第40話「小さな発見」
それから数日。
エリシアは毎日、小さな実験を続けていた。
朝起きる。
目を閉じる。
呼吸を整える。
胸の奥を探す。
訓練の前。
昼休み。
眠る前。
時間を見つけては、何度も繰り返した。
◆
何も起こらない日もあった。
昨日と同じ日もあった。
それでも。
(……きょうも。)
自然と続けていた。
◆
ある日の昼休み。
資料室へ向かう途中だった。
窓から風が吹き込む。
机の上に置かれていた紙が一枚、ふわりと舞い上がった。
「あっ。」
シアラが手を伸ばす。
届かない。
紙は廊下へ飛んでいく。
◆
エリシアも反射的に手を伸ばした。
その瞬間。
◆
(……あ。)
◆
胸の奥の温かいものが。
ほんの少しだけ。
指先へ流れた気がした。
◆
ふわり。
◆
舞っていた紙が、一瞬だけ動きを止める。
まるで見えない手で支えられたように。
◆
次の瞬間には、また風に流されて床へ落ちた。
◆
「ありがとう、エリシア。」
シアラは紙を拾いながら微笑んだ。
「助かりました。」
◆
「……。」
エリシアは自分の手を見る。
◆
(……いま。)
◆
(……なんか。)
◆
何かがあった。
でも。
何だったのか分からない。
◆
その日の夕方。
いつものように中庭へ行く。
◆
誰もいない。
ちょうどよかった。
◆
(……もういっかい。)
◆
落ち葉を一枚拾う。
手のひらに乗せる。
◆
目を閉じる。
呼吸を整える。
胸の奥へ意識を向ける。
◆
(……きて。)
◆
温かいものを探す。
◆
しばらくして。
ほんの少しだけ。
あの感覚が現れた。
◆
葉っぱを見る。
◆
何も起きない。
◆
(……だめか。)
◆
そう思った時。
◆
葉が。
◆
ほんの少しだけ。
◆
揺れた。
◆
風ではない。
今は無風だ。
◆
(……うごいた。)
◆
本当に少しだけ。
でも。
確かに動いた。
◆
エリシアは嬉しくなる。
飛び跳ねるほどじゃない。
でも。
胸の奥が温かくなる。
◆
(……できた。)
◆
初めてだった。
偶然かもしれない。
気のせいかもしれない。
それでも。
◆
昨日まではできなかった。
今日はできた。
◆
それだけで十分だった。
◆
その様子を。
少し離れた木陰から、局長が見ていた。
◆
隣にはシアラもいる。
◆
「今のは……。」
シアラが息をのむ。
◆
局長は静かに頷いた。
◆
「魔術ではない。」
◆
「まだ術式にもなっていない。」
◆
「ただ。」
◆
エリシアを見る。
◆
「世界へ触れようとした。」
◆
その言葉には、驚きよりも期待が込められていた。
◆
「教えますか?」
シアラが尋ねる。
◆
局長は静かに首を振る。
◆
「いや。」
◆
「今はまだ。」
◆
「自分で見つけた一歩を、大切にさせよう。」
◆
夕日が中庭を赤く染める。
◆
エリシアはもう一度だけ落ち葉を見る。
◆
「……あしたも。」
◆
小さく呟いた。
◆
今日は少しだけできた。
なら。
明日はもう少し。
◆
その小さな積み重ねが。
未来の誰も知らない力へ繋がっていくことを。
まだ、エリシア自身も知らなかった。




