第42話「はじめてのおつかい」
朝食を終えたあとだった。
シアラが子どもたちを集める。
「今日は訓練を少し早く終わらせます。」
その一言に、子どもたちがざわついた。
「えー!」
「なんでー?」
アレンも首を傾げる。
◆
シアラは小さく笑う。
「今日は、管理局の近くの村まで届け物があります。」
「希望する子は、一緒に行きましょう。」
◆
その言葉を聞いて、あちこちから手が挙がる。
「はーい!」
「行きたい!」
「ぼくも!」
◆
エリシアも、そっと手を挙げた。
「……いく。」
シアラは優しく頷く。
「では、一緒に行きましょう。」
◆
昼前。
数人の局員と子どもたちは管理局の門を出た。
◆
エリシアは思わず振り返る。
高い石壁。
大きな門。
毎日見ていた建物なのに。
外から見ると、ずいぶん大きく感じた。
(……おおきい。)
◆
一本道を歩いていく。
木々が揺れる。
鳥の声が聞こえる。
風が気持ちいい。
◆
「ねぇ見て!」
アレンが走り出す。
「リスだ!」
◆
本当に小さなリスが木を駆け上がっていく。
ミレアも少しだけ笑った。
◆
エリシアは周りを見渡す。
村とは違う景色。
管理局とも違う景色。
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(……せかい。)
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こんな場所があるんだ。
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歩いているだけなのに。
少しだけ胸が高鳴った。
◆
しばらくすると、小さな村が見えてきた。
畑が並び、子どもたちが走り回っている。
煙突からは白い煙。
どこか穏やかな空気だった。
◆
「こんにちは。」
シアラが村人へ荷物を渡す。
「いつもありがとうございます。」
村人は笑顔で頭を下げた。
◆
そのやり取りを見ていたエリシアは、小さく呟く。
「……おしごと。」
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「そうですよ。」
シアラが微笑む。
「管理局は戦うだけではありません。」
「困っている人を助けたり、こうして支え合ったりすることも、大切な仕事なんです。」
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(……たたかう、だけじゃない。)
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その言葉は、エリシアの中に静かに残った。
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帰り道。
一本道を歩いていると、不意にエリシアが足を止めた。
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「……?」
アレンが振り返る。
「どうしたの?」
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エリシアは森の奥を見る。
◆
(……なんか。)
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ほんの少しだけ。
胸の奥がざわつく。
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昨日まで感じていた、あの違和感によく似ている。
でも、とても弱い。
◆
「エリシア?」
シアラも足を止める。
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「……あっち。」
小さく森を指差した。
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シアラの表情が変わる。
すぐに近くの局員へ目配せをする。
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「確認してきます。」
一人の局員が森へ入っていく。
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数分後。
局員が戻ってきた。
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「異常ありません。」
そう報告する。
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しかし。
局長から派遣されていた年配の局員だけは、エリシアを見つめていた。
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「……何か感じたのかい?」
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エリシアは小さく頷く。
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「……ちょっと。」
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「……いた。」
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「でも。」
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「……もう、ない。」
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年配の局員は静かに目を細めた。
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「そうか。」
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それ以上は聞かなかった。
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帰り道。
エリシアは何度も森を振り返る。
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(……いなくなった。)
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気のせいだったのか。
それとも。
本当に何かいたのか。
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答えは分からない。
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でも。
今日、分かったことが一つある。
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管理局の外にも、人々の暮らしがある。
守るべき場所がある。
笑っている人がいる。
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(……もっと。)
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(……しりたい。)
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エリシアは空を見上げた。
青く広がる空は、村で見た空と同じなのに。
どこまでも続いているように見えた。
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その頃。
森のさらに奥。
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一本の古木の陰から、黒い靄が静かに消えていく。
◆
誰にも見えない。
誰にも気づかれない。
◆
ただ一人。
エリシアだけが、その存在をほんの一瞬だけ感じ取っていた。




