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第二百三十一話 『主人公の妹』というキーポジション

 今更説明するまでもないと思うが、真田才賀は悪い意味でシスコンである。

 あいつの妹に対する愛……いや、執着は凄まじい。かわいがっているという表現が相応しくないほどに、溺愛している。


 しかも、普通のラブコメで見られる兄妹みたいな『良い意味』のシスコンではないのが厄介だ。

 いわゆる束縛系。あるいは隷属系……所持欲か、もしくは支配欲か。とにかく、我が意のままに妹を管理したい、という欲求が言動のいたるところから垣間見える。それがさやちゃんは嫌で、反抗しているわけだが。


 愛の形はどうであれ、真田が妹を特別視していることは事実。

 それが意味することは、つまり――さやちゃんが認めた女性は、無条件で真田の好意も上がるというわけだ。


 古今東西、主人公の妹は基本的に正ヒロインに対して好意的である。例外も一部あるが。

 しかしさやちゃんは真田の周囲にいるヒロインに対してことごとく塩対応をしている。だからこそ、さやちゃんに認められることは、ヒロインにとって自分の立ち位置の向上にも繋がるわけだ。


 それがあって、氷室さんはさやちゃんを特別にかわいがっている。たとえ冷遇されようとも、真田の妹という属性だけで彼女はさやちゃんに好かれようと必死になっていた。


 そしてそれは、湾内さんも同じというわけだろう。


「ほら。さやって媚びられるのが嫌いでしょ? だからあたしはこの先二度と、あんたに好かれる可能性はない」


 ……負け犬キャラの癖に、状況を俯瞰で見えているのが彼女の厄介な部分だよなぁ。

 もう少し視野が狭い人間であれば、もっとやりやすいのに。


 彼女は自分の悪い部分もよく理解している。

 分かっている上で動いているから、(たち)が悪いのだ。


「だから、勝負しない? 才賀の前でだけでいいから、あたしを姉と扱ってよ。そうすれば、あたしは才賀の愛人として揺らがない存在でいられるでしょ?」


「嫌です。さやにあなたたちの事情は関係ありません」


 もちろん、さやちゃんは否定的だ。

 彼女にとって、実兄の恋愛事情なんて心底どうでもいいのだろう。その反応は予測できた。


 だが、相手は他人をイラつかせることで定評のある小娘である。

 ここに来てからずっと、彼女はさやちゃんを煽り続けている。


 まるで、さやちゃんの心をかき乱すように。


「ふーん。負けるのが怖いんだ~?」


「そんな安い挑発に乗るほど、さやは子供ではありません」


「あんたが勝ったら、あたしを好きに使ってもいいと言ったら? 下僕になるけど、それでもダメ?」


「不要です。さやにとって、あなたが隣にいるだけでデメリットにしかなりませんが」


「……ちっ。やっぱり同性の年下ってやりにくいわ。性欲に訴える手段しかあたしにはないんだけど? 下僕になるって言ったら、大抵の男子は言うこと聞くのに」


 性欲に訴えるなよ。

 ただ、彼女の言う通りさやちゃんは湾内さんにとって天敵に近いだろう。

 色仕掛けも通じない上に、搦め手をそもそも受け付けない。俺やこの喫茶店のおじいさんにとっては小娘というか、年下の少女という特権を振りかざしてナマイキな態度も取れるようだが……イエスとノーをハッキリ言えるさやちゃんを篭絡するのは不可能に近い。


 だからこそ、湾内さんはあえて変な策を考えずに、シンプルな取引を持ち掛けているのかもしれない。


「……ねぇ、本当にいいの? あたし、いつの間にかオンになっているGPSを切ったり、追跡アプリを削除したりできるのになぁ」


「――むむっ」


 ……ああ、そういうことか。

 たしかに、湾内さんにその方面で協力させると、かなり有用になるな。


「学校からの帰り道。いきなり才賀と遭遇する時とか、あたしから事前に情報がほしくないの? 才賀が今どこにいて、何をして、あんたに何をしようとしているのか、あたしは色々とアドバイスできるのに」


「ストーカーが趣味だからか?」


「うん! 才賀ってばすっごく鈍感だから、自分が追跡アプリを入れられていることとか、ブラウザの履歴を全部あたしにチェックされてるとか、何も分かってないのが本当にキュートなの!」


「キュートというか、あほだな」


 とんでもない小娘だった。ストーカーの上に手癖も悪そうである。

 まぁ、真田が監視されていることについてはどうでもいい。

 問題は、彼女が持つ情報力だ。


「さや。あたしを味方にしたら、結構役に立つわよ。あんたがもし本当にあたしよりもガキじゃないなら、感情論で動かないはずなのにな~」


「……で、ですが、さやは、あなたを姉と思えませんからっ」


 あ。揺れているな。

 さやちゃんの動揺は分かりやすい。

 彼女は心底、実兄によるストーカーめいた行動に迷惑しているのだ。


「ストーカーの気持ちは、ストーカーがよく分かる――ということか」


「あれ? 悟ってば、意外とあたしの肩を持ってくれてるじゃん?」


「お兄さまは、この取引が悪いものと思っていないのですか?」


 さやちゃんも、俺の反応を気にしている。

 うーん。ここはさやちゃんの判断を優先させてほしいところだが……いや、少しくらいは、口を出してもいいのだろうか。


(今、さやちゃんは色々と不安になっているはずだからな)


 家出の件で落ち込んでいる状態では、正常な判断ができないと思う。

 だったら、一言だけ。


「……負けても、湾内さんを『お姉ちゃん』と呼べばいいだけ、と考えることもできる」


 少なくとも、デメリットは限りなく小さいと言えるのだ。

 さやちゃんの味方という立場で考えても、悪い取引ではないだろう。


 それに……まぁ、もう一つだけ理由があるのだが、これについては言葉にしないでおこう。

 あまり、湾内さんにこちらの思惑を探られたくないからな――。




お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m


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