第一章11 「ダンジョン」
背丈の10倍はあるのではないだろうか。大きな口を開けてダンジョンはそこに佇んでいた。踏み込んだ瞬間に空気が変わったのを感じた。ゴツゴツした岩肌は壁だけで、足元は幾人もの冒険者たちによって踏み固められ、或いは削られ人の出入りがあることを感じた。よく見ると岩肌も色々な人が触れたのか角が取れているところも見受けられた。ヒヤリとした風が最奥から吹き出し、ダンジョンの外へと鼻腔を駆け抜けた空気が後ろへ過ぎ去った。奥へ目を凝らすもどういう訳かダンジョン内だというのにも関わらず視界が開けている。
「これがダンジョン内に満ちている魔力の力ね」
「そのお陰でただの洞窟だっていうのに明るいんだな」
同じことを考えていたのか、リゼもダンジョンに踏み込んだ時に感じた違和感を口にしていた。
更に奥を覗くと、緊張からか喉が鳴った。
「さ!ロワイが前よ!進みなさい!!」
「わかったから押すなよ!」
「それは押せってことね?」
ぱんっ!っと緊張した俺の背中をリゼが叩く音が響き、そのまま本当にぐりぐりとリゼが背中を押してくる。
「だぁ!!うっとおしい!!行くから!!」
俺は1足飛ばしでダンジョンの奥へと足を踏み出した。
「最初からそうしていれば良いのよ!」
全く。
「リゼこそしっかり着いてくるんだぞ」
嘆息をひとつし、リゼに目配せをしてから先を歩き始めた。
「しっかり、ロワイの後ろを着いていくわよ」
そのまま、特に何も無く進んでいくとわかったことがあった。
「入ってわかった。迷うっていうより、正しい道を引かなきゃ先へ進めないって感じか」
「今のところ戻る方向に分かれ道は見かけていないのが幸いね」
特に新しい発見があるわけでもなく二股の分かれ道を右左と進み、3つ目の分かれ道に俺たちは差し掛かっていた。
戻る分には迷子にはならないだろうが、これは正しい手順を踏まないとどこかで行き止まりになり、先に進めないであろうことが予想される。
「こんなとこで早速迷子になっては穏やかじゃないが、タイミングを見て地図が欲しいな」
「そうね、覚えてくのも限界があるし。でも、とりあえず進めるところまで進んでみる?」
「そうだな。これくらいの距離ならまだ覚えておける程度だし、何よりもまだ何も見つけていないからな」
せめて、モンスターとの戦闘くらいは経験しておきたいものだ。
「あたしもそれがいいと思う」
何とはなくそんな話をしながら、3つ目の分かれ道を右へ進んだ時だった。
「っ……いる」
気配が現れた。生き物の息遣いだ。
俺が即座に剣を腰から抜き去り構えた。後ろでリゼも構えたことを音から察する。
こういう時ばかりは少しの明かりが欲しくなる。岩肌が恐らくは発光しているのだろうが、先まで見通せる明るさではない。歩くのに困らない程度しかないのだ。次からは灯りもいるかもな。
待っていると向こうから近づいて来ているのであろう、影が伸びて俺たちに達しかけたあたりで、その姿が俺たちの視界に入り込んだ。
「?」
しかし、俺と恐らくはリゼも疑問に思ったのだろう。
現れたのはゴブリンだ。
しかし、サイズが。
「小さい……?」
「油断しないで、ロワイ。小さいだけで素早い攻撃を仕掛けてくるかも」
「おう!そうだな!」
先制攻撃を譲る気はない。
「先手必勝だ!!」
一息に俺はゴブリンとの距離を一気に詰めて、まずは胴体に向けて一閃を放った。
かくして、ゴブリンはその一撃を喰らい、絶命するのだが。
「随分と弱いな?」
「入っただけで強くなるダンジョン?」
リゼが首を捻る。
「いや、それだとゴブリンも強くなってるだろ」
「それもそうか。ってことは低層は本当に魔物が弱いのかもね」
「最初は有難いが、聞くところによると奥へ進めば進むほどモンスターも強くなるらしいからな。強敵と戦って俺たちも強くなることが目的でもあるから段階的なのはありがたいが」
こうも弱いと張合いはないものである。
「それに、お金になるものを落とすのも奥に進むほど増えるらしいから、さっさと地図を手に入れて2層、3層へと進みたいわね」
「最初は慣れろってことだろう。もう何体か倒してみて、明日準備して奥へ進もう」
「それがいいわね。もしかしたらこいつが特別弱かっただけかも知れないし」
俺たちは倒したゴブリンを後目に先へと進んだ。
結果から言うと拍子抜けするのをそのままに何体かのミニゴブリンと遭遇したが、それらも2体3体と少数で出てくる程度で脅威とは言えなかった。
そろそろ引き上げるかと思った時にそれは起こった。
「もう、これくらいでいいだろう。なんとなく程度は測れたし、道順もそろそろ怪しくなる」
「これくらいで帰りましょうか」
結局、後ろで構えては立ってるだけだったリゼにそう投げかけた。
「あ、ロワイ見て」
すると、今までゴブリンの死体はそのままだったものが、少しすると消え去り、そこには見覚えのある石が落ちていた。
「……消えた?」
しかし、驚きから思わず声が漏れた。
ルミナスの外で倒した魔物は、死体が残る。ゴブリンなら右耳を切り取って討伐証明にするのが普通だ。
だが、目の前のミニゴブリンは黒い靄にほどけ、風に溶けるように消えていった。
「おぉ、これが魔石か…」
一歩進み、恐る恐る黒っぽいつやがある小指ほどの石を拾い上げて俺は軽く掲げてみた。……なんか、思ってたよりずっと綺麗だ。
「何故かほとんどダンジョンでしかドロップしないのよね」
「実物は協会とかで見かけるけど、こうやって自分で取るのは初めての経験だな」
「こうやって、ダンジョンに来たって初めて認識できた気がするわね」
これを集めて売ることで俺たちは冒険者になれる。逆に言えば、魔石を取ることができなければ、生活が成り立たなくなり、冒険者を続けることができなくなる。ルミナスで雑魚狩りをして日銭を稼ぐのとこれでは大差はないが、それはこれからの話だろう。
「まずは第1歩って感じだな」
俺は満足気にそう呟いた。




