第一章15 「ロワイとゴブリン道場」
俺とリゼはダンジョンのマップと睨めっこをした結果。
今回の作戦に適している場所を探し7階層のメインストリートから外れた場所にいた。
目標はゴブリンの大量討伐をし、体力増強をすることである。
地上にいる時に決めたことである。
俺はその時のことに思いを馳せる。
「作戦会議をしよう」
「先に進むためにね」
「その通りだ。なんとなく戦うだけじゃこの先ダメだと思い知ったからな。ヒントはもらったからこれを元に組み立てよう」
ヒントとは因子のことだ。
「シンプルにダンジョン探索をしながら強くなるじゃダメなの?」
「あのな、忘れてるかも知れないが、俺はリゼを守りながら戦っているんだ。今までだと確かにそれで良かったし、二人で強くなることで色々な事を乗り越えてきた」
ルミナスで最後に二人でゴブリンの群れを討伐したのは少し前のことだ。だが、あの時から兆候はあったのだ。
「なによそれ!私がお荷物みたいじゃない!」
リゼが憤り俺に噛み付いてくる。
「みたいじゃなくて、事実そうなんだよ!!」
「ひっど!!私も戦えるのに!」
腰の剣に手をかけて、前へ出ようとするのを俺は全力で制した。
「お願いします!やめてください!!」
そんなことをすれば敵か俺たちかどちらかが殲滅されるまで戦いが続いてしまう。
リゼの引き寄せるスキルは相当にやっかいだ。
「いや、まてよ……?」
ふと、思いついたことがある。
「どうしたのよ?」
「やっぱり、リゼにも戦ってもらおう」
思いつきをぽつりぽつりと言葉にしていく。
「え?本当に?」
「てめぇ、ふざけるなよ……」
戦わせようとするとキョトンと正気?みたいな顔でこっちを見てくるリゼ。
俺は拳だけを握りこむに留めた。
気を取り直して、提案をする。
「あぁ、一肌脱いでもらおう」
そうして、決まった作戦の全容はこうだ。
まずは、袋小路になっており、背後が取られない小部屋を探し、ここへやってきた。
そこをキャンプとし、俺が先行してゴブリンを探す。
ゴブリンを見つけると俺が引き付けて、リゼと交代しリゼが2、3撃ち合い、そのままキャンプまでゴブリンを引きつける。
そうすることで、リゼが臨戦態勢になるので、引き寄せるスキルが発動する。結果、立派なモンスタートレインの出来上がりだ。
あとはキャンプの小部屋へ逃げ込み、小さな入口から入ってくるゴブリンを順番に狩り続けるだけだ。
「じゃあ、手筈通りにいこう」
「リゼ様に任せなさい」
「本当に大丈夫なんだろうな……?」
「ふふん」
調子よさそうにリゼは笑う。
多分だが、リゼはリゼで溜まっていたのだろう。
リゼの体質でわざわざ王都まできて、でも、戦えば戦うほど周りに迷惑がかかり、自分の力ではどうしようも無いその状況に。
やっと力になれるからと気持ちもあがっているんだと思う。
でも、口にはしない。変に調子づかせるのも嫌だからだ。
「お、さっそく発見だ」
小部屋から出て数分でゴブリンを1匹見つけた。
奇襲をしかけたら、それほど苦労せずに倒すことができるだろうが、今はそれではダメなので、敢えて足音を大きくして、ゴブリンに近づいた。
だが、甘さを見せるとこちらがやられることも全然有り得るので、初手はしっかりいただくことにする。
助走を付けて、そのままで切りかかった。
「うぉらっ!!」
ゴブリンが振り返った瞬間を逃さずに袈裟斬りに浅く入れる。
「ぐぁっ!!」
ゴブリンからくぐもった苦悶の声が上がる。
「リゼ、俺が撃ち合いながら下がるから、例の小部屋の前くらいで交代してくれ!」
「了解!任せなさい!」
リゼが後退を先導し、俺は距離を詰めてきたゴブリンから棍棒だけ貰わないように、いなしつつ下がっていく。実際、ゴブリンは数が揃わないと大したことはないのだ。
