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第一章08 「カレン宅」

豪奢な内装に落ち着いた雰囲気が合わさり、旅の目的地はここだったのか?と少し疑問に思うが、どうやらここがカレン・シュヴァリエ・フレアノートの邸宅らしい。

一歩踏み占める度に高い天井に足音が反響し、旅終わりの汚れた装いで入っていいのかさえ躊躇してしまう。

煌びやかなシャンデリアが高い天井から吊り下がり、白を基調にした床板などを輝かしく照らしていく。

「まあ、楽にしてくれ」

俺たちはその中の一室へ通され、勧められるままソファへ腰掛けた。

実に落ち着かない心地だ。ソファがこれほども沈むとは。

「滞在中は人を置いているんだが、最近は知っての通り旅続きだっただろ?今はたまに風を通しに来てもらうだけで無人なんだ」

曰く、小さい屋敷らしい。

カレン個人の所有物であり、フレアノート家の本邸とは比べ物にもならない、普段使いの屋敷とのことだった。

これで小さいと言われるなら、本邸は一体どうなっているのか想像もつかない。

少なくとも、俺の知っている「家」とは別物だった。

「なんというか、レーディアントに来てからは驚きの連続だな」

俺は惚けた顔で室内を見渡し、つぶやいた。

「そうね、凄く同意するわ」

珍しく意見が一致して、リゼも落ち着かないように室内をきょろきょろと眺めていた。

そうこうしているうちにセレナがせっせとカートを引き、お茶の用意をしてくれた。ありがたい。

「さて、道中で大体全部を話したと思うが、一応おさらいだ。1つ、これから君たちがする事はダンジョン攻略だ。正確には道中でモンスターを殺しスキル因子を取得する」

「これからは俺たちがルミナスで思い描いていた冒険者生活が始まるってわけか」

「それも王都でね!」

こればっかりはテンションが上がって仕方がない。やりたくてもできなかったことを実現できるんだからな。

カレンが笑顔を浮かべ、いいかい?と続けた。

「2つ、情報収集だ。勇者は1人ではない。もしハルキと言われる集団が他にもスキル:勇者を取得するために襲われた勇者の情報を集める」

「これは手掛かりが本当にないから、地味な聞き込みとかも必要かもな」

「ロワイがね」

「お前も手伝うんだよ!!あ、いや、違う。リゼが主体でやるんだよ!!」

たまに忘れそうになるが、俺がリゼを手伝ってる身なのだ。

そしてカレンは俺たちが静かになるのを待ち、まるでそこが本題だといわんばかりに言葉を続けた。

「3つ、楽しむこと。恨み辛みだけで動き続けられる人間はごく一部だ。君たちがそれに当てはまるとは思っていない。故にこの街レーディアントを、そしてダンジョンを楽しめ。自由な奴が最も強い」

それだけを一気に言うとカレンはカップを手に取って香りを楽しむように一口含むと満足したようだった。

俺は一瞬ハッとなった。妙にその言葉が胸に刺さったからだ。

「最後のやつは初めて聞いたな」

「そうだったか?当たり前すぎて言葉にしていなかったかも知れないな」

少しだけ視線を俺に投げてまたカップに視線を落とした。カレンが言葉を終えると、隣に控えていたセレナが遠慮がちに口を開いた。

「わ、私とカレン様は数日は報告などやる事があるのでこの邸宅にいる予定です……。ですが、恐らく次の目的地が決められていることと思います……。私達が滞在している間はこの屋敷の部屋で寝泊まりして頂いて結構ですが、それまでにおふたりは次の宿を探していただく必要があります。ここもずっと解放はしていられないので……」

「あーそれに関しては申し訳ないが、そういうことなんだ。行く末次第では家を借りたり、買ったりする選択肢が出てくると思うが、当面はここを拠点にしてくれ」

少しバツの悪そうにカレンは視線をこちらに向けながらそう言った。

誘った手前、面倒を見きれないことを申し訳なく思ったのだろうか。旅の途中でも思ったがカレンは面倒見が良い。でなければ、俺たちを命令外でわざわざここまで連れてきたりはしてくれなかっただろう。

「そこまでご迷惑をかけるわけにはいかないので、丁度良いくらいです」

「そうだな、手伝いはしてもらったがここからは俺たちで何とかしてみよう」

元々無かった繋がりだ。でなければ、何者にもなろうとせずに街に引きこもっていたことだろうからな。

俺はカレンの邸宅を改めて眺めて、ふんっ…と鼻から息を吐いた。

「いつまでのこんな夢のようなところに居れるわけはないか…」

「ハハハ、こんなのは大したことないさ。冒険者として大成すればだがな。とりあえずここを出ていくにあたっては、そうだな、まずは11層を目指すといい」

俺のボヤキが聞こえたカレンがフォローを入れてくれた。

「11層にはなにがあるんですか?」

気になったリゼが質問をし、俺はカレンの応答に耳を傾ける。

「それはその目で確かめてほしいのだが、敢えて言うならば、10層までは冒険者としてギリギリその日暮らしができるくらいの謂わば、初心者階層だからな。11層以降で活躍できて一人前というわけだよ」

「じゃあ、これくらいの邸宅を立てるにはどれくらいの階層まで行く必要があるんだ?」

「そうだな…。ざっと30階層か?」

俺の質問にカレンはにやりと豪胆な笑い顔で答えてくれた。

「ほぼ、最深部じゃないか!!」

「ハハハ、すまない。からかっただけだ。許してくれ。でも実際に11層で一般冒険者、21層で達人冒険者、31層で英雄冒険者と言われるくらいだ。それくらいでないとな。この邸宅は安くはないぞ」

「なるほどな。とりあえずはこの30層クラスの邸宅を追い出されてもいい様にそれまでに11層を目指すのが当面の目標ってことになるのか」

俺は口元に指をあて、瞑目し思案する。

「まあ、あたしとロワイでなんとでもなるでしょ」

閉じた瞼を上げると、ね?とリゼが目くばせをしてくる。

「今のままだと、あたしとロワイじゃなくて、ロワイがなんとかするでしょ!ってことだろうが!」

「あはは、ばれた?」

びしっと俺はリゼを指さしつっつこみを入れるがリゼは悪びれた風もない。

「まずはレーディアントの冒険者協会に行くといい。ロワイとリゼはルミナスで登録済みだがダンジョンの手引きもしてもらえるから一見の余地ありだぞ」

「わかりました。ありがとうございます。まずは街の散策も兼ねて冒険者協会に行ってみます」

「そうだな。俺も街を見たくてうずうずしていたんだ」

膝に手をついて俺は立ち上がった。

「それならば丁度良い、私も本家に行く用事があるんだ。一緒に出よう」

俺に続いてカレンも立ち上がり出ることとなった。

レーディアントの冒険者協会。何もわからないことが楽しみで仕方がない。

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