第21話「はじめての授業」
局長との話が終わった翌日。
エリシアは、少し早く目を覚ました。
◆
(……まなぶ)
昨日の言葉が、頭に残っている。
学べ。
力を知りたいなら。
◆
前の人生では。
勉強なんて好きじゃなかった。
面倒だったし、意味も分からなかった。
だから、避けていた。
◆
でも——
(……こんどは)
少し違う。
知らないままでいる方が、怖かった。
◆
朝食を終えると、ミレアが待っていた。
「今日は教室だよ」
「……きょうしつ?」
「うん」
少しだけ笑う。
「勉強するところ」
◆
案内された場所は、思っていたより普通だった。
机。
椅子。
本棚。
大きな黒板みたいな板。
◆
(……がっこうみたい)
前世の記憶が、小さく顔を出す。
少しだけ懐かしい。
◆
中には数人の子供がいた。
年齢は様々だ。
エリシアやミレアより年上もいる。
◆
みんな、一度こちらを見る。
でも騒がない。
すぐに自分の席へ戻っていく。
◆
(……たすかった)
少し安心する。
注目されるのは、まだ苦手だった。
◆
「ここね」
ミレアが隣の席を指さす。
素直に座る。
◆
しばらくして。
一人の女性が入ってきた。
長い銀色の髪。
落ち着いた雰囲気。
◆
「おはようございます」
優しい声だった。
◆
子供たちが返事をする。
少し遅れて、エリシアも真似をした。
「……おはよ」
◆
女性が微笑む。
「新しい子ですね」
視線が向く。
でも嫌な感じはしない。
◆
「私はシアラ」
ゆっくり名乗る。
「皆に勉強を教えています」
◆
(……シアラ)
その名前を覚える。
◆
「今日は初日なので、簡単なお話から始めましょう」
◆
黒板に文字が書かれる。
世界。
人。
魔力。
◆
(……まりょく)
初めて聞く言葉じゃない。
でも、ちゃんと説明されるのは初めてだった。
◆
「この世界のすべてには魔力が流れています」
シアラが話す。
「人も、動物も、植物も」
◆
教室が静かになる。
みんな聞いている。
◆
「ですが」
そこでシアラが少し表情を変える。
◆
「流れが乱れることがあります」
◆
エリシアの体が少しだけ反応した。
◆
「その歪みが大きくなると、影喰いが生まれます」
◆
(……やっぱり)
自然と息を飲む。
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「だから管理局は世界を守るのです」
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その言葉は、思ったより重かった。
◆
今までは、自分の周りだけだった。
村。
ルナ。
父と母。
◆
でも——
◆
(……せかい)
その言葉は大きい。
想像もできないくらい。
◆
「先生」
一人の男の子が手を挙げた。
「影喰いは全部倒せるんですか?」
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シアラは少しだけ考えた。
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「全部は難しいでしょう」
◆
教室が静かになる。
◆
「だからこそ、私たちは学び続けるのです」
◆
その答えは、どこか局長に似ていた。
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分からないなら学ぶ。
知らないなら知る。
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簡単な言葉なのに、不思議と心に残る。
◆
(……そうか)
少しだけ。
本当に少しだけ。
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前の自分には無かった気持ちが生まれる。
◆
(……しりたい)
◆
影喰いのこと。
自分のこと。
世界のこと。
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まだ分からない。
でも——
◆
知りたいと思った。
◆
授業の終わり。
窓の外を見る。
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青い空が広がっている。
◆
村にいた頃と同じ空。
でも——
◆
その向こうには、まだ見たことのない世界がある。
◆
エリシアは、小さく拳を握った。
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知らないことは、まだたくさんある。
◆
けれど。
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今度は逃げない。
◆
少しずつでも。
一歩ずつでも。
◆
知っていこう。
◆
そう思えたのは——
きっと、初めてだった。




