第一章14 「リングとリサーナ」
仕切り直しということで、俺たちはダンジョンを出て、協会へと足を運んでいた。
傷の手当もそこそこに、現状を打破する方法を探す。
そもそも、敵の数が多すぎる上に、他の冒険者たちはどうやって9層、そして10層へ進んでいるのかもリサーチする必要があるだろう。
「今まではただの通過地点だと思っていたが、冒険者協会もこうしてみると情報の宝庫だな」
「当たり前と言えば当たり前なんだけど、自分たちでなんとかしてみるって気持ちが私たちは強すぎたのかもね」
「そうですね。ただ、やはり皆さん自信家というかどこかで結果を残してこられた人がほとんどなので、最初に活用されることは少ないですね」
俺たちは協会の窓口のリサーナの元で話を聴いていた。
最初にこのナラクの窓口を担当してくれていたのだが、
ここを訪れたばかりの頃、気が逸っていた俺たちは、そのことをすっかり忘れていて、
申し訳ない気持ちになったが、リサーナは気にした様子もなく、丁寧に対応をしてくれた。
「おさらいすると、まずはパーティーメンバーを揃えることが一番です。人数が多いとそれだけ対応できる場面が増えるので事故率は当然下がります」
「それはそうなんだが・・・」
「ちょっと、ね?」
リゼと顔を見合わせ頷く。俺たちには他人には知られたくない、リゼの秘密がある。それも他人に迷惑をかけてしまう類のものなので、
もし、メンバーを増やすならば、そのことは承知してもらわないといけなくなる。
やれるうちは俺たち2人でやっていきたいと考えていた。
「それぞれ理由があって少数でやっていきたい人もいらっしゃるのでなんら不思議ではないですよ。
ただ、それが命よりも大切なことかは考えてくださいね」
「肝に銘じておきます」
俺が頷くと、リサーナはまた説明の続きをしてくれた。
「はい。次いで、シンプルに強くなることです。ただし、ここでの強くなるは少し意味合いが違います。
因子を獲得することが強さに繋がるのでそれを目指すという意味です。
例えば走り込みをしたり、素振りをしたりすると動作が洗練され、
より同じことをした際に体力を使わなくなったり、威力が増したりもしますが、
これはダンジョン外での強くなる方法です。努力の結果ついてくる強さはもちろん大切です」
「これは俺たちが今までルミナスでやってきていたことそのままの修行だな」
「孤児院で月一でつけてもらってたのがこれね」
今の俺たちを支えているのがこれだ。
ルミナスを出てからも教えを守り素振りを欠かしていない。
「ただし、ダンジョンは違います。正確にはモンスターを倒した際が違うのですが、
因子というものを獲得できることがあります」
リサーナは強調するように人差し指を立てて、注目を集めながら続きを語っていく。
「因子には様々な種類が確認されており、初心者が目指すのは大体が今回お二人が当たった問題そのものでして、
大量の敵を前に体力が尽きて、命を落とされてしまう方々が実は大半なんです」
「そうだったんですか?」
「浅い階層は敵も弱く、簡単に倒せてしまうのも相まって、簡単に奥に進めてしまうのです。
しかし、10層近くまで到達するとなると話は変わります。
道のりもすでに長く、1日以上かけてしか初心者は到達できません。
そうなると疲労も溜まり、戦闘能力に支障が出てきます。連戦連勝で進めるものだから、次もなんとかなるだろうと高を括り、処理できない量の敵を前に命を落とします」
「どこかで聞いた話だな・・・」
「えぇ・・・」
俺とリゼは目が完全に泳いでいた。あまりにもありふれた話だな。うん。
「大方そういうことです。本当に浅い階層は稼ぎも少ない代わりに敵との遭遇率も低く、戦闘職であれば、大体の敵を倒すことはさほど難しくはありません。しかし、先ほども言った通り、その感覚だけで先へ進めば進むほど、帰ってこれなくなる。初心者トラップみたいなものですね」
「なんで、初めにそういった注意を促さないのですか?そこまで協会がわかっているなら一言あってもよさそうなものなのに」
「だって・・・」
そこでリサーナは一拍貯めてから、仕方ないといった感じの黒いオーラをまといこういった。
「貴方達言ったってわからないじゃないですか」
