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第一章12 「地図」

「さて、ノリはわかったな」

俺とリゼはダンジョンから無事に出てきて、カレンの館へと帰ってきていた。

カレンは不在だが、セレナが迎え入れてくれたのだ。

使っていいと言われている寝室に机と椅子があり、リゼと机を挟んで座る形で今後の方針を話していた。

「そうね、1階層だけを無作為に進んだとは言え、地図は確実に必要ね。2階層がどこにあるかもさっぱりだったわ」

「その辺は実は宛がある」

「沢山売ってたものね」

「なんだ、気がついていたのか」

ダンジョン前の市場に何件かの地図屋を見つけていたのを思い出しながら俺は語る。

「値段感までは知らないけど、明らかに怪しいのもあったから気を付けないとね」

こういうのはイメージが大切だ。

「ただ、綺麗に額縁に入れられている地図が正しいとは限らないと思うがな」

「それもそうね。その辺はもう実物を見て考えるしかなさそうね。指南してくれる人がいればいいとは思うけど、なんでもかんでもカレンさんに頼ってたら今後やっていけないもんね」

「だな。今も仮住まいさせてもらってる身だ。何日かしてカレンさんがここを離れるまではお世話になろう。ただ、それから先のことを考える必要はあるが」

足りていないのは地図もだが、宿もないのだ。あれこれと懸案事項は浮かび上がる。

俺は窓の外へとなんとなく視線を向けていた。

「その身1つで生計を立てるって大変ね」

「やれない事はないだろうが、考えることが多い!ダンジョンを攻略していればいいだけではないみたいだな」

そのダンジョン攻略も迷子になっているわけだが、本当に大丈夫か?と不安もなくはない。口には出さないが。

「不安?あたしを守りながら戦っていくのは?」

リゼから外していた視線をリゼに戻すと、目元がニヤニヤしているリゼがいた。

「はっ!訳ないね!!やる事は変わらない!」

そのほとんどが強がりではあったが、この流れは不味いと虚勢混じりに俺はそう言い放った。

「そう、ならしっかり戦ってもらわないとね。あたしと一緒に強くなりましょ」

「もちろんだぜ」


翌日になって、俺たちはダンジョン前の市場に出ていた。

そして、ダンジョン攻略の方針としては深く潜ることを最優先とした。

低階層はドロップする魔石も少なくこのままミニゴブリンだけを狩り続けていても、今後生計を立てることが難しいと判断したからだ。

俺たちの実力がどの程度の階層まで通じるかを測る必要があり、帰る余力は残しつつ数日かけて深く潜る。そのためには食料を買い込むことはもちろんなんだが、どうやら必要なものがあるらしい。

