98 切り札
「僕のダンス、とくとご覧あれ!」
すると、ククはこの緊張感の中、踊り始めた。
ククの軽快なステップに、誰もが釘付けだった。
「おい、あいつはなにを考えているんだ」
「たぶん、なにも考えていないんじゃないか?」
「あんたたちぃ、よく見てごらんなさいよぉ」
クロウはため息をつき、ククたちを指さす。
マサとレンも、その方向に視線を向けた。
その時、二人は少し驚いた。
水の大型アニマの頭部が、復活していたのだ。
だが、それだけでなく敵は、じっとククを見つめていた。
「おや、敵の動きが止まっている?」
「あれがククの力、『魅了』よぉ」
「敵の目を、自分に向けさせるってことか」
「それだけじゃないわぁ」
けだるそうに、クロウもククに視線を向ける。
「相手の戦意も、奪っちゃうのよねぇ」
クロウの言う通り、水の大型アニマはククに釘付けだった。
しかし、ククは足を滑らせてしまう。
「おや?」
「今がチャンスだ、全員抜け出せ!」
あかりは、ユキとイグに呼びかけた。
二人は頷き、力を奮い立たせる。
すると、ムチを弾き飛ばし、脱出に成功した。
ちなみに、ククはコケる前にクロウに助けられていた。
「いやぁ、クロウ助かったよ」
「あんたが役に立つところぉ、初めて見たわよぉ」
「僕だって、やる時はやるのさ!」
「あとは、私たちに任せてぇ」
クロウはククをおろし、水の大型アニマに向かっていく。
「ソニックブーム!」
そして、黒い羽で突風をおこした。
そのため、ユミの上下に隙間ができる。
上空にいたイグは手を伸ばし、ユミを引き上げる。
素早くユミを抱え、その場から離れた。
「うぅ……私、どうして……」
「ユミ、もう大丈夫だ」
ユミの意識が戻り、イグは微笑む。
その様子を、地上にいたサラは見上げていた。
「救出を確認。お二方、よろしくお願いします」
「了解した。行くぞ、ユキ!」
「承知でござる!」
レンとユキは、攻撃の構えをとった。
「業火!」
「紅蓮!」
二人の炎が、渦を巻いて放たれる。
「ソニックブーム!」
そして、クロウが突風をおこしていく。
すると、炎は水の大型アニマに巻きついていった。
それはどんどん、上へとのぼっていく。
やがて水は蒸発し、水の大型アニマは消えていった。
「やっ、やったのか?」
「反応消失。元の水のようです」
サラの言葉に、ハルたちは安堵した。
すると、大きな拍手が聞こえた。
「ブラボーっ、すごい戦いだったよ!」
「昴さん?」
やってきたのは昴であり、神の遣いも一緒だった。
「アニマの戦いは初めて見たが、こんな感じなんだね」
「昴、僕らの戦いはどうだったかい?」
「ククは、なにもしていないだろ」
「あの、もしかして昴さんって……」
「お察しの通り、彼らの契約者だよ」
満面の笑みの昴と対照的に、ハルは苦笑していた。
「アニマ、スゴイデース!」
大喜びのマイケルに、ハルは少し驚いた。
マイケルは目を輝かせ、無邪気な子どものようだった。
「イッパイ、イイ写真ガ撮レマシタヨ!」
「どれ、見せてくれ」
「ドウゾデース」
マイケルは自信満々で、昴にカメラを渡した。
しばらく写真を見ていた昴だったが、深いため息をつく。
「これは、ダメだな」
「ナゼデスカ?!」
「理由は簡単さ」
昴は人さし指を立て、マサたちを指さす。
「これでは、水着が主役でなく、彼らが主役になってしまうからだよ」
「あっ、本当だ」
「戦っているところなんて、水着がかすんでいますね」
「迫力ガアッテ、イイト思イマスガ?」
「いえ、今の世の中はアニマに対して、いいイメージを持っていません」
すると、ヒロがマイケルに詰め寄る。
「ですから、この写真は消去してください」
「グヌヌ……」
マイケルは、なにも言えずにいた。
しかし、頭を振りその場から逃げだした。
それも、全速力で。
「コンナイイ写真、絶対消シマセーン!」
「あっ、待て!」
「大丈夫」
マサが追いかけようとすると、昴に肩を掴まれる。
その昴は、いたずらな笑みを浮かべていた。
「世間は、そう甘くないさ」
その後、マイケルが撮った写真集が発売される。
しかし、売れ行きはイマイチであった。
★★★
「いやぁ、あの時はいろいろあったけど、けっこう楽しかったねぇ」
「そうですねぇ」
夏も終わり、涼しくなった九月上旬。
ハルたちは、島での出来事を思いだしていた。
「バイキングの料理、すごくおいしかったなぁ!」
「夜には花火もできて、楽しかったです!」
「ユミ殿が、一番大変だったのでは?」
「ユキ、そこには触れるな」
イグに睨まれ、ユキは慌てて口を押さえる。
「ユキ、どうしたの?」
彼らの行動に、ハルは首を傾げる。
だが、その手はお菓子に伸びていた。
それを見ていたサラは、ハルの手を掴む。
「マスター、食べ過ぎですよ」
「えへへ、つい手が伸びちゃうんだよね」
「でしたら、これは没収です」
「なっ、サラさんひどい!」
サラはお菓子を片づけ、棚に戻した。
すねるハルに、マサは苦笑した。
「ハルが、ずっと食べているからだろ」
「だってー……」
「まぁ、お嬢らしくていいじゃないか」
「ふふっ、そうですね」
ハルとマサのやり取りに、ユミは微笑んでいた。
すると、ユキが勢いよく手を上げる。
「ハル殿ーっ、俺は腹が減りましたぞ!」
「我もだ!」
ユキの発言に、神の遣いも参戦してきた。
「あなたたちは、さっき食べたでしょ!」
子どもっぽい二人に、ハルはため息をつく。
だが、ハルが次の言葉を言う前に、インターホンが鳴った。
すると、ハルは小さく呟いた。
「なんだろう……嫌な予感がする」




