第27話「初めての木剣」
翌朝。
いつものように鐘の音で目を覚ます。
管理局へ来てから、この音にも少しずつ慣れてきた。
「おはよう、エリシア。」
部屋の外ではミレアが待っていた。
「……おはよ。」
まだ少し眠そうな声。
ミレアは小さく笑った。
「今日は訓練の日だよ。」
(……くんれん)
その言葉を聞くだけで、少しだけ身が引き締まる。
魔力の訓練では、まだ何もできなかった。
今日は何をするのだろう。
◆
訓練場には、同じ年頃の子どもたちが集まっていた。
昨日見かけた金髪の少年もいる。
皆、手に小さな木剣を持っていた。
「今日は体の使い方を覚える。」
教官が一本の木剣を持ち上げる。
「魔術だけでは戦えない。」
「影喰いから身を守るためにも、まずは自分の体を知れ。」
そう言って、一人ひとりに木剣を配り始めた。
エリシアの番になる。
差し出された木剣を、両手で受け取る。
(……おもい。)
見た目よりずっと重い。
思わず腕が下がる。
周りを見ると、他の子たちも苦戦していた。
ミレアも両手で抱えるように持っている。
少しだけ安心した。
◆
「まずは構えろ。」
教官の声が響く。
見よう見まねで木剣を構える。
ぎこちない。
腕が震える。
「力を入れすぎだ。」
教官がエリシアの腕を軽く押した。
「剣は振り回すものじゃない。」
「体を預けるように持て。」
言われた通りに少し力を抜く。
(……あ。)
さっきより軽く感じた。
「そうだ。」
教官が小さく頷く。
「剣も、お前の体の一部だ。」
その言葉は、幼いエリシアにはまだ難しかった。
それでも、不思議と頭に残った。
◆
しばらく素振りが続く。
一回。
二回。
三回。
腕がだるくなる。
「はぁ……。」
小さく息を吐く。
隣を見ると、ミレアも同じように肩で息をしていた。
二人で目が合う。
思わず笑ってしまう。
「つかれたね。」
「……うん。」
その短いやり取りだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
◆
訓練の終わり。
教官が全員を見渡した。
「今日、上手くできた者はいない。」
子どもたちが顔を見合わせる。
「それでいい。」
教官は静かに続ける。
「強くなる者は、最初から強い者ではない。」
「昨日の自分より、一歩前へ進めた者だ。」
エリシアは木剣を見つめた。
今日は重かった。
腕も痛い。
魔術もできない。
影喰いのことも分からない。
分からないことばかりだ。
でも──
(……また、やろ。)
そう思えた。
◆
夕暮れ。
一人、訓練場に残る人影があった。
金髪の少年だ。
誰もいなくなったあとも、一人で木剣を振っている。
一振り。
また一振り。
その姿を、エリシアは少し離れた場所から見ていた。
(……すごい。)
同じくらいの年なのに。
自分よりずっと上手だった。
すると少年が振り返る。
また目が合う。
今度は少年の方から、小さく頭を下げた。
エリシアも慌てて頭を下げる。
それだけ。
言葉は交わさない。
それでも──
その日、二人は初めて互いを「同じ場所で学ぶ仲間」として認識した。




