第41話「先生に聞いてみよう」
翌朝。
エリシアはいつもより早く目が覚めた。
昨日のことが、頭から離れない。
(……うごいた。)
落ち葉。
風は吹いていなかった。
でも、確かに動いた。
夢ではない。
何度思い返しても、そう思えた。
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朝食を終えたあとも、気になって仕方がなかった。
訓練中も。
木剣を振りながら考えてしまう。
(……なんで。)
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「集中!」
教官の声が飛ぶ。
「……はい。」
少しだけ慌てて木剣を構え直す。
アレンが隣で小さく笑っていた。
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午前の訓練が終わる。
みんなが休憩へ向かう中、エリシアだけは資料室へ向かった。
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扉を開ける。
今日もシアラが本を整理していた。
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「どうしました?」
優しく声を掛けられる。
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エリシアは少し迷う。
言葉を探す。
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「……せんせい。」
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「はい。」
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「……きのう。」
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「はっぱ。」
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「……うごいた。」
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シアラの手が止まる。
でも表情は変えない。
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「どうやって動いたの?」
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エリシアは両手を見せる。
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「……こう。」
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胸に手を当てる。
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「……ここ。」
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「……あったかい。」
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「それで。」
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「……ちょっと。」
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「うごいた。」
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言葉は少ない。
それでも十分伝わった。
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シアラは静かにしゃがみ込む。
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「ありがとう。」
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「教えてくれて。」
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エリシアは少し驚く。
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「……おこらない?」
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その一言に。
シアラは少しだけ切なそうな顔をした。
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「怒りません。」
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「分からないことを話してくれるのは、とても大切なことです。」
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「先生も、一緒に考えます。」
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その言葉に、エリシアは少しだけ安心した。
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(……よかった。)
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その日の午後。
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シアラは局長室を訪れていた。
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「局長。」
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「エリシアが、自分から相談に来ました。」
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局長は静かに頷く。
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「そうか。」
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「どう思われますか?」
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少しだけ沈黙が流れる。
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「私は。」
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「葉が動いたことよりも。」
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「相談に来たことの方が嬉しい。」
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シアラが目を瞬かせる。
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局長は穏やかに笑った。
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「力は、一人では危うい。」
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「だが。」
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「分からないことを、分からないと言える者は強い。」
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「知ろうとする者は、もっと強い。」
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シアラも優しく笑う。
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「エリシアらしいですね。」
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「ああ。」
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「このまま育ってほしい。」
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夕方。
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中庭ではアレンが今日も木剣を振っていた。
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エリシアはその隣へ行く。
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「……アレン。」
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初めて名前を呼ぶ。
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アレンが振り返る。
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「ん?」
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「……いっしょ。」
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「やる。」
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アレンはぱっと笑顔になる。
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「うん!」
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「今日もやろう!」
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二人は木剣を構える。
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ブン。
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ブン。
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昨日より、少しだけ息が合う。
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少しだけ、振る音も揃う。
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まだ幼い二人。
それでも。
互いの存在が、少しずつ当たり前になってきていた。
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そしてエリシアは思う。
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(……ひとりじゃ。)
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(……ない。)
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その小さな安心が。
彼女の世界を、少しずつ広げていた。




