第50話「一冊の記録帳」
翌朝。
エリシアが資料室へ入ると、いつもとは少し違う光景が広がっていた。
机の上に、小さなノートが三冊並んでいる。
どれも真新しい。
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「おはようございます。」
シアラが笑顔で迎えた。
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「……おはよう。」
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すると、後ろから元気な声が響く。
「見て見て!」
アレンだった。
得意げに一冊のノートを掲げている。
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「ぼくももらった!」
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エリシアは目を丸くした。
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「……ノート。」
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「うん!」
「昨日、先生にもらった!」
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ミレアも自分のノートを見せる。
「わたしも。」
「絵を描くんだって。」
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エリシアは三冊のノートを見比べた。
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(……みんな。)
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(……はじめる。)
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なんだか少し嬉しかった。
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シアラは子どもたちを見渡す。
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「エリシアの記録を見て、私も思ったんです。」
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「気付いたことを残すのは、とても良い勉強になる。」
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「だから今日から、みんなも自分だけの記録帳を持ちます。」
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子どもたちの目が輝く。
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「絵でもいい。」
「文字でもいい。」
「上手じゃなくてもいい。」
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「大切なのは。」
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「昨日の自分より、一つ多く気付くこと。」
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エリシアは、その言葉を静かに聞いていた。
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昼休み。
アレンが走ってくる。
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「エリシア!」
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「ぼく、今日ね!」
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ノートを開く。
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そこには丸い絵。
横には何か長いもの。
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「これ!」
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「トカゲ!」
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誇らしそうに笑う。
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「しっぽが切れた!」
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エリシアはノートをじっと見る。
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(……そうか。)
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同じ記録帳でも。
見るものは人それぞれなんだ。
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「エリシアは?」
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聞かれて、自分の記録帳を開く。
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今日は木の絵。
その横に、小さな丸がいくつも描かれている。
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「……これ?」
アレンが首を傾げる。
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「……あり。」
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「いっぱい。」
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「はこんでた。」
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アレンは目を丸くした。
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「ほんとだ!」
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「ぼく、気付かなかった!」
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二人はそのまま地面を見る。
蟻たちは列になって餌を運んでいる。
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「ねぇ。」
アレンが小さく笑う。
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「エリシアってさ。」
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「よく見てるね。」
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エリシアは少し照れながら首を傾げる。
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「……そう?」
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「うん!」
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「ぼくは走ってばっかりだから!」
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二人は笑った。
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その様子を、少し離れた場所から局長が見ていた。
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隣にはシアラ。
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「エリシアだけの習慣が、周りへ広がっています。」
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局長は穏やかに頷く。
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「良い影響とは。」
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「言葉で教えるものではない。」
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「生き方で伝わるものだ。」
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夕暮れ。
子どもたちは、それぞれ記録帳を抱えて部屋へ戻っていく。
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トカゲを描いた子。
雲を描いた子。
花を描いた子。
蟻を描いた子。
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どれも違う。
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だから面白い。
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部屋へ戻る前。
エリシアは今日の最後の一行を書いた。
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「みんな ちがう」
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少し考えて。
もう一行。
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「だから おもしろい」
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文字はまだ拙い。
それでも、その言葉には今のエリシアの気持ちが、そのまま詰まっていた。