「バンドルリングか」

「見た目より荷物入るし、重さもほとんど感じなくなる便利リングね」

「ただし魔石は食う、と」

「いっぱい詰め込むほど消耗も早いわ」

「食料入れたり、旅の道具を入れたりといろいろ使い道もあるし持っておきたいが、低階層では中々出ないっぽくてお値段それなりだな」

「買えなくはないけど、直ぐに必要かと言われたら?」

「実はそうでもないんだよなぁー」

それには理由がある。

「ひとつの問題点である、水をロワイが出せちゃうからね」

「そうなんだよな。魔力を多少消費するとはいえ、水を持ち歩かなくてもいいのは水剣士であるところのメリットではある」

逆に言えば、俺は水で火力が出ないからダンジョン探索の補助にしか使えないのだが、無いよりマシで、あれば当然便利なのである。

俺はレーディアントに来る道中を思い出していた。

「ルミナスからレーディアントに来る間はセレナが持っていたバンドルリングにかなりお世話になったからなー。1週間くらいの旅路とは言え、なんでもが出てくる出てくる」

「あれは凄いよね。緑リングだったからランク的にはレアだし、流石カレンさんのお付って感じ」

「レアとは言わないまでも日々の食料だったり旅路に必要な物をコンパクトに携帯するのに安物の白リングくらいは持っておきたいよな」

魔石は売却しなければ自身で賄うことは既に可能だろう。

「でも、今は必要ないんじゃない?」

「そうだな。それほど長い間にダンジョンに潜るつもりはないし、荷物を背負える範囲でやって、必要になった時に買うことにしよう」

「あとは、地図ね」

ピシッと指を立ててリゼは言う。

「一旦は昨日目星を付けておいた店に行ってみるか」

「当たりだといいわね」

「全くだな」

その後俺たちは無事に地図を入手することができ、食料などもダンジョンに潜れる準備を整え、その足でダンジョンに向かうことにした。


「さっそく地図が役に立ったな」

「本当にそうね!これは昨日闇雲に探索していたらわからないわね」

俺たちは1階層を抜け2階層に差し掛かる階段に足を踏み入れるとこだった。

「当たり前なんだが、ダンジョン探索なんかやったことなかったからな。手引きなしじゃ普通に迷うだろうな」

成人するまではダンジョンに潜ることはできないからな。正確には許可が下りないだが。

「昨日のあれは迷子にならなかっただけで良しとするべきね……」

既に苦い記憶になりつつある昨日の探索に思いを馳せるが、反省が生きた形だと思いたい。

「地図から反省すると1層はかなり雑に広がってるんだな。なんとなくの記憶だが、昨日行っていたのは2層階段とは完全に反対方向だったってことなる」

俺はリゼが持っている地図に指を指し地図に書かれている昨日の位置を現在位置と照らし合わせて言う。

「お陰で今日は何人かの冒険者ともすれ違ったしね。昨日誰とも出会わなかったのはそのせいね」

「不思議ではあったんだよな」

俺は気まずげに言う。

あれだけ先にも後にも入ダンしていたのに、誰ともすれ違わないことに違和感はあったが、初ダンジョンもあり高揚感が勝っていた。

「ま、私も人の事言えないし、今回は後衛として地図の確認くらいはしっかりさせてもらうわよ」

「頼んだぜ」

俺たちは2層へ足を踏み入れた。


踏み入れた。とはいえ、1層と景観がガラッと変わるわけでもない、どこか作為的な感じもするダンジョンが続いていた。でてくるモンスターは相変わらずミニゴブリンばかりで、たまに、スライムが現れ始めた。

スライムはルミナスにいた頃はあまり見かけなかったが、2層に入ってからの方が既に目撃数は多いかも知れない。

「昨日はあんまり気にしなかったが、ダンジョンのモンスターは溶ける?んだな?」

俺はスライムを倒した後の死体を見てふと、思った。

「溶けるというよりも、煙になるみたいな感じだけど、今のところ倒したみたいな感じになると、黒い煙になって散っていってるわね」

1歩後ろにいたリゼが隣に並び立ち、また足を進めながらリゼの印象を聞く。

「風に吹かれて溶けている。みたいなイメージだが、ルミナスで倒したモンスターは体が残って、ゴブリンであれば右耳を討伐の証にしないと協会でクエストの完了報告ができなかったり、外ではないと困るがダンジョンはそもそも死体が残らないから昨日は気にならなかったんだな」

ダンジョンに風は吹いたりはしないから風に吹かれてというのもおかしな話だが。

「私は気がついていたわよ?」

「そうなのか?」

「綺麗なままでいいなーって」

なにを当たり前なみたいな顔でリゼは言うが、そういうものか。ルミナスだと倒したモンスターはその場に放置されることが多く、大体は土に還るが確かに異臭を放ったりして問題にはなっていた。ダンジョン内がほとんど空気の動きがないのに悪臭がしなかったりするのはその辺が理由か。

「そういう発想かよ……ダンジョンは奥深いなぁ」

「ね。上手くできてるよね」

その後も地図のお陰もあって、俺たちは2階層を突破し、3階層とトントン拍子で攻略を進めていった。

途中何組かの冒険者とすれ違うことはあったが、お互いに関わることはなく過ぎ去っていく。

特に大きかったのは誰かが先行して同じルートを通っている場合にモンスターが既に殆どが狩られており、無駄に戦いをしなくてよかったことだった。

目的は潜れるところまで行ってみることだったので、これはありがたかった。

「なんていうか、拍子抜けよね」

地図を片手に少し飽きたかのように言うリゼ。俺は後ろを振り向きながら会話を続けた。

「そういうなよ、ダンジョンとはいえ低階層は稼ぎが少ないんだ。所謂適正レベルまではこんな感じになるんだろう」

「昨日の方が戦いは多かったしワクワクもして退屈はしなかったのに、地図にこんな弊害があるとはね」

「モンスターと戦闘が少ないのは本来有難いことなのにこの言い草であるか……。というか、ほとんど戦っているのは俺ばっかりじゃないか!」

「それは仕方ないじゃない?私が戦い始めると退屈はしないんだけどね?」

リゼが戦い、気持ちが高ぶるとモンスターが集まってくるので、必然、メインの戦闘は俺がこなし、今日のリゼはと言えば、地図を片手に、「ロワイこっちー」、「ロワイあっちー」と言っているだけである。

「いや、それはそうなんだが、それも解決策を探す旅だしな」

「あと、単純に私が戦う云々よりもロワイが戦ってるところを見れてないのも面白くないのよね」

手元の地図に視線を落としていたリゼがチラリと視線を俺に向けた。

「え?なに?俺が苦労してるのを見て楽しみたいってこと?」

「そんな卑屈なこと言うタイプだっけ?違うって、ロワイが戦う姿がカッコイイからだよ」

そして、またリゼは地図に視線を伏せるのである。

「リゼ……ってお前!目線合わせたら笑ってるのがバレるからってあさっての方向を向くんじゃありません!!」

一瞬そんな殊勝なことを……と思った俺がバカみたいだ。リゼは堪えきれない笑いがその身から溢れ出して、爆笑寸前だった。

「ち、違うから!私のために苦労して大変だなって思っただけだから!」

「どっちみちだぁぁ!!」

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