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第一章13 「わかっていないと決断」

3層もほとんど、散歩みたいなものだった。実際モンスターの殆どは先行してる他の冒険者に狩り尽くされており、どういうメカニズムか知らないがダンジョンがモンスターを排出する速度が追いついていないのか、脇道にでもそれないと気配すら感じないことが多かった。

ほかの冒険者と何組かすれ違うこともあったが、この層あたりは殆ど移動のための通路扱いなのか、どこ吹く風といった感じで、商業的に少し奥を探索しているのだという。

時折、ミニゴブリンが現れることもあるが、リゼの言う退屈な道のりは続いていった。

4層もそんな感じで進んでいき、5層に入ったところで、ミニゴブリンのサイズ感が明らかに大きくなり、よく見るゴブリンになった。

「とうとう、多少苦労するレベルのモンスターが現れ始めたな」

出発したその日、ここいらで一旦休憩にして、明日に備えるかとキャンプをしようと思った。だが、一応、様子見という好奇心に負けて、覗いた5層で、入ってすぐにゴブリンと遭遇した。

「倒すのは単体だとそんなに苦労しないしね」

後ろで応援しているリゼが言うが、その通りだった。

「表現するなら体力が多いって感じか。今までのミニゴブリンは、芯を断つ感触があった。その場所を切り裂くだけで、倒すことができたが、そもそも大きくなると切り裂き切れないし、芯を断ち切れなくても、削っていくと絶命して、煙になるみたいな」

「耐えて来る分攻撃もしてくる機会が増えてちょっと厄介ね」

「でも、まぁ」

俺はリゼと会話をしながら、楽々とゴブリンの首をはねた。

「特に問題はないな」

多分だが、ルミナス周辺にいたゴブリンと同程度の強さだ。ただ、一つ違う点がある。ダンジョンのこいつらはどういうわけか、死ぬと煙になり散り散りになる。結果として外と違い死体が積み重ならないので数で押されても戦いやすい。

それに今のところ、リゼのスキルも発動しないように上手く立ち回れているので、数もそれほどなく悠々とダンジョンを進むことができていた。

俺は剣を鞘に納め、リゼの方へとに振り返った。

「明日もこの調子なら問題なさそうね」

「そうだな。一旦引き上げて明日に備えるか」

俺とリゼは来た道を引き返し4層で眠りについた。

ダンジョン内は日付の感覚は曖昧になる。体力と腹のすき具合で無理しないように進んでいこうということになっている。それが一番事故が少ない。当然だが回復手段も限られているので片腕が負傷して戦闘ができなくなるだけでも致命傷だ。もっと稼げるようになればポーションなんかのアイテムも使えるのだろうが、まだまだ遠い話に思えた。

眠くなれば、俺がまずは睡眠を取り、リゼが見張る。リゼが睡眠を取り、俺が見張る。ペアだが最小単位のパーティとして俺たちは今までやってきた。そうやって、俺たちはダンジョンを進んでいた。


