↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Still Alive ―前世で壊してしまった人生を、異世界でもう一度やり直す―  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/54

第36話「知るための場所」

 朝日が管理局の中庭を照らしていた。


 訓練が始まる前。


 エリシアは一人、花壇の前にしゃがみ込んでいた。


 昨日見ていた花。


 今朝は、また少しだけ開いている。


(……また、かわった。)


 小さく笑う。


 毎日見ていると、本当に少しずつ変わる。


 昨日は気づかなかったことが、今日は見える。


 そんな時間が、少し好きになっていた。


◆


「エリシア。」


 後ろから声がする。


 振り向くと、シアラが立っていた。


「今日も観察ですか?」


「……うん。」


 エリシアは花を指差す。


「きのうと……ちがう。」


 シアラは花を見て微笑んだ。


「よく見ていますね。」


 その言葉に、エリシアは少しだけ照れたように俯く。


◆


 午前の訓練が終わると、シアラが声をかけた。


「エリシア、少し付き合ってもらえますか?」


「……うん。」


◆


 連れてこられたのは、管理局の奥にある一つの部屋だった。


 今まで入ったことのない場所。


 木の扉には、小さな金属の札が掛かっている。


 そこには、


『資料室』


と書かれていた。


◆


 扉が開く。


 ふわりと紙の匂いが広がる。


「わぁ……。」


 思わず声が漏れた。


 本がたくさん並んでいる。


 壁一面が本棚だった。


 大きな本。


 小さな本。


 古そうな本。


 分厚い本。


 知らないものばかりだ。


◆


「ここは管理局の資料室です。」


 シアラが静かに言う。


「影喰いの記録や植物、魔物、この世界の歴史……いろいろなことが書かれています。」


 エリシアは本棚を見上げた。


(……いっぱい。)


◆


「もちろん、まだ全部は読めません。」


 シアラは笑う。


「文字も勉強中ですからね。」


「……うん。」


 少しだけ恥ずかしい。


◆


 するとシアラは、一冊の薄い本を取り出した。


 絵がたくさん描かれている。


「これは子ども向けの植物図鑑です。」


「今日見ていた花も載っているかもしれませんよ。」


◆


 エリシアはそっと本を受け取る。


 ページをめくる。


 色鮮やかな花の絵が並んでいた。


◆


「あ。」


 一つの絵で手が止まる。


 今日見た花だった。


◆


「……これ。」


◆


「見つけましたか?」


◆


 エリシアは何度も頷く。


◆


 本の下には、まだ読めない文字が並んでいる。


 でも。


 知りたかったことが、ここにある。


◆


(……よみたい。)


◆


 その気持ちが、自然と湧いてきた。


◆


「先生。」


 小さく顔を上げる。


「……もじ、おぼえたい。」


◆


 シアラは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。


「はい。」


「一緒に勉強しましょう。」


◆


 部屋の外。


 半開きになった扉の向こうから、局長が静かにその様子を見守っていた。


◆


「局長。」


 隣にいたリゼットが小声で尋ねる。


「やはり、特別扱いを?」


◆


 局長は静かに首を振る。


「違う。」


◆


「私は何も教えていない。」


◆


「知りたいと思ったから、自分で歩き始めた。」


◆


 窓から差し込む光が、本棚を照らす。


◆


「知識は与えるものではない。」


◆


「求めた者だけが、本当の意味で身につける。」


◆


 その言葉を聞いたリゼットは、小さく頷いた。


◆


 資料室の中では。


 エリシアが絵本を抱え、何度も花の絵を見比べていた。


◆


 まだ文字は読めない。


 それでも。


 知りたいという気持ちは、本物だった。


◆


 その小さな一歩が。


 いつか世界の理を紐解くことになるとは——


 まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。