「た、たしかに・・・」
リサーナから凄い圧を感じた。身をもって体感している俺はそう言わざるを得なかった。
生きることの意味をわかっていなかった俺には恐らくその言葉は言われていても届かなかっただろう。
「反省だなぁ・・・」
ボソッと俺はつぶやく。
「でも、いいんです。そうやって身につまされた人だけが生き残る世界なので、
そこに自分の信じる信念があるならば、思ったままを生きればいいのです。
だって、冒険者は最高に自由な存在ですから」
「自由と責任は紙一重ってことですね」
「そういうことです。自由に生きて自由に死ぬ。そんな生き様が素晴らしいじゃないですか」
ふんっ、っとリサーナは鼻から息を吐き良いことを言ったという顔をしていた。
実感して、自分の不自由さに気が付くことも大切だと思った。
それは与えられた自由の中でしか自分の自由を定義されていなかったからだ。
現場で命のやり取りをしないことには得られないものだっただろう。
「話が逸れましたね。戻します。では10層近くまで進んだ冒険者たちはどうするのかと言うと、
10層まではなぜかゴブリンが多く出現します。ほかのモンスターも出現はするのですが、
何故かその多くがゴブリンです。では、ゴブリンがどのような因子を持っていて、
倒すと得られる因子は何かというと、ずばりステータス因子の体力増強です。これを自らのスキルに取り込むことで、長時間の戦闘に耐えることができるようになります」
「ステータス因子、体力増強ね。なるほど・・・な?」
ちらりとリゼを見ながらわかるか?と視線を向けると。
「わかってないのにわかってる風の相槌を打つ必要はないわよ?私もわからないし」
リサーナも少しの苦笑いをし、
「因子ということ自体がダンジョンに多くかかわっていないと馴染みないものなので仕方がないと思います
他から情報を得ずにダンジョンで一攫千金を狙う方々にはよくあることですので」
リサーナからフォローが入り話が続く。
「その感じだとおさらいも含めてスキルとは何か?から入る方が良さそうですね。スキルとは因子の結晶みたいなものなんです。
スキルが発現し、因子がイメージ通りにまとまった形なんです。ところで、ロワイさんはどのようなスキルをお持ちですか?」
「俺は、剣士だな。水を扱えるからさしずめ、水剣士といったところか」
「なるほど、扱いやすいですね。詳細は不明なので省きますが、今の話だけ伺うと、ロワイさんは剣士の因子と水の因子をお持ちでそれの結晶として今のスキル:剣士になっているということです。更に言うと、おそらく何体かのゴブリンからは体力増強因子も取得していると思うので、練りあがって、一つになった時に体力増強の実感がまた得られると思います。ただ、相性があるので、一概には言えませんが、威力空間拡張因子などを取ると剣士系は斬撃が飛びます。逆に、ロワイさんの場合は炎因子は取得しても水因子と相性が良くないのでうまく扱えないと思います。
と、いった具合にスキルは因子の結晶で因子をうまく取り込むことで自身のスキルを育てることが可能なのです」
「そういう成り立ちでスキルはできあがるのか」
「少し気になったのですが、リゼさんはスキルをお持ちでないのですね?」
「あーそうなんですよ、似たようなのは持ってる気がするんですけど、スコープリングの判定にはなにも」
それに対してリゼは気まずそうに答えた。歯切れが悪くなるのもわかる。
「スキルの発現には年齢も関係しているらしいので、スキル発現が楽しみですね」
「そう・・・ですね」
「と、いう事はだ、戦闘継続能力を向上させるにはおあつらえ向きに大量に出てくるゴブリンを倒し続ければいいってことだな?」
俺はリゼを見かねて、話題を無理に戻した。
「そうですね。ただ課題は残ると思います。先ほどお聞きした話だと的確に急所を狙い続けないと一撃でゴブリンを倒せてはいないので、狙いがぶれても余裕を持って倒せるだけの火力があるほうが安心感はあると思います」
「俺の技量だと疲労がたまってくると一撃で倒すのは難しいからか」
顎に手を当てて俺は試案する。ただ、すぐにいいアイデアが出てくるわけもなく、そうこうしているとリサーナから新たな提案が出てきた。
「そこで、提案なのですが、リングの購入をお勧めします」
