第39話「見えない力」
朝の訓練を終えたあとだった。
教官は木剣をしまう子どもたちを見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「今日は少しだけ、魔力の話をしよう。」
子どもたちが顔を上げる。
魔術。
それは誰もが興味を持つ言葉だった。
◆
「魔力は、生きている者なら誰でも持っている。」
教官は胸に手を当てる。
「見えないが、確かに存在する力だ。」
◆
「先生!」
アレンが勢いよく手を挙げる。
「いっぱい使ったら、なくなるの?」
「なくなるというより、疲れる。」
教官が笑う。
「走り続ければ疲れるだろう? 魔力も同じだ。」
◆
エリシアは静かに聞いていた。
(……つかれる。)
なら。
◆
(……ふえるの?)
◆
その疑問が浮かぶ。
前世の記憶なのか。
それとも今の自分が思ったのか。
自分でも分からない。
◆
「先生。」
小さく手を挙げる。
「……まほう。」
「いっぱい、つかったら。」
「……ふえる?」
◆
教室が静かになる。
教官は少し驚いた顔をした。
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「どうして、そう思った?」
◆
エリシアは少し考える。
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「……あるくと。」
「つよく、なる。」
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「きのうより。」
「あるける。」
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「だから。」
「……まほうも?」
◆
教官は少しだけ目を丸くした。
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シアラも局長も、そのやり取りを静かに聞いている。
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「……面白い考え方だ。」
教官は微笑んだ。
「正直に言えば。」
「まだ分かっていない。」
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子どもたちがざわつく。
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「魔力は生まれつき決まっている。」
そう考える研究者もいる。
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「努力で増える。」
そう考える研究者もいる。
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「答えは、まだない。」
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エリシアはその言葉を何度も頭の中で繰り返した。
(……わかってない。)
◆
昼休み。
中庭の木陰で、エリシアは両手をじっと見つめていた。
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(……ためしてみよう。)
◆
誰にも言わない。
誰にも教わらない。
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小さく目を閉じる。
◆
昨日教わった魔力を感じる呼吸。
ゆっくり息を吸う。
ゆっくり吐く。
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(……あ。)
◆
胸の奥。
ほんの少しだけ。
あの温かい感覚がある。
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集中する。
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少しだけ。
本当に少しだけ。
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手の先へ流してみる。
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何も起きない。
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(……もういっかい。)
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もう一度。
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また何も起きない。
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でも。
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諦めなかった。
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「エリシア?」
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ミレアが後ろから覗き込む。
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「なにしてるの?」
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「……じっけん。」
◆
「じっけん?」
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「……うん。」
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「まほう。」
「ふえるか。」
「ためしてる。」
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ミレアは少し考えてから笑った。
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「それ、面白そう。」
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「わたしもやる!」
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二人は並んで目を閉じる。
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しばらく静かな時間が流れる。
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結局、その日は何も起こらなかった。
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それでも。
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エリシアは小さく頷く。
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(……きょうは、わからなかった。)
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(……また、あした。)
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その姿を、廊下から局長が見つめていた。
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「止めないのですか?」
リゼットが尋ねる。
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局長は静かに首を振る。
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「答えを教えるのは簡単だ。」
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「だが。」
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「自分で答えを探した者は、一生忘れない。」
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エリシアは今日もまた、小さな疑問を一つ抱えた。
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その疑問は、まだ答えのないものだった。
だからこそ。
知りたいと思った。
確かめたいと思った。
◆
その日から。
誰にも知られない、小さな実験が始まる。
毎日少しずつ。
焦らず。
比べず。
昨日の自分より、ほんの少しだけ前へ。




