表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Still Alive ―前世で壊してしまった人生を、異世界でもう一度やり直す―  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

第9話「名を持つもの」

 父と並んで、しばらく歩く。


 さっき感じた“違和感”。


 弱い。


 でも、消えてはいない。


(……あっちだ)


 自然と足が向く。


 父は何も言わない。


 ただ、ついてくる。



 村の外れ。


 少し開けた場所で、数人の大人が集まっていた。


 見たことのある顔もある。


 知らない顔もある。


 空気が、張っていた。


「……来たか」


 低い声。


 振り向いた男が、父を見る。


 年は父より少し上に見える。


 腕を組み、こちらにも視線を向ける。


「その子か」


 短い一言。


 じっと見られる。


(……またか)


 測られているような視線。


 少しだけ、息が詰まる。


「エリシアだ」


 父が言う。


 それ以上は説明しない。


 男は小さく頷いた。


「話は聞いている」


 視線を外さないまま、続ける。


「黒い影のようなもの。触れて、消えた——だったな」


(……もう、そこまで)


 思っていたより早い。


 話は、もう村の中だけでは止まっていない。


「本当かどうか、確かめる必要がある」


 男の声は落ち着いている。


 でも、軽くはない。


 周りの空気も、同じだった。



「……あそこだ」


 誰かが指をさす。


 視線が集まる。


 草の奥。


 少し影になっている場所。


(……いる)


 はっきり分かる。


 昨日と同じ。


 でも——少し違う。


(……濃い)


 気配が強い。


 重い。


 息が、浅くなる。


「下がっていろ」


 男が言う。


 大人たちが、ゆっくりと前に出る。


 手には道具。


 刃物。


 見たことのない形のものもある。


(……戦うのか)


 そう思った瞬間。


 空気が、揺れた。


 草がざわりと動く。


 次の瞬間——


 それは、現れた。



 黒い。


 影のようなもの。


 でも、形がある。


 ゆらゆらと揺れているのに、そこに“いる”。


 はっきりと。


 昨日より、近い。


 そして——


 明らかに、違う。


「……っ」


 誰かが息を呑む。


 緊張が、一気に張り詰める。


「間違いない……」


 男が小さく呟いた。


「“影喰い”だ」


(……かげ、くい)


 初めて聞く言葉。


 でも、その響きだけで分かる。


 良くないものだと。


「最近、外で増えてるって話はあったが……」


 男の声は低い。


「こんな近くまで来てるとはな」


 影が、動く。


 ゆっくり。


 でも、確実にこちらへ。


「来るぞ!」


 声が飛ぶ。


 次の瞬間——


 大人たちが動いた。



 刃が振られる。


 影に当たる。


 でも——


「効いてない!」


 誰かが叫ぶ。


 確かに。


 斬れていない。


 ただ、すり抜けている。


(……やっぱり)


 昨日と同じ。


 普通じゃない。


 武器では、届かない。


 影が一歩、踏み出す。


 距離が縮まる。


 空気が重くなる。


 呼吸が、苦しくなる。


「くそ……!」


 男が舌打ちする。


 その瞬間。


 視線が、こちらに向いた。


 ——エリシア。


(……またか)


 分かっている。


 あの時と同じ。


 自分しか触れられない。


(……やるしかないか)


 小さく息を吐く。


 足を動かす。


「エリシア!」


 ルナの声。


 止めようとしている。


 でも——


 止まらない。


 前に出る。


 大人たちの横を抜ける。


「待て!」


 声が飛ぶ。


 でも、もう遅い。



 影の前に立つ。


 近い。


 昨日よりも、はっきり見える。


 形が、歪んでいる。


 中が、空っぽみたいに。


(……気持ち悪いな)


 正直な感想だった。


 それでも——


 手を伸ばす。


 触れる。


 冷たい。


 でも、ただの冷たさじゃない。


(……これだ)


 意識する。


 昨日と同じ。


 でも、今度は少し違う。


(……流せ)


 言葉にできない感覚。


 それを、そのまま押し出す。


 じわり、と。


 何かが流れる。


 影が揺れる。


 歪む。


「……動いた?」


 誰かの声。


 関係ない。


 集中する。


(……もっと)


 強く思う。


 広げる。


 包む。


 整える。


 その瞬間——


 ひびが入る。


 影の表面に。


 ぱき、と音がする。


 そして——


 崩れた。



 静かになる。


 さっきまでの圧が、消える。


 空気が戻る。


「……消えた……」


 誰かが呟く。


 誰も動かない。


 ただ、こちらを見ている。


(……また、か)


 手を見る。


 何も変わらない。


 でも——


 さっきまで、確かに何かがあった。


「エリシア」


 父の声。


 振り向く。


 その目は、前とは違っていた。


 迷いがない。


 はっきりと、何かを決めている。


「……お前は」


 言いかけて、止まる。


 その代わりに——


 小さく、息を吐いた。


「……無事でよかった」


 それだけ言う。


 でも、その言葉の奥に、別の意味があるのが分かる。



 周りの大人たちも、動き出す。


 さっきの男が、ゆっくり近づいてくる。


「……間違いないな」


 低い声。


 まっすぐこちらを見る。


「“触れられる側”じゃない」


 一瞬、言葉が止まる。


 そして——


「“触れる側”だ」


(……なんだ、それ)


 意味は分からない。


 でも——


 普通じゃない、ということだけは分かる。


 男は、少しだけ考えるように目を伏せてから——


「この子は、村だけじゃ収まらない」


 はっきりと言った。


 その一言で、空気が変わる。


 遠くの話じゃない。


 今、ここで決まっていく。


(……また、か)


 胸の奥が、少しだけ重くなる。


 でも——


 逃げない。


 逃げたくない。


 そう思った。


 小さく息を吸う。


 まだ分からないことばかりだ。


 でも。


(……やるしかないか)


 そう思ったとき。


 ほんの少しだけ——


 前を向けた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