第一章17 「順調と不穏」
「順調だな」
俺は現れては切り伏せるを繰り返しながら、慎重に歩を進める。
今は9階層の半ばほどである。
「そうね、これも修行の成果ってわけね」
その後ろをリゼがリラックスしたような、少し脱力とも言える感じで着いてきている。
「ちょっとだらけすぎじゃないか?」
「まあ、そうかも」
「自覚はあるんだな」
「ロワイも強くなったことだしね」
「それはそうにしてもだな・・・」
それとこれとは別の話では?と思い苦言を呈する。
「あとは私が変に気をはってスキルで敵を引き付けても仕方ないでしょ?」
「現状、ONにする方法はわかったが、勝手にONになったスキルをOFFにする方法はわかってないからな」
時間経過のみでリゼが落ち着くのを待つしかないことに変わりはない。
意味もなく俺は視線を巡らせて、逡巡する。
「緊張が一番の敵ってわけ」
「もっともらしいことを言ってからに・・・」
実際問題、条件を整えるか緊急の場合以外にリゼが戦線に参加することは俺も歓迎できることではないのは事実だった。
それに俺自身が強くなり、9層くらいだとリゼの助力もなしにほとんどソロで先に進めるほどではあった。
同時にリゼも同じ修行をこなし、戦闘経験は戦闘回数が多い俺に軍配が上がるが、それ以外はほど同じといって良いだろう。
俺のスキルは剣を振る上で多少は有利ではあるが、その成長の兆しはない。
「ところで、地図が10層までしかないけど、この先どうするんだっけ?」
「ああ、そうだな。値段的に10層までの分しかその時は買えなかったんだよな」
まだ、レーディアントに来た時に金がなかった時の話だ。
「そうそう、攻略は32層くらいまで確認できてるんだっけ?」
「本当の最前線だな。この調子の今の俺たちじゃ逆さになっても、勝てない敵がうじゃうじゃしているんだろうな」
「それでそこだね。私たちは強くなるためにここにきているんだから」
「話が逸れたな。10層はいわゆるボスフロアといわれるとこらしくて、作りも単調でなにもないらしいから、この地図も実質9層までのマップだな。11層に入って軽い調査とモンスターの強さの肌感を得られたら一度ダンジョンを出ようと思ってる」
ボスフロアはかつてはボスと呼ばれる唯一無二のモンスターがいたらしいが、いつの間にか倒され再出現もしないので、今は空っぽのフロアとなっているらしい。
聞くところによるとその最前線の攻略が終わっているのが32層までで今は40層を目指しているのがワールドエンドホール全体の攻略進行度とのこと。
「バンドルリングを手に入れたとは言え、食料にも限りあるしね。あと、お風呂に入りたい」
「ハハハ、そうだな。そういうことを言えるようになった余裕はいい傾向なんだろうな」
限界ギリギリの状況の緊張感の中での攻略は精神と体力的にも消耗してしまう。
強さを求めず、商業的にダンジョンに潜り生活費を稼いでる者たちもいるが、
俺たちはそういうわけにはいかないから先に進むしかないとはいえ、ゆとりや安全マージンは必要だ。
少し笑いながらも進行できている俺たち。
状況としてはこれ以上ないくらいだろう。
「ダンジョン攻略はどうしても何日も潜るから、これは死活問題だよ。他の人達はどうしてるのかな?」
「このくらいの階層にいる探索者は我慢しているんだろうな。もっと奥まで行けば便利なリングもありそうだけど、
組み合わせで考えたら、ウォーターリングとファイアリングの組み合わせでお湯は作れるからあとは桶か?」
「後片付けを考えなくていいなら地面に穴掘るか、その辺の窪みにでもお湯を貯めたらできそうだね?」
「確かにそうだが、それでいいのか・・・?」
ふと、想像してみる。地面に空いた穴に裸で沐浴をする自分を。シュールすぎる。ともすれば水溜りにはまってる人だ。
「よくないね。せめてつい立とカーテンは欲しいかも」
「気にする点はそこではないだろ!」
同じことを考えていたが、本当はダンジョン内は危険地帯だ。そんなところで肌をさらすこともリスクだし、モンスターに襲われでもしたら、一大事だろう。
「いやいや、気にするよ。だってロワイが覗くでしょ?」
「いやいや、覗かないから!!」
いやいやいや・・・。
ダンジョンに潜って今日で3日ほど。確かにお風呂にも入りたくなるし、言っているリゼも装備に汚れが目立つが、
リゼは基本は美少女と言って差し支えないのだ。
その姿を覗きたくないといえば、嘘になるがでも俺たちはそういう嬉恥ずかしな感じを超えて今の仲になっているんだ。
今更、そんなワンミスの覗きイベントで崩れる関係性ではないが、ワンミスはワンミスだ。親しき中にも礼儀あり。これ大事。
視線を感じ、後ろを振り返るとリゼが眺めてくる。
視線が交差し、一瞬だけの間があった。
「やっぱり気になった?覗きたいんだ?」
「いや、違うから!!!」
いや、いやいやいや、これ本当。
・・・たぶん。
そんな感じで雑談交じりに強くなった自分を実感しつつ、9層をサクサクと進めていく。
探索そのものは地図もあり、平坦なもので、本当に大きな問題は増え続けるゴブリンの群れくらいなものだ。
だが、それも修行の成果で、ゴブリン狩りのスペシャリストといっても過言がないほどに狩り尽くしたこともあり、
本当に大量に一斉に襲われないことには問題がないようになってきている。
そのまま探索を進めていると程なくして10層へ降りる階段が見つかり、俺たちはとうとう、マップ最後の場所に訪れた。
しかし、とうとう、というほど感慨深いものもなく、そこはただ広いだけの石造りの広間だった。
ダンジョンの1層は相当に広い。地形の問題もあるが1フロアを隈なく歩き切ろうと思うと1日で歩き切るのはほぼ不可能なほどだ。
だが、こと10層単位で配置されているらしいボス部屋は見渡せるほどの距離しかなく、うすぼんやり光っているダンジョン全体とは違い、明確な光源である松明が壁には設置され、天井からも吊るされたランタンのようなものが燃え続けている。
そのおかげで10層はほかの層に比べて格段に明るかった。
「なんだか、明るいね」
リゼも同じ感想を口にする。
「そうだな。拍子抜けするくらいに何もなくて、ほかの階層に比べて明るいだけの部屋だな」
「それにモンスターの気配も感じないし、ボスが昔にいたってだけで今は特別な場所でもないのかもね?」
入口から少し離れた場所に目を向けるとそこには他の探索者たちが残したであろう生活の痕跡がまだ残っていた。
ダンジョン外から持ち込んだものは放置しておくと、ニウムに取り込まれてしまいどこかに行ってしまうので、
ごみの処理のようなことは必要ないが、ほったらかしにしたものもすぐに消えるわけではないので、
こうやって1日や2日くらい前にいた探索者の痕跡を今までもみたことはあった。
つまり、ここはモンスターも沸かないからキャンプにはもってこいというわけだ。
「特に何もないみたいだし、素通りして11層を見て少し回ってからここに帰ってくるか。ここでキャンプも問題なさそうだ」
「そうしましょうか」
俺が前、リゼが後ろに続くフォーメーションはそのままに、俺たちは11層を目指して10層を素通りしようとした、その時だった。
ひゅ・・・っと上から気配を感じた。俺の後方にそれは落ちた。そして、それは少し気の抜けていたリゼに落ちたことと同じだった。
「ひゃ・・・!!!!」




