから猪をなめちゃいけないと聞いたことがある。


——先手必勝!


 俺はストレージから丸盾を出し、両手で持って、猪の頭に突きつける。そして、


——ロック!


 猪の頭上にロックフォールを落とした。クリーンヒット!猪は倒れ、頭から血を流して動かなくなった。ストレージに吸い込んで死亡確認。これで一安心。と思ったら……。


——ドッドッドッドッ


 後ろから大きな質量が走ってくる音がした。俺は咄嗟に盾で防いだが、すっ飛ばされた。五メートルは飛んだ。盾がなかったらヤバかった。


 急いで立ち上がった。痛い。多分、左腕を骨折してる。襲ってきたやつをよく見たら……猪だが、鼻の位置が俺の目の高さにある……。マジか。牙が鋭く尖って上を向いている。身体はどす黒い毛。目が怒っている。そんな気がする。もしかしてさっきのは子どもでこっちが大人の猪……? 魔獣じゃんか……。


 どうする? 逃げる? 追いつかれるだろうな。ハウスに逃げる手もあるが、それは最終手段だ。やるだけやってみるか。


——ブラインド!


 大猪の目に砂が入る。そして仕込んだばかりのボルトを三発撃った。猪の顔に刺さる。致命傷にはならない。大猪が俺の方へ突進してきた。迫力がものすごい。俺は横に逃げた。俺の顔があったところを大猪の牙が通る。冷や汗が出た。左腕がピキッと痛んだ。大猪の目はまだ見えていないはず。そのまま突進して正面から木にぶつかった。刺さってたボルトが顔にめり込んだだろう。痛い、俺は思わず片目をギュッと瞑った。


 この隙を逃したらやられるかも知れない。俺は走って大猪に近づいた。


——石!


 俺の唯一の必殺技、ロックフォールがクリーンヒットして、大猪は倒れた。やっぱり心の中のかけ声はロックではなくて石の方がしっくりくる。大猪は動かなくなったが、ストレージに吸い込めない。まだ生きているのか。俺は剣を出して猪の首を斬った。血が噴き出して、地面に積もった枯れ葉の上を赤黒く染めた。血の勢いがなくなってきたところで、やっとストレージに入った。


 他にも魔獣や猛獣がいるかも知れない。この場を早く離れたい。腕の痛みを我慢しながら、村の方へ小走りに走った。一、二分走ってストレージハウスに入った。



「ペプ、やばかったよ」


 ペプは座り込んだ俺に寄ってきて、痛む俺の左腕をペロペロ舐め始めた。


「お、ペプ、分かるのか。お利口さんになったな」


 猫に舐められたところで痛みは退くどころか、時間とともにだんだん増してきてるんだが。


 ペプを離して、ヒールのために集中する。胸の中心のマナが溜まっているところに、ピンク色のハートがあってピンク色のマナが出てきて左腕に流れるイメージ。成功した。痛みが消えた。力を込めても痛くない。元通りだ。ついでにヒールエネルギーを全身に巡らせる。めちゃめちゃすっきりした!


「よし、ペプ、帰るか」


 ハウスを出て村へ向かう。それにしても、森は怖い。今も帰りの方向がこっちでいいのか自信がなくて怖い。幸い合っていた。無事に村に辿り着いた。


「エリック、多分解決したと思う」

「本当かい? ありがとう!」

「この石が原因だったようだ。何か知ってるか?」

「いや、見たことがない」


 やっぱり冒険者ギルドに行くしかないか。これが魔石だったらギルドで分かるだろう。


「物ができあがったよ。こんなんでいいかい?」

「ああ、充分だ。素晴らしい」


 シャワールームができた。作りは簡素だが、真新しくていい感じだ。そのうち新しい小屋も作ってもらおう。俺はシャワールームをストレージに入れた。この村ではストレージ魔法のことはオープンにすることにする。いろいろと困るから。


「他にも注文があるんだがいいか?」


 俺は木四本と引き換えに、リクライニングチェアーと湯船を発注した。リクライニングチェアーについてはこの世界にないものらしく、俺が仕組みをレクチャーした。背もたれとフットレストが段階で角度が変えられるやつだ。完成したら貴族に売り込めると大喜びされた。発注したのは木のものだが、材料的には革張りも作れそうだな。まあ、まだいいか。


「ところで、猪を捌ける人はいるか?」

「ああ、お隣さんがそうだ。どうした?」

「二匹仕留めた。肉をお裾分けするから捌いて欲しい」

「ついてきてくれ」


 エリックのお隣さんは皮なめし職人だった。他にもいろいろできるんだろう。よく働きそうな若者だ。ストレージから出して猪を置いたら、俺のストレージ魔法よりも大猪の大きさに驚いている。


「俺は肉を半分もらえればいい。あとはみんなで分けてくれ。もちろん皮も差し上げよう。その代わり捌き方を教えてくれ」


 捌き方の概要を聞いたら、都会っ子の俺にはとても出来そうになかったので諦めた……。



 大猪は村人が五人がかりで捌いた。生肉を切り分けてもらい、ストレージに入れた。今夜は牡丹鍋で宴会を開いてくれるという。喜んで参加させてもらった。神様のような扱いを受けた。そりゃまあそうか、肉や木を持ってきたし、森の異常な浸食を(多分)解決したし。これからもちょくちょく寄るからストレージ魔法のことは秘密にして欲しいと念を押した。


 楽しい夜を過ごした。酔ってきたら疲れが出てきたので、早めにあがらせてもらった。もう日は暮れていたが、松明を頼りに街の方に向かい、途中でハウスに入った。


 シャワーは明日にする。




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