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第一章04 「ゴブリン」

カレンから突然の誘いを受けた翌日。

俺たちは久しぶりの日常を過ごしていた。

成人式を終えたからと世界が一変するわけではないのだ。

地味だけど、少しの発見がある日常を過ごしている。

ルミナスはそこそこの規模の都市だが、所詮は地方の都市だ。主な産業は農作になる。王都から離れた土地で、諸国側の東を高い山に抱かれ、国境の境ではあるが交通の便が悪く凡そ大勢の軍勢が踏破できるような環境になく、戦争とは無縁と言える場所だ。西側には平原が広がり、そこが主な農作の産地となる。

俺やリゼの仕事は、外れの方から来る魔物や野盗などから農作物や農民を守ることだ。

哨戒任務とその間引きになる。

「しかし、驚いたな」

俺は農地用のあまり整備されていないあぜ道を進み周囲を警戒する。話題は昨日のカレンから告げられたことだった。

「そうね、私は九死に一生と言えるかもね」

「確かにな、勇者のままだったら強制だったらしいからな」

「でも、強くなれるなら王都に向かうのも私はありだと思うの」

「そりゃ、なんでだ?」

視線も向けずに軽い調子で俺は尋ねる。

「孤児院にずっとお世話になる年齢でも無くなってきたし、成人を機に外で暮らそうって話してたでしょ?別にルミナスで無くてもいいかな?って思ってね」

「なっ!?そんなこと考えてたのか?」

俺は初耳の情報に周囲の警戒もおろそかになり、本気で驚いていた。

「そんなに驚くことじゃなくない?」

「いやいや、驚くだろ。全然そんなこと考えてるなんて知らなかったからさ」

「私だってちゃんと考えてるん……です!」

リゼはそう言いながら目の前に現れたゴブリンを切り払った。

首を的確に狙った一撃により飛びかかりざまのゴブリンは大きく悲鳴も上げることなく、小さく鳴くと即座に絶命した。

「続けて来るぞ!」

俺たちは会話を中断して戦闘へと移行した。

ゴブリンが更にもう1匹リゼへと飛びかかった。俺はリゼへ目配せをして、そのゴブリンに切りかかる。リゼへの攻撃を阻止する目的で、そのゴブリンの鋭い爪を弾くように横から弾き手首から先を切断することに成功する。ゴブリンが悲鳴をあげ、怯んだ隙をリゼが首をはねて2匹のゴブリンの討伐が終わった。

「ふぅ、お疲れ。今日はやけに多くないか?」

俺はリゼに声をかけつつ、討伐の証である、右耳を切り取りながら話をする。

腰から短剣を抜き、首だけになったゴブリンを持ち上げ、慣れた手つきで作業を進める。

「確かにそうね。それも狙われるのはさっきから私ばっかりで、どうなってるのかしら」

「そうだよな。何故か目の前にいる俺ではなくて、リゼの方へまっしぐらなんだよな」

「もしかして、このリゼ様の存在感にモンスター達が引き寄せられて……?」

「冗談言ってる場合か!」

「もしくは、ロワイの存在感が薄すぎて気づかれていないだけかもね?」

「勝手に人を消すのやめてもらっていいですかね!?」

つまらない冗談を挟んでいると今度はドタドタと大きな足音を鳴らしながら正面からゴブリンが5匹走ってきた。

「もう、本当にどうなってるのよ……」

ゲンナリと言った感じでリゼが言いながら、再び俺たちは剣を構えた。例に漏れず5匹はリゼにまっしぐらでこの日俺たちは俺たちの一日のゴブリンの討伐記録を悠々と塗り替えた。


戦闘の回数がシンプルに多く、大きな怪我こそないが、俺たちは疲労する足腰に鞭を打って帰路につこうとしていた。

いつもの哨戒任務で行っているルート探索ではここまでの討伐をすることは今までで無かったことだ。明らかに何かがおかしい。

そして、おかしな事は続くらしい。

「リゼ、気づいているか?」

「ええ、どうやら囲まれているみたいね」

ぬかった、としか言いようがない度重なる戦闘で疲れていたとはいえ、この数のモンスターに囲まれる経験なんかありはしない。

「変なことが続くが尚更に変だ。今日のモンスターはリゼを見るなり襲ってくるゴブリンばかりだったが、今度はタイミングを測っているのか?」

息遣いの気配をそこかしこの草むらから感じるが、すぐに襲ってくることがない。

「まるで、なにかの合図を待っているみたいね」

「そういうことだな。少なくともホブゴブリンかそういうボス個体がこれは控えてるな」

モンスターの力関係は簡単だ。強いものが統べる。ゴブリン達が誰かの命令を待っているということ。

感じる気配がじわじわとにじりよってくるのを感じる。詰められ初めている。

「どのみちこの数には対応しきれない!一点突破で助けを呼ぶしかないだろう!」

「私もその意見に賛成!」

俺たちは街の方へと駆け出した。

陣形を組まれているなら、陣形を崩す動きをするしかない。

駆けると前方の草むらからゴブリンたちが立て続けに現れる。

「ほら、出てきたぞ!!」

俺が先に立ち、ゴブリンを雑に薙ぎ払う。何故だか俺は狙われていないから、危険を省みるリスクを半分捨てて、リゼに向かうゴブリンを切り続ける。

「これは、討伐の証を回収するのは無理そうね!」

「命あっての物種だ!生きて帰るぞ!!」

「ロワイが何とか回収してよね!!」

「無茶言うんじゃねぇーー!!」

ざんっ!!叫ぶ声に合わせて切る!切る!切る!!