「リング?」
「はい、リングです。ご存知ですよね?」
「そりゃ知ってはいるが、あれは結構値が張るだろ?」
俺は市場で見ていたバンドルリングを思い出していた。
最低ランクの白ですら、手が出るシロモノではなかったのだ。
「そうでもないですよ?」
キョトンとした顔でリサーナは言うが、俺の脳裏には強く焼き付いている。
無理をすれば買えないこともないが、カレン邸から出た後の資金のことを考えると必要経費といえども優先順位が下がるくらいには財政難だった。
リサーナはカウンターの裏側をゴソゴソとするとケースに納められたいくつかのリングを取り出した。
それほど手入れはされていないのか、ケースには傷が目立った。
「初心者にお勧めするためにいくつかここにストックしているものなんですけど、これなんかどうですか?」
ケースの内から白いリングを1つ手渡してくる。
色はランクなので最低クラスだが、なんの因子が込められているのかはわからない。
俺のどの指にも入りそうでそれでいてフィットしない大きさは形状的にカタリスト因子タイプだと思われる。
勧められるままに俺はそのリングを左手の人差し指にはめて、軽く魔力を込めるとフィットしなかった指輪が俺の指にフィットした。
「せっかくなので、外の演習場で試してみましょうか」
リサーナにそう提案され、広場に的や人間に似せた木で作った人形が置いてある場所にやってきた。
「ところで、これは因子が入っているリングなんだ?」
「リングは相性もあるから、すぐに使えるとも限らないしね」
リゼが俺の指を持ち上げて、しげしげと眺めながら言う。
「それにはカタリスト因子の形状保持が入っていたはずですね。ロワイさん、普段は剣から水を出すとそのまま流れていきますよね?
そのリングには流体や気体みたいな拡散するものを一定の形に整え続ける力があります」
「いまいちわからんが、剣から水を出せばいいのか?」
「そうです。でもイメージしてください。出た水で剣を覆い続けるイメージです」
俺は言われた通りに先にイメージを固め、いつも通りに剣から水を出した。
するとどうだろうか、普段は滴っていただけの水が剣を覆い、剣を一回り大きくしていた。
「お見事です」
「でも、これだけだと本当に水の膜が張っただけだぞ?」
俺は剣をそのまま縦に横に素振りをするが水がへばりついただけの剣だった。それに少し重い。
「へぇ、器用だね」
ブンブンと振り回す俺の剣を追って感心しているリゼ。
「それだけだとそうですね。ではイメージをもっと研ぎ澄ませて、水を剣の形状に近づけてください」
そうすると立て続けに、リサーナはそう言ってきたので言われた通りにイメージをする。
「んーこうか・・・?」
俺はそのままイメージを伝えるが、剣に張り付いた水が形状を維持できずに、ばしゃりと水が弾けた。
「中々、そうそうには上手くはいきませんか。でも一回で形状維持はできたので才能はありそうですね」
「難しいな。雑なイメージを維持するのは難しくなかったが、具体的なイメージにしようとすると急に制御を離れたというか」
「そこはもう練習あるのみですね」
「でも、わかるぞ。制御は難しいがその都度、水を成型するだけでリーチが伸びる。
これだけでも浅い攻撃がクリティカルに変わると思うと、かなり強い」
俺は再度、イメージを固めて切っ先を伸ばす様に水を成型した。
だが先ほど雑にイメージしたその先に水が伸びることはなかった。
ばしゃりとまた水が制御を離れ、その場に落ちた。
「あれ、うまくいかないな」
「影響範囲の問題ですね。所詮このリングのランクはコモンなのでそれ以上の整形は適用外です」
「それに剣ほど鋭さを維持できないなら、威力も下がるし難しそうね?」
「結局そういう理由があって、実はこのリングは価値がかなり低いんですよね」
「だから、それほど高くないですよ。ということか」
リサーナが言っていた内容も納得ではあるが、
「でも、それだと価値のないリングを上手く使えってこと?」
俺が思った疑問をリゼが回収してリサーナに投げた。
「そういうわけではありません。では、引き続き、このリングをつけてください」
「これは?」
俺はそう言いながら受け取った新しい白いリングを左の中指に装備した。
