第25話「伝説の欠片」
訓練が終わったあと。
エリシアは一人で廊下を歩いていた。
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頭の中には、昨日のことが残っている。
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魔力結晶。
その中で見えたもの。
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無数の糸。
絡まり。
歪み。
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(……なんだったんだろ)
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考えても分からない。
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そもそも、見えてはいけないものらしい。
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局長はそう言った。
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(……へんなの)
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小さく呟く。
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その時だった。
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「エリシア」
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後ろから声。
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振り向く。
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ミレアだった。
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いつものように静かだ。
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「探した」
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「……なんで?」
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「授業」
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短い返事。
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(……わすれてた)
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少しだけ慌てて歩き出す。
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ミレアが小さく笑った。
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「最近、考えごと多いよね」
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図星だった。
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「……うん」
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隠しても仕方ない。
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ミレアは何も聞いてこない。
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そこがありがたかった。
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ルナなら絶対聞く。
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何なら五回くらい聞く。
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(……たぶん)
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少しだけ笑いそうになる。
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授業室へ入る。
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今日は子供が少し多い。
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見慣れない顔もいる。
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他の支部から来た子らしい。
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その中に、一人だけ目立つ子がいた。
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金色の髪。
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年齢は同じくらい。
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でも堂々としている。
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まるで緊張していない。
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(……すごいな)
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自然とそう思う。
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すると。
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その子がこちらを見た。
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一瞬。
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目が合う。
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向こうも少し不思議そうな顔をした。
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でも何も言わない。
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そのまま視線を戻した。
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(……なんだろ)
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少しだけ引っかかった。
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授業が始まる。
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今日の担当はシアラだった。
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「今日は歴史を学びます」
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黒板に文字を書く。
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世界史。
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管理局の成り立ち。
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影喰い。
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そして——
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古い伝承。
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「これは事実かどうか分からない話です」
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シアラが言う。
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「古い文献にだけ残るお話ですね」
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子供たちが少し身を乗り出す。
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こういう話は人気だ。
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「今から四百年以上前」
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「世界中で大量の影喰いが発生した時代がありました」
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教室が静かになる。
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「当時の記録によると」
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「一人の少女が現れたそうです」
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(……しょうじょ)
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エリシアも聞いていた。
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「その少女は影喰いを見つけ」
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「誰よりも早く居場所を察知し」
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「そして——」
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シアラが少しだけ言葉を止める。
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「影喰いを消したそうです」
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教室がざわつく。
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「ひとりで!?」
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「ほんとに?」
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シアラが苦笑する。
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「だから伝承なんです」
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でも。
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エリシアだけは少し違った。
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胸の奥がざわつく。
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(……なんで)
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分からない。
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でも。
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その話が妙に引っかかる。
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「ただし」
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シアラが続ける。
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「その少女についての記録は、そこから先がありません」
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「死んだとも」
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「消えたとも」
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「世界を救ったとも」
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「災いを招いたとも」
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全部の記録が違う。
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「だから現在では」
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「ただのおとぎ話とされています」
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授業は続いていく。
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でも。
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エリシアの意識は、そこにはなかった。
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四百年前の少女。
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影喰いを見つけた。
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消した。
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(……にてる)
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そう思ってしまった。
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もちろん違う。
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自分はただの三歳だ。
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何も知らない。
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何もできない。
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でも——
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局長の言葉。
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魔力結晶。
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影喰い。
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全部が繋がる気がした。
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そして教室の後ろ。
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誰にも気づかれないように。
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あの金髪の少年が。
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静かにエリシアを見ていた。
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まるで何かを確かめるように。
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その視線に気づく者は、まだ誰もいなかった。