「ウォーターリフレッシュ!」

連戦により、ゴブリンの血で塗られた剣に俺のスキル:剣士の能力を纏わせる、そして、空間を振り抜き、血を払った。

俺の能力は剣に属性を付与する力だが、攻撃力が上がる類ではない。このウォーターリフレッシュには水を滴らせて剣の切れ味を戻すくらいしかほとんど使い道がない。

だが、連戦においてこの力は役に立つ!

「ゴブリンの死体が山のようになって、身動きが取れなくなる前に突っ切るぞ!」

「もちろん!」

だが、後ろを走ってるリゼがズルリと流れたゴブリンの血で滑り、足を止めた。

「大丈夫か!?」

「大丈夫!」

俺も足を止めて、リゼを一瞬待た時だった。

空から火球が降り注いだ。

それも、3つ。

バコんっ!!と地面が目の前でえぐり取られ、視界が白らんだ。

立ち止まったのが幸いしたのか、俺たちの周囲のゴブリンの死体と生きているやつも含めて吹き飛んだが、チリチリと熱が肌を焼くのを感じるがなんとか俺たちは生きている。

「そうか、ボス個体は……」

「ゴブリンシャーマン!!」

火球の飛んできた方を見ると視線が開けており、その先に魔杖を携えたゴブリンが3匹見えた。その身をボロ切れと骨のようなアクセサリーの装身具で纏い豪華に着飾ったその姿は、ひと目で別格の個体だとわかった。

「リゼ急ぐぞ!」

「言われなくたって!!」

俺たちは再び駆け出した。後ろをゴブリンの群れが追いかけてくるので、詰まるだけで物量で押されて負けてしまいかねない。

だが、前に踏み出すということはゴブリンシャーマンの射程内にどんどん近づくということでもある。

どちらにしても、ボス個体を何とかしないことにはこの戦いは終わることはない。

俺たちの進行方向のゴブリン達はゴブリンシャーマンの攻撃を避けてか、道が開けている。

これは好都合かも知れないと、走りながら思い、剣に水を纏わせる。

ゴブリンシャーマン達がまた火球を放つ。速度は問題なく捉えられる!

「ウォータースプラッシュ!!」

眼前に迫った火球が2つに割れ、後方に抜けた。続け、切る!切る!!

魔法は単純な物理攻撃だと、弾くことも難しい。だが、相反する属性で触れることで、干渉することができる。

「リゼ、悪い!脇から出てくるゴブリンはなんとかしてくれ!」

「任せて!」

火球が効かないとわかり、引く頭脳があればいいが、愚直にもゴブリンシャーマンは次の球を打つ準備に入ったようだ。恐らくだが、連発ができず、火球を練り上げるのに時間がかかるタイプであろうと予測し、ゴブリンシャーマンに突っ走って行く!

後ろのゴブリン達は何故かリゼにご執心な用なので、この際利用して顧みない!

「うぉぉぉぉ!!」

火球の錬成が完了した端から火球が放たれる!俺はそれを迎撃しつつも、足は止めない!

あと少し!あと一歩!と距離は縮まって行き、何かに取り憑かれたように逃げることをせず、火球の錬成を止めなかったゴブリンシャーマンを3匹纏めて薙ぎ払った!

ゴブリンシャーマン達の首と胴体とが別れを告げ戦火が周りに残るのみとなった。いや、した。

「ふぅ……なんとかなったか」

一息安堵のため息を着いた。

実際、ゴブリンシャーマンが使う魔法が炎魔法でなかった場合かなり危なかった。なんせ、対処のしようがないからだ。

「ロワイナイスっ!!そんで!こっちも手伝って!!」

「くそっ……!そうだった!!」

俺は振りぬいた剣に水を纏わせて、切れ味を回復させ、リゼの方へ来た道を戻っていく。

俺が抜けて囲まれ初めていたリゼの包囲を破り、ゴブリンを斬り伏せ外側からこじ開けていく。外側からは難なく複数のゴブリンを倒し、リゼの隣に立った。

「おい!リゼ!大丈夫か!!」

「なんとか!こいつら急に動きが鈍くなったお陰で!」

「そうか!司令塔が消えて一時的に混乱してるのか!」

「そういうことね!ならやる事は1つね!」

「あぁ、雑魚狩りだ!!」

そして、俺とリゼは思いのままに剣を振るい続けた。


「あーダメだ。もう腕があがんねぇ」

「こっちももうダメね……」

俺とリゼは背中合わせに座り込み、肩で息をしながら暫しの休息を取っていた。

周りには血の海が広がり、展開させた惨状が戦闘の激しさを物語っていた。

「だが、今日も勝ったぞ……!!」

「当たり前でしょ……私を、リゼ様舐めんなよって……!」

「俺もだぞ……忘れるなー」

「それもそうね、助かったわ。ロワイ」

「……おう。さて、あんまりずっとこうしている訳にもいかないな」

世の中は思ったよりも堅実的なのだ。俺は脇から短剣を取り出すと、近くのゴブリンから右耳を剥ぎ取り始めた。

「うぁーこれ、本当に全部するの?」

目の前にはというか、俺たちの周りにはゴブリンの死体が山のように積み上がっている。

「流石にちょっとは手伝えよ?倒してはいお終いじゃないんだからな」

「わかってるわよ。1本頂戴」

俺は脇から更に短剣をを抜くと、リゼにそれを渡した。

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