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Still Alive ―前世で壊してしまった人生を、異世界でもう一度やり直す―  作者: ぷにゅん


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34/54

第34話「見えない努力」

 木剣を振る音が、朝の訓練場に響く。


 パンッ。


 パンッ。


 乾いた音が、一定のリズムを刻んでいた。


◆


「そこまで。」


 教官の声で、子どもたちが一斉に木剣を下ろす。


 額には汗。


 息も少し上がっている。


「今日は昨日より、全員よく動けていた。」


 その言葉に、子どもたちの表情が少し明るくなる。


 褒められるのは、やっぱり嬉しい。


◆


「ですが。」


 教官は一本の木剣を持ち上げる。


「上手く振ることだけが訓練ではありません。」


 静かに地面へ木剣を置いた。


「手入れも、大事な訓練です。」


◆


 子どもたちは首を傾げる。


「木剣も道具です。」


「使ったら終わりではない。」


「次に使えるように整える。」


◆


(……ととのえる。)


 その言葉に、エリシアは少し反応した。


◆


 布を渡される。


 一人ひとり、自分の木剣を拭き始めた。


 泥を落とす。


 柄を磨く。


 ささくれがないか確かめる。


◆


 エリシアも見よう見まねで布を動かす。


 ゆっくり。


 丁寧に。


◆


(……きれい。)


 木の色が少しだけ明るく見えた。


◆


「上手ですね。」


 シアラが後ろから声を掛ける。


「道具を大切にできる人は、人も大切にできます。」


◆


 エリシアは木剣を見つめた。


◆


 影喰いを”整えた”時も。


 壊したわけじゃなかった。


◆


 この世界では。


 “整える”という言葉には、思っていた以上に意味があるのかもしれない。


◆


 昼休み。


 中庭では子どもたちが走り回っていた。


 ミレアは木陰で本を読んでいる。


 金髪の少年は、一人で素振りを続けていた。


◆


(……また。)


 朝もやっていた。


 訓練の後もやっている。


 昼休みまで。


◆


 エリシアは少しだけ近づく。


「……つかれない?」


◆


 少年は木剣を止めた。


「疲れるよ。」


 笑って答える。


◆


「でもね。」


 空を見上げる。


◆


「父さんが言ってた。」


◆


「努力ってさ。」


◆


「誰も見てない時にやるものなんだって。」


◆


 エリシアは黙って聞いていた。


◆


「試合の時だけ頑張っても遅い。」


「毎日の積み重ねが、いつか自分を助ける。」


◆


 そう言って、また木剣を振る。


◆


 ブン。


◆


 ブン。


◆


 その姿は、決して派手ではない。


 魔術も使わない。


 特別な才能も見えない。


◆


 でも。


◆


(……すごい。)


 そう思えた。


◆


 エリシアは自分の木剣を見る。


◆


 少し迷う。


◆


 そして。


◆


 少年の隣へ立った。


◆


「……わたしも。」


◆


 木剣を構える。


◆


 一振り。


◆


 また一振り。


◆


 二人は何も話さない。


◆


 ただ同じリズムで、木剣を振り続ける。


◆


 少し離れた建物の窓から。


 局長がその様子を見ていた。


◆


「仲間、ですか。」


 副局長が静かに言う。


◆


 局長は小さく首を振った。


◆


「まだ違う。」


◆


「だが、いつか。」


◆


「互いの背中を預けられる日が来るだろう。」


◆


 その言葉には、不思議な確信があった。


◆


 夕日が訓練場を赤く染める。


 小さな木剣が、何度も空を切る。


◆


 まだ誰も知らない。


◆


 この何気ない日々が。


 未来の管理局を支える二人の、最初の一歩だったことを。

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