第48話「違う葉っぱ」
朝露が葉の上で光っていた。
子どもたちは今日も中庭の掃除から一日を始める。
「よーし!」
アレンは竹ぼうきを持ち上げる。
「今日こそ一番に終わらせる!」
そう言うと勢いよく掃き始めた。
もちろん、落ち葉まで遠くへ飛ばしてしまう。
「わっ!」
ミレアが笑う。
「飛ばしちゃってるよ。」
◆
エリシアは黙って葉を集めていた。
まだ体は小さい。
大きなほうきは少し重い。
それでも昨日より上手になっている。
◆
掃除をしていると、花壇の隅に植えられた小さな苗が目に入った。
ふと立ち止まる。
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(……あ。)
◆
一枚だけ。
葉の形が違う。
◆
昨日まで見ていた苗と同じはずなのに。
その一枚だけが少し丸くなっていた。
◆
エリシアはしゃがみ込む。
じっと見る。
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葉の裏も見る。
茎も見る。
◆
その時だった。
◆
「どうしました?」
シアラだった。
◆
エリシアは苗を指差す。
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「……これ。」
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「ちがう。」
◆
シアラもしゃがみ込む。
一緒に苗を見る。
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しばらくして。
優しく笑った。
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「よく気付きましたね。」
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「これは新しい葉です。」
◆
「大人の葉と、育ち始めの葉では少し形が違うんですよ。」
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エリシアは目を丸くした。
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(……おとな。)
◆
(……こども。)
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葉っぱにも。
そんな違いがあるんだ。
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「先生。」
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「はい。」
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「……わたし。」
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「……いっしょ?」
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シアラは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。
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「そうですね。」
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「エリシアも子どもです。」
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「これから少しずつ大人になっていきます。」
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その言葉を聞いて。
エリシアはもう一度、新しい葉を見る。
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(……そっか。)
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今の葉は、小さい。
柔らかい。
でも。
ちゃんと育っている。
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(……わたしも。)
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少しだけ嬉しくなった。
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昼休み。
記録帳を開く。
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今日は葉っぱを描いた。
小さな葉。
大きな葉。
その横に、ぎこちない文字で一つだけ書く。
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「ちがう」
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まだ曲がっている。
読みにくい。
それでも。
昨日よりずっと上手だった。
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シアラが後ろから覗き込む。
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「初めて文字を書きましたね。」
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エリシアは少し照れながら頷く。
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「……かけた。」
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「ええ。」
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「とても大切な一歩ですよ。」
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夕方。
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局長室。
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シアラは今日の出来事を話していた。
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「葉の違いに気付いていました。」
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「そして。」
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「初めて自分で文字を書きました。」
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局長は静かに目を閉じる。
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「知識とは。」
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「覚えることではない。」
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「昨日の自分と、今日の違いに気付くことだ。」
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その夜。
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寝る前。
エリシアは記録帳を開く。
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葉っぱの絵。
そして。
小さな文字。
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「ちがう」
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その一言を指でなぞる。
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葉っぱも。
人も。
昨日と今日では少し違う。
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だから。
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毎日見る意味がある。
毎日考える意味がある。
◆
小さな記録帳は、今日もまた一ページだけ増えていった。




