第29話「約束の朝」
朝の訓練が終わるころには、子どもたちは汗だくになっていた。
「つかれたぁ……。」
誰かがその場に座り込む。
それを見て、あちこちから笑い声が上がる。
エリシアも木剣を抱えたまま、小さく息を吐いた。
「……はぁ。」
腕が少し重い。
でも昨日ほどではない。
(……ちょっとだけ)
(……なれた。)
◆
「お疲れさま。」
シアラが全員に水を配っていく。
冷たい水を口にすると、体の熱がゆっくり引いていく。
「今日はここまでです。」
「午後は自由時間にします。」
子どもたちの表情が一気に明るくなる。
「やったー!」
「外で遊ぼう!」
元気よく走っていく子どもたち。
その様子を見て、エリシアも少しだけ笑った。
◆
「エリシア。」
隣から声がする。
金髪の少年だった。
「また明日、一緒にやる?」
少し照れくさそうに言う。
「……うん。」
自然と返事が出た。
「よろしく。」
少年は嬉しそうに笑う。
「僕も、もっと上手くなりたいから。」
◆
(……もっと。)
その言葉が心に残る。
もっと。
昨日より。
今日より。
少しずつ。
◆
(……わたしも。)
そう思えた。
◆
その時。
少し離れた場所からミレアが手を振っていた。
「エリシアー!」
「早くー!」
「……いく!」
少し大きな声が出た。
自分でも驚くくらい自然だった。
ミレアも驚いた顔をしている。
そして、にこっと笑った。
「うん!」
◆
三人で管理局の庭を歩く。
風が心地いい。
花壇には色とりどりの花が咲いている。
昨日、影喰いが現れた場所とは思えないほど穏やかだった。
◆
「そういえば。」
少年が花壇を見ながら言う。
「花って、毎日見てると少しずつ変わるよね。」
「昨日つぼみだったのに、今日は咲いてたり。」
◆
エリシアも花を見る。
(……ほんとだ。)
小さな蕾が、一輪だけ花を開いていた。
◆
「人も同じなのかな。」
少年はぽつりと呟く。
「毎日は分からなくても、少しずつ変わっていく。」
◆
その言葉に、エリシアは足を止めた。
◆
(……かわる。)
◆
昨日の自分。
今日の自分。
前世の自分。
◆
全部、少しずつ違う。
◆
「……かわりたい。」
思わず口からこぼれた。
◆
二人が振り向く。
「え?」
ミレアが首を傾げる。
◆
エリシアは少し恥ずかしくなる。
でも、言葉は止まらなかった。
「……もっと。」
「もっと、ちゃんと。」
◆
上手く言えない。
それでも。
◆
ミレアは笑った。
「うん。」
「きっと変われるよ。」
◆
少年も頷く。
「僕も変わりたい。」
「だから頑張る。」
◆
三人は顔を見合わせて笑った。
◆
まだ小さな約束だった。
誰も深く考えていない。
でも。
この日交わした
『もっと変わりたい。』
という想いは、
それぞれの未来へ続く、大切な一歩になっていく。




