第49話「昨日の答え」
朝。
いつものように中庭へ出ると、シアラが花壇の前で首を傾げていた。
「……おかしいですね。」
花壇の植物を一つひとつ見ている。
葉の色。
茎の様子。
土の湿り気。
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エリシアも近寄った。
「……どうしたの?」
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シアラは振り向く。
「この苗だけ元気がないんです。」
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昨日までは元気だった。
それなのに、一晩で葉が少し垂れていた。
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アレンもやって来る。
「水が足りないの?」
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シアラは首を横に振る。
「昨日は十分あげています。」
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子どもたちは苗を囲む。
でも理由は分からない。
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その時だった。
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(……あ。)
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エリシアは何かを思い出した。
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「……まって。」
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急いで部屋へ戻る。
少し転びそうになりながら記録帳を抱えて戻ってきた。
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ページをめくる。
昨日描いた葉っぱ。
その横の文字。
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「ちがう」
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さらに前のページ。
黄色くなった葉。
小さな「?」。
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「……これ。」
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シアラは記録帳を受け取った。
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しばらく見つめる。
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「あ……。」
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小さく声を漏らした。
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「昨日、この苗の葉が少し黄色くなっていたんですね。」
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エリシアは頷く。
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「……うん。」
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「きのう。」
「……もう。」
「ちがった。」
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シアラは優しく微笑む。
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「だから気付けたんですね。」
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局員を呼び、苗を調べてもらう。
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しばらくして、一人の局員が戻ってきた。
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「根に小さな虫がいました。」
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「早く気付けたので、この程度なら大丈夫です。」
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シアラは安心したように息をついた。
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「ありがとう、エリシア。」
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「記録を残していたおかげですね。」
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エリシアは少し驚いた。
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(……やくに。)
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(……たった。)
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初めてだった。
自分が書いたものが。
誰かの役に立った。
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昼休み。
アレンが隣へ座る。
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「すごかったね!」
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「ぼく、全然気付かなかった!」
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エリシアは照れくさそうに笑う。
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「……たまたま。」
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「でも!」
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アレンは記録帳を見る。
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「ぼくも書いてみようかな!」
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「昨日のこと!」
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エリシアは嬉しそうに頷いた。
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「……うん。」
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「かいて。」
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「……おもしろい。」
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二人は顔を見合わせて笑った。
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その日の夕方。
局長室。
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シアラは今日の出来事を話していた。
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「エリシアの記録が、苗を助けました。」
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局長は静かに目を閉じる。
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「それは。」
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「良い経験になりましたね。」
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「はい。」
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「自分のためだけではなく。」
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「誰かのためにも記録は残せる。」
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局長は窓の外を見る。
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「知識とは。」
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「しまい込むものではない。」
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「次の誰かを助けるために残すものだ。」
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その言葉は、シアラの胸にも深く残った。
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夜。
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エリシアは記録帳を開く。
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新しいページに、小さな苗を描く。
その横に、少しだけ丁寧に文字を書く。
「たすかった」
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まだ文字は曲がっている。
それでも。
今日は少しだけ誇らしかった。
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記録帳を閉じる。
胸に抱える。
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(……あしたも。)
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(……みてみよう。)
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小さな「知りたい」は、少しずつ「役に立ちたい」へと形を変え始めていた。




