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第一章06 「弱いということ」

善は急げ、と言う。そもそもカレンもルミナスに長居するつもりもなかったということもあり、その日のうちに旅支度を済ませ、翌日には旅立つこととなった。

路銀はゴブリンのせいで、というかお陰でとも言うが、十二分に手元にあったので苦労しなかった。

大きめの背嚢を背負い俺とリゼはルミナスを後にする。

カレンとセレナも同行してくれるので、案内人がいるのはありがたい。

俺もリゼも街の外に出ることは多々あれど遠出をしてどこかに行くのは初めてだ。

街の間を移動するのは商会などの物の移動で儲けを出す人々や旅人などの吟遊詩人が主で、その他としては今回の俺たちのように冒険者を志しダンジョンやかつての遺跡を目指し、一攫千金を狙うなど様々だ。

物見遊山で巡礼などは殆ど稀である。

出発して4人で歩き始めた辺りでカレンが口を開いた。

「さて、街を出たが今回の旅には気をつけることがある」

「リゼのことだな?」

今回のキーポイントになる。俺はさっと口を挟んだ。

「その通りだ。実は少し観察させてもらっていたが、リゼの感情のゆらぎによってモンスターが呼び寄せられていると思われる。なので、この旅ではリゼは戦闘禁止とする」

「わかりました」

戦闘になれば否応なしに感情が高ぶるからな。

しかし、リゼは素直にカレンの言うことを聞くが疑問が残る。

「その判断自体はわかるが、いいのか?この旅はそもそもリゼを強くして自衛できるようにする旅だろ?及び腰で掛かっても?」

「そうだな、先に今回の旅というか、王都での目的にも繋がるが、軽く意識合わせもしておこう。まず、リゼには強くなってもらう。勇者として王都に召喚されるとはそういうことなのでな」

「ただ、今回は勇者ではなくなっているので、少し違うと?」

「その通りだ。本来は四大貴族の直轄軍の預かりになり、訓練を行うことになるが、恐らくだがそれは免除されることだろう。その代わり私個人がはかる便宜以外に後ろ盾はないと思ってくれ」

「強制的に実質の拘束扱いを受けない代わりに見返りもないってことだな」

「その代わりにリゼとロワイにはダンジョンに潜ってもらおうと思っている」

「ダンジョンですか?」

「あぁ、そうだ。王都レーディアントはそもそもがダンジョン都市だ。そこが大きく発展し、礎になっている。つまり、莫大な資金を産業として吐き出しているのはダンジョンだということだ」

カレンは左手の小指と人差し指につけている緑色のリングを見える位置に掲げて続けた。

「ダンジョンから吐き出されるのは主に魔石とこう言ったリングだが、鉱物やその他不思議な力を秘めたアイテムも産出されている。それらを探し生計を立てているもの達を冒険者という。君たち二人にはその冒険者になってもらおうと思う」

「ダンジョン探索をして出たアイテムを献上しろってことか?」

「でも、それで強くなれるなら目的は達成できる的な?」

「ははは、そんなことは言わないさ。ダンジョンは知っての通りモンスターを無制限に吐き出していると思われる。倒したモンスターも一定時間経つとまたどこからとも無く現れる」

「コイツらの生態系はどうなっているんだ……」

モンスターも生き物だ。そうでない生き物がコミュニティを築くように、モンスターもコミュニティを築いている。

「そこは、ダンジョン外とダンジョンで少し違うんだが、実際に目にすることを楽しみにしておいてくれ」

続けるぞ、とカレンは言った。

「そして、お目当ての魔石を落としてくれるのだが、階層を深く進む度にやつらは強くなる。そして、同時にスキル因子やステータス因子も保有しているので、スキル強化やステータス強化に役に立つ。これらの理由からダンジョンで生計を立てつつ、因子を集め自らを強化していくという寸法だ」

因子とはスキルやステータスを構成する要素のことだ。スキルとはそもそもが因子同士が結合した結果、スキルとして再現されているに過ぎない。俺の場合は剣士の因子に水のエレメント因子が付く形で発現している。

「なるほど、リゼがなんらかの因子を盗られ、その盗られた因子の代替物になる因子もあるかも知れないということか」

勇者の因子なんてものがこの世に存在するかは甚だ疑問であるが、別にその物である必要もないだろう。

「そういうことだ。地上で魔物を倒すのとはまた違う強さを得られる。それは地上ではえがたいものだ。そして、同時に冒険者として生計を立てることができる。私も連れていく手前多少の支援はしてやることはできるが、勇者でないリゼを国家としてバックアップはできないだろうからな」

