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エリース村

 日の出とともに起きた。ハウスには日が射さないが。


 早朝訓練。ストレージから、骨先生を呼んでスパーリングを始めた。


 骨先生は少し速くなっているが、パワーが大幅にダウンしている。パラメータを設定した通りだ。パラメータを上げればすげえ強くなるんだろうな。そしたら俺がボコられて死ぬけど。強さに応じて充填したマナの減りが加速されるだろうことは容易に想像がつく。


 一汗かいて、水を浴びて、ハウスの空気を入れ換えて、ペプのトイレの汚物を森に捨てて、ペプと一緒に朝ご飯。朝はフルーツがメインだ。このフルーツも大量に仕入れて搾ってジュースにしたい。そしてなんとかして冷やして飲みたい。


 一息ついて、ペプと一緒に村へ向かった。



 村に着いた。どこからが村なのかはっきりは分からないが。なんとなく、広く畑が続くが森に囲まれてて家が何軒か建っている、おそらくこの辺なんだろう。


 道を歩いて行くと材木が置いてある工房が見えた。俺と同い年くらいの男が働いている。


「すまない、俺はタクヤという。頼み事があるんだが聞いてくれないか?」

「俺はエリックだ。なんだい?」

「オリジナルの家具が欲しいんだ。作ってくれないか?」


 俺はシャワールームの説明をした。床があって、柱はあるが壁がない。一面だけ壁を作って灯りを設置できるようにする。


「任せてくれ。金は、そうだな、銀貨六枚でどうだ?」

「それでもいいんだが、相談がある。木を数本引っこ抜いてここに持ってくる。それでどうだ?」

「そんなことができるのか? それなら大助かりだ。できるならそれでいいが、先にやって見せてくれ」

「いいだろう」


 俺は、ストレージ機能を知られたくないからダミーの呪文を唱えた。一応、念のためだ。木を一本出現させるだけの魔法と思わせる。そもそもこの世界の魔法を全然知らないから、これが合ってるのかエリックがどう思うのかも分からないんだが。


「Auschwitz, the meaning of pain The why that I want you to die」


 ズトン。


 ストレージから大木を出した。マナが大きく減ってくらっとした。エリックは目を大きく開けて驚いている。


「……本物か? 騙してるんじゃないだろうな?」

「なんならこの木から作ってくれてもいい」

「生気て作ると乾いた時に歪むぞ?」


 ……そうなのか。まあ、そうだろな。シャワールームだから別に良さそうなもんだが……床とかねちゃねちゃしそうだな。



 エリックは木を叩いたり、斧で切り込みを入れたりした。


「分かった。これで引き受けよう。こんなことができるなら相談があるんだが……」

「なんだ?」

「一年ほど前から、森が広がって農地が潰されているんだ。信じられないほど早く木が生長する。猛獣も増えている。たいした礼はできないが、これをなんとかして欲しい」

「わかった。調べてみよう。しばらくこの村近辺をうろうろすると思う。あと、俺の魔法のことは誰にも言わないでくれ」

「わかった。よろしく頼む」


 そんな感じでシャワールームの発注をした。ちゃんと乾燥した木材で作ってくれるらしい。代わりにもう何本か木を運ぶのと、調査依頼を受けた。まずは、森が広がっているところを見に行こうか。聞いたところ、広がってきているのは森全体ではなくて、一カ所、一方向とのこと。きっと森の中をずっといくとなんかいるんだろうなあ。森の精とか。


「ペプ、村は初めてだろう? 長閑でいいところだな」

「ナア」


 この村は木々に囲まれている。森を開いて作ったのかもしれない。道の左右に畑が広がっている。今は何も育っていないようだ。ポツンポツンと家や倉庫のような建物がある。豚が放し飼いにされている。


 現場では、畑の一区画に木が何本も生えてきたという絵面になっていた。雑草は少ない、木だけが突然生えたような。実際この畑の所有者が見たところによると、ある日突然、背の高さの木が現れ、次の日になると成長していて、三、四日で他の森の木と同じ高さになったらしい。


