第24話「見えないはずのもの」
翌日の訓練。
エリシアは昨日と同じ場所にいた。
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目を閉じる。
呼吸を整える。
魔力を感じる。
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周囲では、少しずつ成果が出始めていた。
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小さな火。
小さな風。
淡い光。
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まだ遊びみたいなものだ。
それでも確かに魔法だった。
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(……すごいな)
素直に思う。
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ミレアも昨日より上手くなっていた。
掌の上に浮かぶ光は、前より安定している。
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「できた」
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嬉しそうに見せてくる。
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「……すごい」
エリシアも頷いた。
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でも。
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自分には何もない。
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何度やっても。
何度集中しても。
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何も感じない。
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(……ないな)
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不思議だった。
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影喰いは見える。
違和感も感じる。
なのに魔力は分からない。
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その時だった。
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「エリシア」
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訓練担当の男が近づいてきた。
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「少し来い」
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短い言葉。
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エリシアは素直について行った。
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案内されたのは、訓練室の奥。
小さな部屋だった。
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中には局長がいた。
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(……まただ)
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少しだけ緊張する。
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局長は相変わらず静かだった。
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「座りなさい」
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椅子に座る。
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机の上には、小さな石が置かれていた。
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透明な石。
拳ほどの大きさ。
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「これは魔力結晶だ」
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局長が言う。
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「普通の子供なら、触れるだけで反応する」
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エリシアを見る。
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「触れてみなさい」
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小さく頷く。
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手を伸ばす。
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石に触れる。
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何も起きない。
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静かなまま。
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(……やっぱり)
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そう思った瞬間。
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石の奥に、何かが見えた。
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(……あれ?)
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光じゃない。
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もっと奥。
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細い線。
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無数の糸のようなもの。
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絡まり。
歪み。
流れ。
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そんなものが見える。
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思わず手を離した。
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景色が消える。
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「……見えたか」
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局長の声。
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エリシアは顔を上げた。
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「……なんか、あった」
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言葉にできない。
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でも。
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局長の目が少しだけ細くなる。
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まるで、その答えを待っていたように。
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「どんなものだった」
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エリシアは考える。
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説明できない。
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でも——
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「……こわれそう」
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それが一番近かった。
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「いっぱい、つながってて」
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「……ぐちゃぐちゃだった」
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局長が沈黙する。
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部屋も静かになる。
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しばらくして。
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「そうか」
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それだけ言った。
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だが。
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その表情は少しだけ変わっていた。
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驚き。
いや。
確信に近いもの。
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そんな顔だった。
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「エリシア」
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「……うん」
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「今の話は、しばらく誰にもするな」
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「……なんで?」
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自然と聞き返す。
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局長は少し考えた。
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そして静かに言った。
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「君が見たものは」
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そこで一度言葉を切る。
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「本来、見えるはずのないものだからだ」
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エリシアは意味が分からなかった。
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でも——
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局長だけは知っていた。
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古い文献の中に。
伝承の中に。
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似た記録が残されていたことを。
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それは何百年も前の話。
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真偽すら不明な記録。
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だが。
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今。
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目の前の少女は。
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その記録と同じことを口にした。
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(……まさか)
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局長は表情を変えない。
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だが胸の奥では。
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長い年月、ただの伝説だと思っていたものが。
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静かに動き始めていた。




