表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/242

第二百三十二話 歪みだらけのハッピーエンド

 もし、ミスコンで氷室さんが勝てば、湾内さんはさやちゃんの下僕になる。

 ただし、ミスコンで氷室さんが負けた場合は、さやちゃんが湾内さんを姉と呼ばないといけなくなる。


 そんな条件で、取引が持ち掛けられていた。


「それくらい、さやちゃんに『姉』と認められることの価値は大きいってことだな」


「うん! あたしの立ち位置を安定させたいのよ」


 大きく頷いて、湾内さんは再びムカつく笑みを浮かべた。

 見ているだけで色々とイライラさせることができるのは、やはり彼女の才能である。


「てか、負けなければ良くない? さやが勝てば、あたしに好きに命令できていいじゃん? 何をためらってるのよ。あ、それとも……負けるのが怖いのかにゃ~? 正直に言ってくれたらなかったことにしてあげてもいいけどぉ~?」


「……普段は、こんな分かりやすい挑発乗ることはしないのですが」


 そう言って、さやちゃんはため息をついた。

 迷うように視線をさまよわせて、それから俺をチラッと見てから……小さく、頷いた。


「仕方ありません。その挑発に、乗ってあげます。まぁ、たしかに勝てばいいだけの話なので」


「――交渉成立ね」


 そう言って、湾内さんはさやちゃんに手を差し出した。握手をしようとしていたが、さやちゃんは無視してひょいっとクッキーをつまんで、パクっと食べた。


「……美味しいです」


 焼き立てのサクッとした食感に、表情を緩めている。

 良かった。ようやく食べてくれた……ずっと手をつけなかったので心配だったが、これで少しだけ安心できた。


「あ。ごめんなさい、お兄さま。少し、席を外します」


 表情と一緒に、気が緩んだのだろうか。

 さっきまでは強張って動かなかった体が、今は脱力しているように見えた。その影響か、お手洗いも近くなったらしい。


「おしっこ? いってら~」


「直接的なワードを出さないでください。お兄さまに失礼ですっ……まったく」


 デリカシーのない湾内さんにため息をついてから。

 彼女は、お店の奥にあるお手洗いへと向かっていった。


「――感謝してもいいわよ? あたしのおかげで、さやがやる気を取り戻して良かったわね」


 ……はぁ。

 せっかく言葉にしないように気を付けていたのに、どうやらその点についても織り込み済みだったらしい。


 確かにその通りなのだ。

 俺も、氷室さんも、元気のないさやちゃんをどう扱っていいか分からずにいた。

 そんなタイミングで湾内さんが強引に絡んできたことで、さやちゃんの気分もちょっと変わったように見えた。


「敵に塩を送るなんて、珍しいな」


「まぁ、こっちにとっても都合がいいのよ。さやが姉と認めてくれるだけで、あたしはその他大勢とは違う存在になれるでしょ。そのためなら、ささやかな代価じゃない?」


「君が下僕になるリスクもあるが」


「そんなことありえないからw 日向が風子に勝てるとでも? あんな面白みのない女に、うちの風子は負けないわよ」


 自信は相当あるのだろう。彼女は自らの勝利を信じて疑っていない。

 まぁ、俺たちの分が悪いのは明白か。現時点においては最上さんの圧勝だろうが。


 でも、本番は分からないと思うぞ?

 ……もちろんそう思ってこそいるが、あえて反論はしないでおいた。


 ここは深堀りせず、少し話の内容を変えてうまく湾内さんの意識をズラすか。


「……さやちゃんに『姉』と認めさせる、か」


 あと、ひとつ気になっていることがある。

 それは――仮に湾内さんが勝った場合の彼女の立ち位置についてだ。


 湾内さんは、愛人として確固たる地位を築けると思っているみたいだが。


「もし、さやちゃんが姉と認めたら――それだけで、真田にとって特別な存在になれそうだがな」


 愛人どころか、恋人の可能性も浮上しないだろうか。

 それくらい、真田のさやちゃんに対する愛情は異常である。

 たとえば、絶対にありえないことだと思うが、さやちゃんが『お兄ちゃんのほっぺたにちゅーするから、美鈴お姉ちゃんと恋人になってください♡』と言えば、たちまち真田は湾内さんと付き合うだろう。


 だが、湾内さんは俺の疑問を、いつものように冷笑した。


「バカじゃないの? あんただって知ってるでしょ。さやが懐いていて、誰よりも信頼している同性の女子が一匹いるでしょ。あんたにとって誰よりも大切なあの子のこと、忘れたわけ?」


「……最上さんのことは、忘れているわけではないが」


 俺が彼女のことを忘れるわけがないだろう。

 もちろん最上さんのことは知っている上で、俺は彼女をさやちゃんの『姉候補』から外したんだ。


「さやちゃんは最上さんのことを姉とは認めていなかったぞ。友達、とは言っていたが」


「だから何? 現状で唯一、さやと一番仲がいい年上の同性は風子でしょ。実質、お姉ちゃんみたいなものよ」


 うーん。そうなのだろうか。そういう解釈もできるのか?

 いや。でも、最上さんがさやちゃんの姉は、さすがに無理がある気がした。


 だが、湾内さんは俺とは違う考えなのだろう。


「才賀が夢中で、しかもさやに懐かれているんだから、正妻の条件には十分よ。あとは正妻ぶってる幼馴染の日向をぶっ潰して終わり。才賀は本格的に風子に執着するようになるし、あたしは愛人になれるように色々と才賀をサポートしながら風子を洗脳して、最終的に邪魔してくるあんたを排除する。そうしてハッピーエンドね」


 なんて救いのないシナリオなんだ。

 歪んだハッピーエンドに、俺は小さくため息をついた。


 俺がそれを許すと思うなよ?

 たしかに君たちの陣営が有利であることは間違いないが、そうやって余裕をかましてくれるのはありがたい。


 おかげで、勝機が生まれる。

 その油断を突けば、氷室さんにだって勝つ可能性は十分にある。

 俺は、そう信じている。だから、湾内さんの思うようにはさせない――


お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