第35話「どうして?」
朝の訓練が終わる。
子どもたちは木剣を片付け、それぞれ休憩へ向かっていく。
今日も汗をかいた。
腕も少しだけ重い。
でも、不思議と嫌ではない。
◆
エリシアは木剣を見つめた。
(……きのうより。)
軽い。
少しだけ。
本当に少しだけだった。
◆
(……なんで?)
ふと疑問が浮かぶ。
腕の力が強くなったのだろうか。
それとも持ち方が変わったのか。
理由は分からない。
◆
もう一度だけ。
誰もいない訓練場で木剣を構える。
昨日と同じように振る。
ブン。
◆
(……ちがう。)
もう一度。
◆
ブン。
◆
(……こっち。)
今度は足の向きを少しだけ変えてみる。
木剣を振る。
◆
ブン。
◆
「あ……。」
少しだけ軽い。
腕ではなく。
体全体で振れた気がした。
◆
(……そういうこと?)
誰かに教わったわけじゃない。
偶然だった。
でも。
昨日より振りやすい。
◆
その時だった。
◆
「何してるの?」
◆
後ろから声。
ミレアだった。
◆
「……ためしてる。」
◆
「試してる?」
◆
「……うん。」
木剣を見せる。
◆
「こっち。」
足を動かす。
もう一度振る。
◆
ブン。
◆
「さっきより。」
「……かるい。」
◆
ミレアは首を傾げる。
「そんなの分かるの?」
◆
「……なんとなく。」
◆
自分でも説明はできない。
でも。
違うことだけは分かった。
◆
「ふーん。」
ミレアは笑う。
「エリシアって、面白いね。」
◆
(……そうかな。)
自分では普通だった。
気になったから試した。
ただそれだけ。
◆
その様子を、少し離れた場所から見ている人がいた。
◆
シアラだった。
◆
隣には局長もいる。
◆
「教えたのですか?」
シアラが尋ねる。
◆
局長は静かに首を振る。
◆
「いや。」
◆
「自分で気付いた。」
◆
その言葉に、シアラは驚く。
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「まだ三歳ですよ。」
◆
「ああ。」
◆
局長は訓練場を見つめたまま言う。
◆
「だからこそだ。」
◆
「答えを教えるより。」
◆
「疑問を持つ子に育ってほしい。」
◆
◆
昼休み。
◆
エリシアは中庭の花壇へ座っていた。
◆
一輪の花を見る。
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昨日より少し開いている。
◆
(……なんで。)
◆
朝だから?
太陽?
水?
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分からない。
◆
でも。
知りたかった。
◆
指先でそっと花びらに触れる。
◆
「エリシア。」
◆
シアラが隣へ座った。
◆
「お花、好きですか?」
◆
「……うん。」
◆
「どうして?」
◆
少し考える。
◆
「……かわる。」
◆
「昨日と。」
◆
「ちがう。」
◆
シアラは少しだけ目を見開いた。
◆
「よく見ていますね。」
◆
優しく笑う。
◆
「変わるものを知ることは、とても大切なんですよ。」
◆
その言葉は。
幼いエリシアには、まだ少し難しかった。
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それでも。
胸の奥には残った。
◆
変わる。
◆
昨日と今日。
◆
花も。
木剣も。
自分も。
◆
(……もっと。)
(……しりたい。)
◆
その小さな好奇心は。
まだ誰にも気付かれない。
◆
けれど。
その日からエリシアは、毎日ひとつだけ「どうして?」を探すようになった。
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木剣。
花。
風。
魔力。
影喰い。
◆
すべては、小さな疑問から始まる。
◆
そしてその積み重ねが、未来のエリシアだけが辿り着ける答えへと繋がっていくことを――
今はまだ、誰も知らなかった。




