90 研究所では、お静かに!
薫の留守番電話が入ってから、二週間後。
ハルたちは、薫の研究所を訪れていた。
ちなみにユミは、イグに買ってもらった服を着ていた。
「ユミちゃん、その服可愛いね!」
「ありがとうございます!」
「それにしても、薫さんの確認したいことってなんだろう……」
「わからないが、俺が気になるのは……」
レンの目線は、ハルの腰の辺りを見ていた。
そこには、ハルと手をつないでいる神の遣いがいたのだ。
「なぜ、神の遣いも連れてきたんだい?」
「それは、留守番してて、なにかされても嫌なので……」
「一緒にいた方が、安全だと話したじゃないですか」
「まぁ、そうなんだが……」
歯切れの悪いレンに、ハルとユミは顔を見合わせる。
すると、神の遣いがけだるそうな声を出した。
「我は別に、留守番していてもよかったのだぞ」
「ダメです!」
「むむむ……」
ハルにキッパリと断られ、神の遣いは口をとがらせた。
研究所に入ると、走ってくる人影が見えた。
「ハルーっ!」
「マサ!」
走ってきたのは、マサだった。
マサは、勢いよくハルに抱きつき、頬ずりをする。
「ちょっとマサ、くすぐったい!」
「別にいいじゃねぇか」
「あのねぇ……」
「それに、俺はハル成分が足りないから、もうちょっとだけ」
「人を栄養素みたいに言わないでよ!」
「はぁー、落ち着く……」
のどを鳴らすマサに、ハルは苦笑した。
やがて、満足した彼は、ハルから離れる。
少し名残惜しかったハルだが、ふとマサの足を見つめた。
「そういえば、もう足の怪我は大丈夫なの?」
「あぁ、完全に治ったぜ。それよりも……」
突然マサの声が低くなり、ハルは首を傾げる。
「どうしたの?」
「どうしたじゃねぇよ。なんで、見舞いに来ないんだ!」
「行ったじゃない、二、三回ぐらいだけど……」
「来るんだったら、毎日来てくれよ!」
「無茶言わないで。ここ、けっこう遠いんだよ?」
「そうだぞ、マサ」
二人が言い合いをしていると、あかりがやってきた。
そしてマサに近づき、小さく指さす。
「ハル姉ちゃんを困らせたら、ダメじゃないか」
「あかりさん、マサがなにか迷惑かけなかった?」
「それはないから、安心してくれ」
あかりは手を振り、いたずらな笑みを浮かべる。
「あたしは、マサといられて楽しかったしな」
「俺は、母親に言われるみたいで、ウンザリしたぜ」
「こらっ、マサ、そんなこと言わないの!」
ハルに怒られ、マサはそっぽを向いた。
だが、あかりは気にすることなく大笑いをする。
「構わないさ。口うるさく言っていたのは、確かだからな」
「本当、うちのマサがごめんね」
「マサ、君はもう少し、彼女に感謝するべきだ」
レンは、ハルとマサの間に割って入った。
そして、冷たくマサを見下ろす。
マサも負けじと強く睨みつけた。
「そういや、レン。俺がいない間、ハルにちょっかい出したんじゃないだろうな」
「さぁ、どうだろうね」
レンはハルに振り向くと、優しく微笑んだ。
突然の微笑みに、ハルは顔を赤らめる。
二人の関係を察し、マサはしっぽの毛を逆立てた。
「やっぱり、なにかしたんだな!」
「君には、関係ないだろう」
「そんなことねぇよ、だって俺たちはなぁ!」
「ちょっとマサ、落ち着いて!」
「こいつに食ってかかっても、あんたに勝ち目はないだろ」
マサとレンは、火花を散らすように睨み合う。
そんな中、ハルは焦り、あかりは呆れていた。
「これは三角……いえ、四角関係でしょうか」
「ユミ、ワクワクするんじゃない」
「お主らは、本当に面倒だな」
ハルたちの騒ぎに、ユミは楽しげだった。
それに、イグと神の遣いは呆れていた。
すると、ひとつ咳払いが聞こえた。
全員が振り向くと、アキナとユキが立っていたのだ。
「今のは、ユキがしたのか?」
「いっ、いえ、俺ではなく……」
「私がしたんですよ」
アキナの返事に、ハルは隣のユキを見つめる。
ユキはというと、顔を引きつらせていた。
「お楽しみのところ、すみませんが……」
アキナは、満面の笑みを浮かべる。
だが、明らかに怒っていた。
「そろそろ、薫さんの所に行きましょうか」
「はい……」
これ以上、怒らせてはいけない。
そう、ハルたちは思ったのだった。
★★★
「薫さん、ハルさんたちを連れてきました」
「ありがとう、アキナ君。おや?」
作業の手を止めた薫は、ハルたちの様子に首を傾げる。
「なんだか大人しいけど、どうかしたのかい?」
「いえ……気にしないでください」
「まぁ、いいか」
ハルは、苦笑しながら手を振った。
アキナに目をやったが、薫は深く追及しないことにした。
そして、研究室の奥を指さす。
「すまないが、これを見てほしい」
「えっ……」
奥を凝視したハルは、机に置いてある物に目が釘付けになる。
そこにあったのは……
「なっ、なんで、サラさんの頭がここに?」
ハルは、震える手で口を押さえた。
他のアニマたちも、言葉が出なかった。
机の上には、すすだらけのサラの頭部があったのだ。
しかし、サラの目は閉じていた。
それはまるで、眠っているようだった。
薫はハルたちの様子に、小さく頷く。
「その反応から見て、彼女は君たちと戦ったアンドロイドだね」
「はい……」
「でも、彼女はあの廃工場で……」
ハルたちは、廃工場での出来事を思いだす。
サラと協力して、アニマたちを助けたこと。
そして、命がけで、マサを助けてくれたことを……




