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99 たまたま

 突然のインターホンに、ハルは眉間にしわを寄せる。

「なんだろう……嫌な予感がする」

「奇遇だな、俺もだ」

 ハルがマサを見ると、同じく嫌な顔をしていた。

「そういう顔になるよね……」

「相手には悪いが、このまま放っておこうぜ」

 ハルたちは頷き、居留守を使うことにした。

 だが、インターホンは鳴り続ける。

「あーっ、もう!」

 結局、ハルがおれることになった。

「はいはーい、今出ますから!」

 半ば投げやりに、ハルは玄関を開ける。

 すると、そこに立っていたのは……

「えっ、かほさん?」

「ごきげんよう、マサの契約者さん」

「ごっ、ごきげんよう……」

 来訪者は、天道かほだった。

 彼女は、マサの前の契約者であり、ハルの苦手な人物なのだ。

 ハルは、なんとか笑顔を作る。

 しかし、その笑みは引きつっていた。

「今日は、おひとりですか?」

「いえ、ニアも一緒ですよ」

「えっ、でも見当たりませんけど……」

 首を傾げるハルに、かほはため息をついた。

 そして、近くの茂みに呼びかける。

「ニア、隠れていないで出てきなさい!」

「ごっ、ごめんなんだぞ……」

 やがて、茂みから音を立てて、ニアが気まずそうに出てきた。

 だが、いつもの元気はない。

 ハルは気になったが、かほに用件を尋ねる。

「あの、今日はなんの用事でしょうか?」

「いえ、た・ま・た・まこの近くを通りましてね、ついでに寄ったのですよ」

「はぁ……」

「用がないなら、さっさと帰れ」

「あら、用がないと来てはいけませんの?」

 威嚇するマサに、かほはのんきに首を傾げる。

「マサったら、あいかわらず怒りっぽいのね」

「こいつは、きっとずっとこうだぞ」

「ふふっ、そうね」

 かほとニアにからかわれ、マサは歯を食いしばる。

 隣にいたハルは、慌ててマサの肩を叩いた。

「まっ、マサ、落ち着いて!」

「俺は、冷静だぜ……」

「いや、明らかに怒っているよね!」

「マスター、玄関で騒いではいけませんよ」

「あっ、サラさん!」

「なかなか戻ってこられないので、どうされたのかと」

 サラに見つめられ、ハルは苦笑した。

 すると、サラはニアに気づき、首を傾げる。

「おや、そちらの方は、お怪我をされたのですか?」

「えっ?」

 ハルがニアを見ると、腕や足に包帯が巻かれていた。

「ちょっとニア君、傷だらけじゃないですか!」

「えぇ、これにはちょっと訳が……」

「とりあえず、中に入ってください」

 かほの様子に、ハルは違和感を覚えた。

 そのため、急いで家の中に招いた。

★★★

 リビングに通されたかほは、家の中を見回していた。

「なんだか、ドラマのセットみたいですわね」

「あぁ、かほさんの家に比べたら、ちょっと狭いかも」

「あら、ごめんなさい。ちょっと気になってしまって」

「それに、人数も少し増えましたから」

「あら、本当」

 頬に手を当て、かほはマサたちを見つめる。

 すると、玄関から声が聞こえた。

「ハル、ただいま帰ったよ」

「あっ、レンさんだ!」

「レンさん?」

 聞き覚えのない名前に、かほは首を傾げる。

「おや、お客さんだったのかい?」

「そっか、二人は初対面でしたね」

「まぁっ、あなたも犬のアニマと契約したのね!」

「えっ、はい」

「なら、好都合ですわ!」

 喜びの声を上げたかほは、手を叩いた。

 そして、勢いよくレンを指さす。

「そこの殿方、よろしければ私のニアに、戦い方を教えてもらえないかしら」

「戦い方?」

「もしくは、攻撃の受け流し方とか……」

「それは、構わないが……」

「そのお願いって、ニア君の怪我と関係が?」

「えぇ……」

 かほは俯き、少しずつ話し始めた。

「実は私たち、アニマの戦いというのを知りませんの」

「ルールも知らなかったぐらいだからな」

「マサ、またそういう言い方する!」

 ハルに叱られ、マサはそっぽを向いた。

 その二人のやり取りに、かほは苦笑する。

「あなたたちと戦ったのも初めてでしたわ」

「まぁ、一方的でしたけど」

「それで、なんでニア君は傷だらけに?」

「私たち、いつもは庭で遊ぶのですけど、その日はたまたま散歩に出かけましたの」

「また、『たまたま』か」

 マサのため息に、かほは苦い顔をした。

 しかし、話を続ける。

「そしたら、いきなり襲撃されまして……」

「あぁ、私たちも最初の時はそうだったなぁ」

「イグさんと、初めて会った時ですね」

「なぜ、今思いだす……」

 ユミのいたずらな笑みに、今度はイグが苦い顔をした。

 二人の様子に、ハルは苦笑する。

 だが、かほが気になり、話を促した。

「相手って、どんなアニマか覚えていますか?」

「確か……白猫のアニマと、コウモリのアニマでしたわ」

「おい、もしかして契約者は男だったか?」

「えぇ、七三分けをしていた気がしますわ」

「マサ、それってもしかして……」

「あぁ、柊とマイたちだ」

「やっぱり……」

「しかし、アニマ同士の戦いなら、問題ないのでは?」

「私たち、降参していましたのよ!」

 ユキの何気ない疑問に、かほは勢いよくテーブルを叩いた。

 そして、普段のかほとの違いに、ハルたちは驚く。

「かほちゃん、落ち着くんだぞ!」

「あっ、ごめんなさい……」

 ニアに停められ、かほは深呼吸をする。

 だんだん落ち着いたかほは、皆に謝った。

 ハルがニアに視線を移すと、目に涙をためていた。

「僕は、なにもできなかったんだぞ……」

「ニア君……」

「だけど、なんとか逃げだして、マサたちのことを思いだしたんだぞ」

「そうだったの……」

 マイたちが関わっていると知り、ハルは俯く。

 また、誰かを巻きこみ、傷つけている。

 その事実に、心が痛むハルであった。

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