第22話「できないこと」
授業が終わったあと。
エリシアたちは、別の部屋へ案内された。
◆
広い部屋だった。
机はない。
床も固い石でできている。
◆
(……なんだここ)
自然と周囲を見る。
◆
「訓練室だよ」
ミレアが教えてくれる。
◆
(……くんれん)
その言葉だけで、少し身構えた。
◆
部屋には数人の子供がいた。
みんな年上だ。
六歳くらい。
七歳くらい。
◆
その中央に、男性が立っていた。
短い髪。
大きな体。
◆
「集まれ」
低い声が響く。
◆
子供たちが集まる。
エリシアとミレアも、その中へ入った。
◆
「今日は魔力操作の基礎だ」
◆
(……まりょく)
授業で聞いた言葉だ。
◆
「まずは感じろ」
◆
男が手を出す。
◆
その瞬間。
小さな光が現れた。
◆
(……!)
思わず目を見開く。
◆
火ではない。
でも光っている。
◆
ふわりと浮かび、ゆっくり消えた。
◆
子供たちから感嘆の声が漏れる。
◆
「これが魔力だ」
◆
男は言った。
◆
「全員できるようになれ」
◆
簡単に言う。
でも簡単じゃない。
◆
訓練が始まった。
◆
目を閉じる。
呼吸を整える。
体の中を感じる。
◆
そんな説明が続く。
◆
周囲では——
◆
「できた!」
◆
「見えた!」
◆
そんな声が少しずつ増えていく。
◆
ミレアの手の上にも、小さな光が浮かんでいた。
◆
(……すごいな)
純粋に思う。
◆
でも——
◆
自分には何もない。
◆
何度やっても。
何度集中しても。
◆
何も感じない。
◆
(……あれ)
◆
少しだけ焦る。
◆
周囲を見る。
◆
みんな何かしらできている。
◆
なのに——
◆
自分だけ。
◆
(……ない)
◆
胸の奥が少し重くなる。
◆
前世の記憶が顔を出す。
◆
できない。
◆
周りはできる。
◆
自分だけできない。
◆
嫌な感覚。
◆
昔、何度も味わった感覚。
◆
その時だった。
◆
「焦るな」
◆
声。
◆
顔を上げる。
訓練担当の男だった。
◆
「できる奴もいれば、遅い奴もいる」
◆
短く言う。
◆
「今は感じることだけ考えろ」
◆
それだけだった。
◆
慰めじゃない。
◆
でも——
◆
(……うん)
少しだけ楽になった。
◆
再び目を閉じる。
◆
呼吸する。
◆
焦らない。
◆
前みたいに投げ出さない。
◆
できないなら。
◆
できるまでやる。
◆
今度は。
◆
逃げない。
◆
そう決めた。
◆
そして——
◆
誰にも気づかれない場所で。
◆
エリシアの胸の奥。
さらに深い場所で。
◆
何かが、ほんの僅かに揺れた。
◆
光でもない。
火でもない。
風でもない。
◆
誰も知らない。
誰も見たことがない。
◆
そんな何かが。
◆
静かに目を覚まし始めていた。