 そうして、一ヶ月に一、二本のペースで新しい木が増え続け、畑が侵食されているとのこと。


「ペプ、どうしようか。抜いてもいいけど、マナがもたないな」


 とりあえず畑に生えた木を抜いて、数日かけて様子を見てみることにした。


 畑の、木の側からストレージハウスに入り、木を吸い込む。まあ当然卒倒するわけだ……。



  ◇◇◇◇◇



 五日間は木を抜いて卒倒を繰り返して過ごした。合間に骨先生とスパーリング。夜は読み書きの練習。読み書きというか読みだけだが。


 基本的に英語のアルファベットのように、音と単語がある程度合致しているので、すんなり覚えることができている。と言っても文章が手元にある紙束だけなので、経験値として全然足りなそうだが。しかし、そもそも不思議なことに何語か分からない話し言葉が完璧に理解できている。日本語ではないのはわかる。なぜだろう。転生したからか? それは分からなそうだから置いといて、文字が日本語のような漢字が混ざっていたらこんなに早く文字を理解できないと思うから助かった。



 木々をストレージに吸い込んでいるが、森に特段変化はない。木は抜いただけ抜けてそのまま。何か、木のうろが顔になってる枯れた大木みたいな木人が怒鳴りこんでくるかと思ったのに。これは、明日から森に探検に行かなきゃダメかな。


 寝る前にIDEを開いて解析の続きをする。


 画面下部にストレージのアイコンを発見した。開くとコードウィンドウが現れた。ストレージ魔法は吸い込みの場合、対象物の指定、対象物の保護、ストレージ窓のオープン、対象物の吸い込み、保護解除、ストレージ窓のクローズ、というプロセスになっている。最初の対象物の指定というのは、どうやら術者(俺)の思考から読み取って実行しているようである。これは興味深い。さすが魔法。


 吐き出しの場合は、対象物の指定、吐き出し先の空間のチェック、対象物の保護、ストレージ窓のオープン、対象物の吐き出し、保護解除、ストレージ窓のクローズ、というプロセスになっている。吐き出し先のチェックが入る。安全装置のようだ。吐き出した先の物体と重なって大爆発……が怖くて今まで試したことがなかった。


 ここまでが昨日の成果。今日はヒールのコードを見てみようと思う。というのは、骨先生に鎧で守られていないところを打たれて結構痛い。右腕と左肘と脛。なんとか治せないかと。ポーションもあるんだが、盗賊からゲットしたものなので何ポーションか分からない。どうせ回復だとは思うが、毒の可能性もある。


 骨先生は、どうやら学習するらしく、いつのまにか強くなってた。力と速度はそのままだが、俺の攻撃パターンを覚えるみたいだ。力を弱めてなかったら死んでたかも。


 ヒール魔法はおおまかに、魔法準備、マナを消毒素子に変換して注入、マナを回復素子に変換して注入、というプロセスだ。回復素子はマナで回復対象の生物の自己治癒力を高めるものらしい。細胞分裂を促すということになる。何度もヒールしたら細胞の老化が早まって寿命が縮むよな、って思ったら、細胞の若返りのコードらしきものを発見した。これはすごい。筋肉痛のようなちょっとしたことでもがんがん使える。使い方がわからないんだが……。


 消毒素子の存在を確認できてよかった。黴菌が入ってたら、回復しても破傷風で死ぬよなって思ってたんだ。解毒もできるのかな? 


 魔法準備っていうのは、理解できないコードがずらずら並んでるんだけど、マナ残量のチェックが入っているのはわかった。ファイアボールとヒールには入っていて、ストレージ魔法にはそれが入ってないからマナの使いすぎで卒倒するのかな。逆にそっちの方が便利だ。小屋とか俺の能力以上のものを吸い込めた。卒倒は毎回キツいけど。


 というわけである程度は理解が進んだものの、実行方法がさっぱりわからない。ソースコードがあってマナがあるんだから実行できてもいいはずだが。ストレージは実行できるんだし。ってところでふと思いついた。下段の、ストレージがあるところにセットすると使えるとか……?


 GUI画面の右のヒールアイコンを、下段のストレージアイコンの横にドラッグしてみる。そして……入った! 実行方法はストレージと同じなら考えるだけでいけそう。


 俺はGUIを閉じて、頭の中でヒール、ヒールとイメージしてみた。すると胸の中心から、暖かいエネルギーがじんわり広がっていくのがわかった。それをコントロールして腕と足に…… 痛みがとれた!


 その日はよく眠れた。



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