程なくして、小部屋の前まで下がり切り、リゼと戦いを交代した。
「リゼ!!」
目線で意図を伝え、大きく俺が後ろに飛んだのと同時に、
「行くわよ!!」
と、リゼが前にでて、ゴブリンに斬り掛かる。
「はっ!!」
これも浅く、ゴブリンに入る。
俺はその隙に小部屋の入口の方へと近づき何時でも中に入れるように待機する。
「ぐぁ!!」
散々引っ張られたゴブリンも沸を切らせたのか、更に好戦的に前に出てきた。
棍棒を振り回し、リゼを妥当せんと突っ込んでくる。
リゼはそれをバックステップで交わし、ゴブリンの揚力が落ちた瞬間を狙いすまし、また斬りつける。
だが、ゴブリンも負けじと更に棍棒を振り回すものだから、その切っ先がリゼの腕を掠めた。
「っー!!」
「大丈夫か!?」
ゴリっと剣を振り終わった腕を削られたが、硬直せずに即座に下がり、構え直すリゼ。腕からは出血が見られたが致命傷では無さそうだ。
「痛いっ!!」
だが、それが良かったのかリゼの闘争心に火がついた。
リゼの少し後ろで俺は控えながらタイミングを伺う。
どことなくリゼから甘い香りが立ち上り引き寄せられそうになりスキルの発動を確認出来た、俺はリゼの行動を待つ。
剣を構え引き続き牽制を行なうリゼ。
痛みで怯むならフォローに入ろうかと思ったが問題なさそうだ。
「リゼ!!こっちだ!!」
俺は声をかけポイントを知らせる為に声を投げかけた。
「了解!」
リゼからノールックで返事が返ってきて、俺は一足先に小部屋へと入り込んだ。
続いてリゼも隙を見てこちらへ駆け込んで来た。
「ナイスだ!リゼ!」
そして、俺の目の前を駆け抜けて部屋の真ん中辺りへ陣取った。
それに釣られてゴブリンも部屋の中へ。
その時ゴブリンは完全に俺のことをスルーしてリゼと見合っている。
俺のことは眼中にないらしいので、リゼの引き寄せスキルに寄せられていることを確認できた。
ゴブリンはそのままの勢いでリゼへと強引に攻め込んで行くが、その棍棒は空を切り地面を叩きつけるばかりで、リゼが上手いようにいなし続けている。そして隙を見てはリゼがゴブリンを切りつけ、もう虫の息となっていく頃にーーー
「現れたか」
部屋の外が俄に騒がしくなってきていた。
大本命だ。リゼの引き寄せスキルによって周囲のゴブリン達がこの小部屋へ引き寄せられてきていた。
「ロワイ!もう倒しても大丈夫!?」
「あぁ!大丈夫だ!十分に引き付けられている!」
「りゃっ!!」
答えるや否や、部屋に引っ張り込んだゴブリンはリゼにトドメを刺され、絶命した。
だが、効果は十分だったようで、複数の足音が迫っくるのを感じる。
「さて、これが上手くいくのか……」
「ロワイ」
「あぁ」
リゼは痛む腕を庇いながら、神妙なトーンで俺へ声をかけてくる。
リゼも感じているのだろう。このゴブリン達を。
壁越しにも足音が地響きとなってこの部屋まで伝わってくる。
しかし、やる事はルミナスで戦ったゴブリンの群れと同じだ。
だが、感じる規模感が違う。
10体やそこいらを相手取るのは決死の覚悟を持ってすればなんとかなるが、この数はさすがダンジョンといったところか。
リゼに戦闘を続けられてはこの階層のゴブリンを全て狩り尽くすまで終わらない戦いが始まってしまう。それは無理だ。
リゼが落ち着きスキルがオフになる為には多少の時間を要する。
つまりここからは、
「あとは俺に任せろ!」
次のゴブリンがランランと目を闇の中から輝かせるように顔を見せる。
入口を埋めるゴブリン。その背後にもゴブリン。まだ鳴りやまない足音がその数を物語っている。だが、狭い通路は一体ずつしか通さない。俺は気合を入れて剣を構え、ひたすらに振り続けた。




