第一章10 「ナラク」
ダンジョンの入口はギルドの裏にある。
裏、と言うと正直誤解の余地しかないが、
入り口は管理されて久しいため、元々は山が口を開けていたらしいが、今は大きな門扉が構えられ、その前には各種商人たちが作ったであろう店が並び冒険者相手に商売を繰り広げている。淘汰が進み怪しい店は殆どないらしいが、どうしても紛れ込むものは紛れ込むらしく、一定の注意が必要と言われた。
王都の壁の中と言えど、管理しきるのは難しいらしい。
今は向かっているのは冒険者協会のダンジョン入口支店、通称ナラク。
冒険者タグを更新してもらったので、これでダンジョンに入ることができるようになった。
せっかくなので、その足でダンジョンに向かっているということだ。
だが、ナラク前の通りには商店が広げられており活気づいている。俺とリゼももれなくお上りさんだ。
つまり、目移りが激しい。
「見て!ロワイ!あれなんだろう!?」
「待て待て!こっちの串焼きが気になる!先にこれを食べてからにしよう!」
物価はルミナスとほとんど変わらないくらいの値段で似たようなものが食べられるイメージだ。逆にルミナスでは少し高価になるダンジョン産のアイテムからなるものは寧ろ安く手に入る。
「うぁーこっちも美味しい!!」
リゼは目を輝かしながら肉が乗ったパンを食べ、頬を緩ませていた。
「いやいや!こっちも中々いけるぞ!」
俺も俺で気になる串焼きにかぶりつき、その肉汁を堪能する。
旅の最中は仕方ないとは言え、硬いパンや干し肉なんかをスープにして啜っていたので、
フレッシュな食材がそのまま嬉しい。俺たちはナラクに向かうことを忘れ、商店で舌鼓を打っていた。
「おー!兄ちゃんも姉ちゃんもいい食いっぷりだねー!これもどうだい?」
「「もらいますっ!!」」
商店のおっちゃんに焼いたパンの上に肉を削ぎ落としたような具材と野菜を乗せて包んだものを差し出され、俺たちは迷わずに答えていた。
「ふぅ、食べたな」
「お腹いっぱいね」
果実ジュースを片手に俺たちは広場から離れた所に座れる場所を見つけて一息ついていた。
「仕方ない。楽しかったんだからな」
「幾らでも食べられると思っちゃうわね」
二人でルミナスを出てこんなとこまで来ても俺たちのムーブメントは変わらないってことだな。
「さて、腹ごしらえも終わったことだし、一応今日のうちにダンジョンを見ておくか。俺たちの進退に関わるからな」
「そうね。お金に多少は余裕はあるけど、楽観もしていられないしね」
ゴブリンを大量に狩ったことで得られた報酬のお陰で多少の余裕はあるが、毎日こんな感じだと早々に底をつくだろう。
「今日は軽く雰囲気を見るだけでいいだろう。ぶっちゃけ常識みたいなルールもわからんから、備えようもない。生還率も最近は悪くないって言っていたから、低層ならそうそう大事にはならないだろう」
「だろう、だろう、ばっかりで不安ではあるけどね?」
「そこは俺たちの実力を信じるしかないだろう!」
自信がないことにタジタジになりながら、勢いで言葉を押し返した。
「だろう、ね。まぁ、あたしも魔物寄せてしまう体質になったし、やっぱりロワイに頼ることになるしね」
「そこは任せてくれて構わない」
これだけは自信を持って言い切れる。
むしろ、その為に着いてきているんだ。
「それはありがたいんだけど、方針としてはロワイが前衛で私が後衛、というか、後ろの守りって感じでいいのよね?」
「そうだな。カレンが居たとはいえ、ルミナスからの道中でリゼに戦闘を避けてもらった理由として、四方八方からモンスターを呼び寄せると対処に困るからだ。そして、リゼが迎撃するとまた呼び寄せてと悪循環が続くことになる」
「でも、ここからは2人で対処する必要があって、低層のダンジョンは洞窟タイプの基本一本道の連続だから、前後二人で守ればモンスターを狩り尽くすことを前提に対処できる」
「そういうことだ。俺とリゼに圧倒的な力がある訳ではないが、成長するための修行と割り切って、この形で進めていくしかない」
事実、レーディアントからルミナスに帰る方法も護衛付きの馬車を取るくらいしかない。俺1人では道中リゼを守りきることができないのは痛いほどわかった。
ルミナスの周りでゴブリンを多少狩るくらいでは強くはなれないということだ。
「どの道強くなるしかないってことね」
「俺たちはまだまだ強くなるぞ」
「またぞろハルキとかいうやつみたいなのに襲われて一方的に奪われることはごめんだもんね」
リゼは何気なくそう言っていたが、俺の心にもその一言は強く突き刺さった。
強くなろう。ダンジョンに入る前に再認識できて良かった。
少しバツが悪くなったこともあり、俺は立ち上がった。
「あんまり喋ってばっかりだと日が暮れるぞ。向かうか!ダンジョンへ」
ナラクへやって来るとダンジョンへいつ誰が入ったかの記録を冒険者タグを使って取られた。ここは入ダンの管理と出ダンの際に物品確認をして買取をしてくれる場所のようだ。
他にも何組かの冒険者らしき風貌のやつらがおり、談笑しながら手続きを済ませるのを待っている。
「おいおい、お前らが買い物に時間取られたせいで、こんな時間になっちまったじゃねーか」
「まぁまぁ、今回は深いところまで行くって言っていたからな。入念な準備というやつだ」
「そうよ。どうしても必要な物が見つからなかったんだから仕方ないじゃない!」
「そういうなら、前日に準備をだな……」
「なってしまったものは仕方ないと割り切るしかあるまい。泊まり込みでの攻略だ。準備に時間をかけることは悪いことではないだろう」
「まぁ、そうか……焦ってもしかたねぇな」
「そうよ!仕方ないのよ!」
「お前が言うかねぇ……」
どうやら3人組のパーティらしい彼らは一攫千金を目指してダンジョン深部へ進むらしい。
リーダー格の男が困り気味につば広の帽子をかぶった女にツッコミを入れていた。
ともすれば、出口から装備はひんまがり片腕を吊ったまま笑っている男、更には各所には血のにじむ包帯を巻いた冒険者も出てくる。その姿に俺は目を奪われた。
悲喜こもごもとはいえ、一攫千金と命のやり取りの落差にめまいを覚えた。
「今日はさらっと見学だけのつもりだけど、私達も何れは深部へ向かいたいわね」
「そ、そうだな。順番が来たみたいだぞ」
急に現実に引き戻されたような感覚を覚えながら俺はこれからのことを少し考えた。
もしかしたら、今は2人だけだが、また別の誰かをパーティに迎え入れる事になるかもしれない。逆に俺たちが誰かのパーティに入ることになるかもしれない。俺たち二人では届かない高見を目指して。そんな前向きな未来を少しだけ想像していた。
「どうぞこちらからお入りください」
ナラクのスタッフから声をかけられ、俺とリゼは初めてのダンジョンへ足を踏み入れた。