俺とリゼは更にダンジョンの奥へと足を踏み入れていた。

徐々にだが会敵した広間には敵の数が多い。だが、後ろには守るべきリゼがいて、下がるに下がれない状態になっていた。

1体、1体、また1体と敵を切り伏せていくが、気持ちだけで持っている状態だ。

ざっと20体はくだらない数を切り伏せたと思う。明らかに手や足の動きは鈍くなり、敵の動きに反応はできているが、意識に体がついていくことができていない。

このままではまずいとわかってはいるが、どうにもできない状態に徐々に焦りが出てきて、判断も鈍くなっているように感じる。

一瞬だった、一瞬、目の前の敵を切り伏せ、俺が振りかざした剣が下がり、次の構えを取るその時を狙われた。

倒した敵を乗り越え、別の敵が上段からこん棒を振りかざしてきており、俺の反応が間に合うことはなかった。

あ、これは死んだな。

目でその挙動が追えるが、動きがそれに付いてこない。

しかし、幸いにして、守るはずのリゼに助けられた。

俺の後ろから寸でのところで飛び出し、ごっ!!っと角度をつけてこん棒を弾いた。

怯んだのは一瞬だった。すぐにフォーカスを敵に定め、カバーに入る。

「悪い!助かった!」

「この借りはしっかり返してもらうからね!!」

「これはキツイのが来そうだ・・・!」

苦笑しながらリゼに返すが、

元々リゼを守りながらヘイト管理をする戦いだった。

リゼが前に出た段階でこの作戦は破綻している。

「徐々に引いていくぞ!」

「おっけー!」

リゼが出てきたことで、負担分散され、軽いやり取りで作戦を決めていく。いつも通りだ、うまくいく。

リゼの前に再度出て、敵を切り伏せていく。しかし、何度か切り付けても敵は倒れなくなってきていた。

「くそ!こいつら固い・・・!!」

致命傷こそ、もらっていないが、受ける手が、足が、許容範囲のダメージを超えつつある。

いずれ、限界が来るのがわかった。

「このままじゃ崩される!!」

「ポイントまで下がり続けるしかないわね!」

切り付けられる攻撃は激しさを増している。

その時、意識外からこめかみ当たりに大きな一撃をもらった。

「ぐあぁあ!!」

「ロワイ!?」

頭がぐわんぐわんする。意識がシェイクされて、気が遠くなる。どうやらこん棒のようなもので殴られ

吹き飛ばされたようだった。

遠くでリゼが心配そうに伺いながら、さりとて、近づくこともできず敵と切り結びながら叫んでいる。

「こんっのぉ!!どっか行きなさいよ!ロワイ!!大丈夫!?」

頭を振り、遠のいた意識を引き寄せる。だが、思ったように体が動かない。

こんなことで気を失っている場合ではないが意思に反して、四肢は鉛のようだった。

「ロワイ!!ロワイっ!!」

リゼの声がこだまする。それに景気づけられて、ほどなく俺もまたなんとか立ち上がることができた。

同時に感情が高ぶってしまったリゼに敵が引き寄せられて、こちらを狙ってこなくなったのも大きい。

しかし、それはリゼ一人だけがターゲットとなっていることと同義である。

多くの敵に既にリゼは取り囲まれつつあった。完全に囲まれてしまうと、手の出しようがなくなると直感で悟る。

震えて力の入らない脚に活を入れて、一足飛びにリゼの元へと向かう。

間に合ってくれと願い、剣を振る。

「悪い!遅くなった!」

願い叶い間一髪のところでリゼへの攻撃を弾き、

その勢いのままリゼの腕を引き、渦中から引き抜き代わりに、戦の場に躍り出た。

これが功を奏した。敵の視線を移動するリゼへ一極集中することができ、俺がフリーになった。

「走れっ!!!」

リゼはそれを聞き届けると、出口のほうへ一目散へ駆けて行った。

その隙をつくように、俺もリゼを追いかける。

敵はリゼに夢中になっているので、後ろから追撃をかけるかたちで止めを刺すのではなく、

移動を阻害するように足へ攻撃を集中させる。

その場から動けなくできるようになれば上出来だ。

そうこうしているうちに俺にもまた追撃の手が伸びてくる。

捌いては交わしを繰り返し、俺とリゼはなんとか戦いの場から離脱することができた。


正に、命からがらという表現がは正しいのだろう。

「俺たちはわかっていたようで、全くわかっていなかった。生きるということが・・・」

お互いに息が完全に上がっているが、なんとか生きている。逃走の末に幸い失うものはなかった。

リゼが足元でへたり込みながら言う。

「ど・・・どういう、こと・・・?」

俺も剣を片手に杖替わりになんとか立っている状態だった。

「守られて生きてきたってことだ。今までなんだかんだと上手くこなしてきていたと、思っていた」

ルミナスでのことが今では懐かしい。

「俺たちは地元じゃコンビで負け知らず、同世代では最強だとも思っていた。

哨戒任務もこなして、大会のあの後、リゼが力を失った後も、結局なんとかなると思っていた。

ピンチになっても何とかしてきた。だから何とかなると思っていた。

そう、思っていたなんだ。でも、違ったんだ。俺は結局わかったつもりになって、なにもわかってなかった。

わかってないことも、わかってなかったんだ」

剣を握る手が震えていた。もう握力なんか限界を迎えているというのに、それでも、離す気はさらさらなかった。

「本当の死に瀕してわかった。生きるということが。戦い続けるということが。そして、守るということも。

覚悟が足りなかったんだ。俺は決断したぞ。絶対に強くなる。

リゼを守ることも、一緒に強くなることも、そして、力を取り戻すことも。

全部決めた。決断の時だ」

俺は整い始めた息を深く吐き、深呼吸をする。

膝を抱えてリゼは言う。

「ロワイ・・・。そうだよね。あたしもどこかふわふわした気持ちだった。

町を離れて、なんとなく大人になった気になって、

いろんな人に守ってもらっていたことをわかっていなかった。

生きるって本当は大変なんだってことを、わかっていなかった。

それに、ロワイに守ってもらって、それでいいと思っていた。

だって、私、弱くなっちゃったって、それを免罪符みたいにして、

1回勝てたんだからそれでいいやって、目標を達成したみたいに腑抜けていた

本当は自分のことなのに、自分のことじゃないみたい。

そんなの一番つまんないのにね。でも、違うよね」

顔を上げたリゼの目には、まだ涙よりも悔しさが勝る、そんな目をしていた。

「私も決めた。

なんとなく、なんとかなっていたことを、しっかりするために。

自分のことを自分のこととして前に進むために。

私も強くなる。ロワイに守られるだけじゃないことも、勇者として力を取り戻すことも。

全部決めた。決断の時ね」

リゼも息を吐いた。

そして、二人で前を向き、最奥に向かって宣言する。

「「絶対に負けない」」

わかって、決めたから。

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