91 葛藤
薫はそっと、サラの頭部に手を置く。
「ここの研究員たちが、あの廃工場でこの頭部を見つけたんだよ」
「そうだったんですか……あれ?」
ふと、ハルはサラの頭部から、コードが出ていることに気づく。
それは床を伝い、長方形の箱につながれていた。
「あの……さっきから気になっていたんですけど」
「ん?」
「この箱は、なんですか?」
「開けてみるかい?」
薫の問いかけに、ハルは小さく頷く。
そして、開けられた箱を、恐る恐る覗いてみると……
「えっ、人?」
箱の中には、黒髪のロングヘアーに、メイド姿の女性が横たわっていた。
ハルが驚いていると、薫に肩を叩かれる。
「どうやら、彼女もアンドロイドみたいでね」
「でも、アンドロイドは全部処分されるって……」
「あぁ、どんなルートを使ったか知らないけど……」
「いつの間にか、研究所の玄関に置かれていたみたいです」
「えっ、なにそれ怖っ!」
「しかもその後、私のところにメールが届いてね」
薫はパソコンを操作し、画面をハルに見せた。
「これは……」
「プログラムの移行手順と、コードの取り付け方を、ご丁寧に書いてくれているんだよ」
「まさか、製作者の柊さんが?」
「テレビで聞いた限りだと、そんなことをするとは思えないけどね」
「そうですよね……」
「それに、君たちの場所を教えてきたのも、おかしな感じだったし」
「あっ、そうだ!」
考えこむ薫をよそに、ハルは神の遣いに近づいた。
「神の遣い様、私たちの居場所を教えてくれて、ありがとうございます!」
「……なんのことだ?」
ハルは笑顔で頭を下げた。
しかし、神の遣いは首を傾げるだけだった。
それにつられて、ハルも首を傾げる。
「なにって、家の電話で、薫さんに知らせたんですよね」
「なぜ、我がそんなことをしないといけないのだ」
「えっ、じゃぁ誰が……」
「ハルさん、その少年は誰だい?」
「あっ、紹介します、神の遣い様です」
「ほぉ……人間の姿にもなれるのかい」
薫は目を輝かせながら、神の遣いを見つめる。
だが、神の遣いは居心地が悪く、顔を引きつらせていた。
すると、薫は微笑み、ハルに向き直る。
「多分、電話してきたのは彼じゃないよ」
「そうなんですか?」
「相手は機械で声を変えていたみたいで、変な感じだったよ」
「それでよく、アキナたちを向かわせたな」
マサは腕を組み、アキナに視線を向ける。
アキナは、苦笑するだけだった。
「怪しいとは思っていたけど……」
振り向いた薫は、苦笑いを浮かべていた。
「ハルさんの名前を出されたから、一応ね」
「結果的に合流できたので、よかったです」
「アキナ殿たちが来てくれて、助かったでござる!」
「それにしても、変だなぁ」
腕を組み、ハルは首を傾げる。
「こっちの知り合いって、あんまりいないんだけど」
「ハル、考えるのは後にしよう」
「レンの言う通りだ」
ハルの肩を、レンは優しく叩いた。
そして、薫は頷き、サラの頭部を指さした。
「まずは、彼女を起動させようか」
「はい、お願いします!」
ハルに頼まれ、薫はパソコンを操作する。
最後にエンターキーを押し、笑みを浮かべた。
すると、機械音が鳴り始める。
「サラさん……」
ハルは、必死に祈った。
また、サラと会えることを願って……
やがて音が止まり、黒髪の女性が目を開ける。
そして、ゆっくりと体を起こした。
目覚めた女性は、静かに辺りを確認する。
「……ここは、どこなのでしょう」
「はじめまして、私は薫」
「……あなたは人間ですか?」
「そうだよ。そしてここは、私の研究室だ」
「研究室?」
「早速だが、君は誰だい?」
薫の問いに、女性は少し考えて口を開いた。
「私は、サラ。戦闘用アンドロイドです」
すると、サラはハルたちに視線を移した。
「サラさん……」
「この方たちは……」
「彼女はハルさんで、アニマの契約者だよ」
「アニマ……」
そこまで言うと、サラはゆっくり立ち上がった。
そして、両手をライフル銃に切り替える。
「えっ、サラさん?!」
「ハル、早く俺の後ろに!」
サラの異変に、ハルは驚愕した。
マサはハルの手を引き、他のアニマたちに目で合図をする。
全員頷き、戦闘態勢に入った。
サラとアニマたちに緊張が走る。
「アニマは敵……」
「ちっ、やっぱり解りあえねぇのか?」
「全員、彼女から目を離すな!」
「サラさん、やめて!」
レンの指示に、アニマたちはサラを睨みつける。
ハルは、必死にサラに呼びかけた。
だが、サラはライフル銃を向けたままである。
「おいおい、まさかここで撃つんじゃないだろうね」
薫は苦笑し、ハルたちとサラを交互に見つめた。
すると、俯いていたサラの口が、重く開いた。
「違う……」
小さく呟かれて出たのは、否定の言葉だった。
不思議に思ったハルは、首を傾げる。
「サラさん?」
「アニマは、敵じゃない……協力するべき相手……」
サラは言葉をつづけ、体を震わせる。
「アニマは敵、倒すべき相手。違う、彼らは人間に害をなす者ではない……」
「一体、どうなっているの?」
「彼女は今、葛藤しているんだよ」
サラの様子に、ハルは戸惑っていた。
やがて、震えが止まり、サラは目線を上げた。