「自分の食い扶持は自分で稼げってことか。今とあまり変わらないな」

「そうね。二人で頑張ろう!」

「やる気十分で結構」

カレンが頷きながら説明の結果に満足していると、セレナが後ろの方から話しかけてきた。

「あ、あの御三方。前方からモンスターが来ます。街道脇の右岩の当たりです」

「おお、本当だ。話に夢中になって気がついて居なかったな。セレナはリゼを頼む。リゼはそのままセレナの傍に居てくれ。そして、ロワイ私が援護するから好きに動いてくれ」

「了解だ」

セレナの索敵能力は中々のもので、言われた場所を注視してもすぐには気がつけないものだった。ゴブリンが5匹。特徴のある個体は見受けられないが、モンスターを専門に相手にしていない一般人が敵対すると怪我では済まない数だ。俺は3人から先行して街道を少し逸れて、岩陰から視線を切る位置から、岩陰に近寄った。恐らくだが、この5匹は俺たちに気がついて待ち伏せをしている。3人に視線を残すように動き俺だけは隠密をしたおかげで、ゴブリン達は俺が既に岩の裏側にいることに気がついていない。

カラリ、と近づいた岩の上から破片が落ちてきた。風が吹いており、流れは俺の方へきている。臭いで存在がバレることはないであろう。

「さて、ここからどうしたものか……」

1匹1匹は大したことがない。こないだはリゼがゴブリン達の視線を集めきっていて、俺のことを完全に無視していたので、数は物の理由にならなかったが、今はそうではないので俺が一人で相手取る必要がある。

3人は俺が先行して隠密に移った段階で足を止めているので、ゴブリン達は息を潜めているが、堪らずに出てきた所を攻撃するのは難しそうだ。

俺はある事を思いついたので、実行に移した。

まずは手頃な小石を街道側に投げ入れ、ゴブリン達の気を引いた。

「スプラッシュシュート……」

ボソッと呟き引き抜いた剣に水をまとわせ、引き抜いた勢いのまま空へと水を撒いた。そのまま2度、3度続けて岩の向こう側へ落ちるように振りぬいた。

そして、水がゴブリン達に降り注ぐ。

「ぐァ……?」

石に気を取られ街道側へほんの少しだけ顔を出していたゴブリン達は今度は上方向へと視線が誘導され、俺はその隙をつき、腰から短剣を三本ゴブリン達へ投げつけた。

「ぐァ!!」「ぐ……」「アァ!」

中ほどの3匹に短剣が命中し、ゴブリンには更に大きな隙が生まれた!1番手前にいたゴブリンは既に臨戦態勢に入っており俺へ棍棒を振りかざしながら近ずいてきている!

俺はそれを一旦回避し、振り下ろされた棍棒を踏みつけながら、ゴブリンの首を落とした!

「まず1匹!!」

既に短剣の怯みから回復した2匹目、そして3匹目が半狂乱になりながら突っ込んでくる。

俺はそれを冷静に見極め距離を詰め、駆け抜けざまにそれら2匹目を的確に切り裂いて抜けた。

「3匹!!」

もう、後は簡単だった。短剣がいい所に入った4匹目はまだ動けずにいる。5匹目が状況を察し一瞬だけ睨み合いになったが、単体では大したことない相手だ。油断せずに距離を詰めカウンター気味の棍棒を避けて一撃を叩き込んだ。

「4匹目!」

息を吐く間もなく最後の1匹へ踏み込む。

「5匹目!終わりだ!!」

回復した4匹目は逃走の構えだったが、それは許さない。背後から切り裂き見事5匹のゴブリンを無傷で倒しきった。

「ふぅー……!案外何とかなるもんだな」

小さく息を吐き呼吸の乱れを軽く落ち着けてから、

「おーい!」

と、3人に声を賭けようと振り返った瞬間だった。

「しゃがめ!!」

俺は反射的に身を伏せた。

そして、ザシュッ!と俺の背後で音がした。

「敵は5匹ではない!6匹だ!!」

いつの間にか距離を詰めていたカレンが背後から襲ってきていたであろうゴブリンを切り裂いていた。

「なっ……!こいつはホブゴブリン?」

少し大きめの紺色のようなゴブリンが横たわっていた。

「そうだ。どうやら岩の上に潜んでいたらしい。ゴブリン達を囮に使い、油断したロワイを倒す算段だったのだろう」

「上だったのか……!」

それよりも、こいつは俺が派手に水をぶちまけていたのも無視して潜んでいたということか。

「危ないところだったな」

こいつは力強い。カレンの助けなく背後から気づかずもらっていたらそのまま負けていただろう。

「あぁ、ありがとう」

「問題ないさ。援護するって言っただろ?中々やるではないか」

「だが、漏らした」

「そう気負うな。元々リゼと二人で動くことが多かっただろう?ただ、これくらいの相手には正面から切り伏せるくらいの強さは欲しいがな!それは今後強くなってもらうとしよう」

「そうだな、期待していてくれ」

俺はまだまだ弱い。

その認識を胸に前に出ていくと決めた。なので、仕方ないという態度を取りながらも決意を秘めて答えた。

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