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Still Alive ―前世で壊してしまった人生を、異世界でもう一度やり直す―  作者: ぷにゅん


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45/54

第45話「小さな約束」

 記録帳をもらってから、数日が過ぎた。


 エリシアの日課は、また一つ増えていた。


 夜になると記録帳を開く。


 今日見つけた花。


 訓練で気づいたこと。


 森で感じた違和感。


 思い出しながら、小さな絵を描いていく。


 まだ丸や線ばかり。


 それでも、一冊目は少しずつ埋まり始めていた。


◆


 朝。


 訓練場では今日も木剣の音が響いている。


 エリシアも昨日教わった足運びを意識しながら木剣を振る。


 ブン。


 ブン。


 ブン。


 すると。


「お。」


 教官が足を止めた。


◆


「昨日より良くなっているな。」


◆


 エリシアは思わず木剣を見る。


(……ほんと?)


◆


「足が止まらなくなってきた。」


「そのまま続けなさい。」


◆


「……はい。」


 自然と返事が出た。


 少し前なら「……うん。」だった。


 自分でも気付かないくらい、小さな変化だった。


◆


 訓練が終わる。


 アレンが走ってきた。


◆


「エリシア!」


◆


「今日さ!」


「ぼく、一回も転ばなかった!」


◆


 誇らしそうに笑う。


◆


 エリシアも嬉しくなる。


◆


「……すごい。」


◆


「えへへ。」


 アレンは照れくさそうに頭をかく。


◆


「でもね。」


◆


「父さんが言ってた。」


◆


「昨日の自分に勝てたら、それで十分なんだって。」


◆


 エリシアはその言葉を何度も頭の中で繰り返した。


◆


(……きのうの。)


(……じぶん。)


◆


 記録帳を思い出す。


◆


 昨日描いた花。


 昨日感じた違和感。


 昨日できなかったこと。


◆


(……だから。)


◆


(……かいてる。)


◆


 少しだけ意味が分かった気がした。


◆


 昼休み。


 エリシアは資料室で文字の練習をしていた。


◆


「あ。」


◆


 一文字。


◆


「り。」


◆


 もう一文字。


◆


 ゆっくり。


 ゆっくり。


◆


 シアラが後ろから見守っている。


◆


「焦らなくて大丈夫ですよ。」


◆


「はい。」


◆


 以前より返事も少しだけはっきりしてきた。


◆


「先生。」


◆


「はい。」


◆


「……わたし。」


◆


 少し考える。


◆


「もっと。」


◆


「しりたい。」


◆


 その言葉を聞いたシアラは、優しく笑った。


◆


「そう思えたなら。」


◆


「もう十分成長していますよ。」


◆


 エリシアは首を傾げる。


◆


「え?」


◆


「知りたいと思う心は。」


◆


「誰かに教えてもらうものではありません。」


◆


「自分の中で育つものです。」


◆


 その言葉は、まだ全部は理解できなかった。


 それでも。


 胸の奥が少しだけ温かくなった。


◆


 夕方。


◆


 帰る前。


 アレンがエリシアを呼び止めた。


◆


「ねぇ。」


◆


「約束しよう!」


◆


「……やくそく?」


◆


「うん!」


◆


「どっちが強くなるか競争!」


◆


 エリシアは少し考える。


◆


(……つよさ。)


◆


 勝ち負けではない。


 でも。


◆


「……いっしょ。」


◆


「がんばる。」


◆


 アレンは満面の笑みになった。


◆


「うん!」


◆


「一緒に頑張ろう!」


◆


 二人は小さく拳を合わせる。


◆


 コン。


◆


 軽い音が鳴る。


◆


 その約束は、とても幼いものだった。


 勝負でもない。


 契約でもない。


 ただ、


「一緒に頑張ろう。」


という約束。


◆


 少し離れた場所で、それを見ていた局長は小さく笑った。


◆


「良い仲間に出会えましたね。」


 シアラが言う。


◆


「ああ。」


◆


 局長は静かに頷いた。


◆


「努力は、一人でもできる。」


◆


「だが。」


◆


「努力を続けられる者の隣には、いつも誰かがいる。」


◆


 夕日が二人の小さな背中を照らしていた。


◆


 まだ三歳と五歳。


 幼く、弱く、小さな子どもたち。


◆


 それでも。


 この日に交わした約束は。


 何年経っても、二人の心の中で静かに生き続けることになる。

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