第46話「今日の宿題」
朝の空は、雲ひとつなかった。
訓練場には今日も子どもたちの元気な声が響いている。
「それっ!」
アレンが勢いよく木剣を振る。
少しバランスを崩したものの、転ばずに踏ん張った。
「やった!」
嬉しそうに笑う。
エリシアも思わず笑みを浮かべた。
◆
訓練が終わると、シアラが子どもたちを集めた。
「今日は皆さんに宿題があります。」
「えぇー!」
あちこちから声が上がる。
アレンは大げさに肩を落とした。
「べんきょう?」
ミレアが尋ねる。
「いいえ。」
シアラは首を横に振る。
「今日の宿題は――」
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「何でもいいので、一つだけ新しい発見をしてきてください。」
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子どもたちは顔を見合わせる。
「発見?」
「なんでも?」
「虫でもいい?」
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「はい。」
シアラは頷く。
「花でも。」
「石でも。」
「空でも。」
「人でも。」
「昨日気づかなかったことを、一つ見つけてください。」
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(……はっけん。)
エリシアはその言葉を何度も頭の中で繰り返した。
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昼休み。
子どもたちは思い思いに外へ出ていく。
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「エリシア!」
アレンが駆け寄る。
「何探す?」
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「……まだ。」
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「決めてない。」
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「じゃあ一緒に探そう!」
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二人は中庭を歩き始めた。
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花壇。
池。
木陰。
石畳。
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しばらく歩いても、何も見つからない。
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「むずかしいなぁ。」
アレンが頭をかく。
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その時だった。
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コツッ。
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小さな音が聞こえた。
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エリシアが足元を見る。
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小さな木の実が落ちていた。
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見上げる。
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木にはまだたくさん実が付いている。
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(……なんで。)
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これだけ落ちたんだろう。
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その時。
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一羽の小鳥が枝へ止まる。
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くちばしで実をつつく。
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ポトッ。
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また一つ落ちた。
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「あ!」
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アレンも気付く。
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「鳥だ!」
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エリシアは小さく頷いた。
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(……そうか。)
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自然に落ちたんじゃない。
鳥が落としていたんだ。
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小さなこと。
でも。
昨日までは知らなかったこと。
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エリシアは記録帳を開く。
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木を書く。
枝を書く。
鳥を書く。
木の実を書く。
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その横に、小さく丸を描く。
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「なに?」
アレンが覗き込む。
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「……みつけた。」
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「そっか!」
アレンも嬉しそうに笑う。
「ぼくも見つけなきゃ!」
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夕方。
子どもたちが順番に発表していく。
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「てんとう虫を見つけました!」
「池にカエルがいました!」
「雲が魚の形でした!」
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どれも立派な発見だった。
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「エリシアは?」
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シアラが優しく尋ねる。
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エリシアは少し緊張しながら前へ出る。
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記録帳を開く。
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みんなへ見せる。
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「……これ。」
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鳥を指差す。
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「……おとした。」
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木の実を指差す。
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「……だから。」
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「……ここ。」
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まだ説明は上手じゃない。
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でも。
シアラはゆっくり頷いた。
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「鳥が木の実を落としていたことを見つけたんですね。」
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エリシアは嬉しそうに頷く。
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「素敵な発見です。」
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「見て終わるのではなく、『どうしてだろう』と考えたことが、とても大切ですよ。」
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その言葉に。
エリシアは胸の奥が少し温かくなった。
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夜。
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記録帳を開く。
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今日のページを眺める。
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(……きょうも。)
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(……ひとつ。)
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(……しれた。)
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ページを閉じる。
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明日は、どんな発見が待っているんだろう。
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そんなことを考えながら、エリシアは静かに目を閉じた。