流れで魔力を軽く込めるとリングがフィットした。
「それはスロウ系のリングでカタリスト因子の魔力射出リングですね」
「なんですかそれは?」
リゼもそうだが俺も初めて聞く名前のリングだった。
「使用場面が限定的でこれも扱いにくいリングなのですが、要は手元の魔力で作ったものを遠くに発射できるリングです」
「???」
リサーナの言っていることはわかるが、理解ができない。
さっきもわからなかったが、こっちはさらに要領を得ない感じだ。
「使って慣れろ、ってことでまた先ほどのように剣に水をまとわせてください。特に指定はしないので、楽な形で」
俺はまた言われるままに初回の時と同じように剣に水をまとわせた。
鋭利にしなかったり、無理に伸ばそうとしなければ、それほど難しくない。
形が整形できるとリサーナから新たな指示が来た。
「では、それを剣を素振りする感じで、前へ振ります。その時に水のを払う感じで振ってください」
「ロワイがやってるウォーターリフレッシュみたいな感じかもね?」
「ああ、俺もそれがイメージに近いと思った」
「危ないので、向こうの何もないほうに振ってくださいね」
リサーナに促され、誰もいない木造りの人形へ向かいあう。
普段は剣に水を生成しそれと一緒に汚れを払うように振るが、そのイメージが近そうだ。
それを前に振るう。
「はっ!」
少しの気合を入れて、水の分重い剣を振る。その時に形状維持をしていた水を解き放つように前へ。
ずるっと多く魔力を消費した気がした。
だが、不思議なことが起こる。放たれた水がその形状を維持したま、ぶれることなく不自然に直進し、
人形に直撃した。
ばこっと剣で切りかかったような衝撃が人形に加わり、抉れるように傷跡を残した。
「お見事」
「奇妙な感覚だ・・・」
「なにそれすごい」
三者三様の感想ではあるが、成功はしたようだった。
「魔力射出リングはこういう使い方ができるのですが、実は合わせ技なので、1個目の形状保持リングの力を発揮できないと、
ロワイさんの場合は強めに水を遠くへ飛ばすだけの力になります」
「たまたま適正があって上手くいったって感じか?」
「実はそういうことになります。上手くいってよかったです」
リサーナはほっと胸をなで下ろして言った。
「だた、これたぶんだが魔力消費が大きいな。試してみないとわからないが、10回も打てないかもしれない」
ただの感覚の話だが、ずいぶん魔力を持っていかれた感覚があった。普段は水を出すだけだとこれほど多くの魔力を一回に使うことはなかった。
「何度か便利に使える飛び道具的な扱いかもね。それだと今までみたいに小刀を忍ばせて投げてる方がいいかも?」
「だが選択肢が増えること自体はいいことだと思う。射出しないにしても、形状保持の段階で止めるだけでもリーチを弄ったり、
たぶんまだ応用が利くはずだ」
俺は使った使用感からリゼの話に乗っかる。小刀も有限だから取り回しの話になるだろう。
「使い勝手の部分は追々にしても、このランクのリングでも十分役に立つのですが、なんせ既存のスキルとの噛み合わせが悪いのと、エレメント系のスキル保持者はそれほどいないことと相まって、有効に使える人があまりおらず、価格もリングの割にそれほど高くないのが実情です。他にも使いたいリングが多い中でこの2個を敢えて選択する理由もあまりありませんので」
「だが、敢えて使うとするなら俺のような新人が使うのに適していると?」
「お金もないが、固執することに縛られない自由な新人だからこそと言い換えますけどもね」
「そっちの方が確かに好みだ。これはいくらくらいで手に入るんだ?」
その言い回しのほうが自由を目指す冒険者として心に響いた。
「どっちもそれぞれ3000ライトですけど、合わせて5000ライトでいいですよ」
「確かに安いな。せっかくだし、買ってみるか」
余裕はないが新たな力にワクワクしたのも事実なので、そのまま乗っかることにした。
「どのみち戦力アップしないと、やられちゃいそうだったしね」
リゼはカジュアルには言っているが、命のやり取りの中で手札が増えるのは歓迎すべきだろう。
使いこなせるかは俺次第。いや。
「使いこなしてやる」
俺は小さく笑った。




