83 賑やかな仲間たち
廊下の足音は、大きな音を立てて近づいていた。
そして、勢いよくドアが開いた。
「マサがいるのは、ここかーっ!」
「あっ、あかりさん?!」
突然の大声に、ハルたちは驚いてとび起きる。
ドアの方を見ると、怒り心頭のあかりが立っていた。
耳としっぽの毛を逆立て、強くマサを睨んでいる。
「あっ、あかり……」
「ベアトの様子を見に行ったら、同じ病室のあんたがいないから、けっこう探したんだぞ!」
「ふんっ」
あかりに怒られても、マサはそっぽを向いていた。
その様子に、ハルは苦笑した。
だが、あかりが心配しているのもわかり、マサの肩を叩く。
「マサ、病院を抜け出したらダメじゃない」
「こんな怪我、大したことねぇよ」
「そんなこと言って、病気にでもなったら大変でしょ?」
「……そりゃ、そうだけど」
「小さな怪我でも、甘くみない方がいいと思うけどなぁ」
「ほら、ハル姉ちゃんも困っているだろ」
「……わかったよ」
ハルが困っていると言われ、マサは渋々言う事を聞いた。
しかし、ハルの手を離そうとしない。
「マサ?」
「……なるべく早く帰るから、待っていてくれよな」
マサは手に力をこめ、ハルの左頬にキスをした。
その行為に、ハル以外全員固まった。
そして、すぐ正気に戻ったのは、あかりだった。
「あっ、あんた、ハル姉ちゃんになにして!」
「なにって、付き合っているんだからいいだろ?」
「そんなの、認めていませんよ!?」
ユミも怒りだし、ハルを引き寄せる。
部屋で大騒ぎしていると、猿渡がすまなそうに顔を覗かせる。
「あのー……騒いでいるとこ悪いんだけど、ちょっといい?」
「あっ、さぁちゃんどうしたの?」
「ちょっと、ユミのお姉さんと、イグのお兄さんに手伝ってもらいたいことがあるんだ」
「私たち、ですか?」
「うん、鳥人の二人じゃないとダメなんだ」
猿渡のお願いに、ユミとイグは顔を見合わせる。
そして、ハルに視線を向けた。
ハルもそれに気づき、笑って片手を振った。
「こっちは気にしなくていいから、行ってあげて」
「わかりました。できるだけ早く戻りますね!」
そう言って、二人は部屋を出ていった。
あかりもため息をついて、マサの腕を引っ張る。
「ほら、あたしたちも行くぞ!」
「わかったから、手を離せよ」
「離したら、また逃げるだろ」
あかりに睨まれ、マサは目線をそらした。
そして、あかりはハルに振り向く。
「じゃぁね、ハル姉ちゃん。騒がしくして悪かったね」
「いいよ、気にしないで。マサのこと、よろしくね」
「あぁ、任せてくれ」
頷いたあかりは、マサを連れて部屋を出ていった。
残されたハルは、小さくため息をついた。
そして、マサが握っていた手の平を見つめる。
すると、姿が見えなかったレンが入ってきた。
「なんだか、とても賑やかだったね」
「レンさん、今までどこに……」
「どこって、部屋の外で寝ていたんだよ」
「えっ、外ってことは廊下ですか?!」
驚くハルに、レンは苦笑いを浮かべる。
「実は、トイレに行って戻ったら、マサが寝ていたんだ」
「すみません、うちのマサが……」
「気にするな、ハル。マサの気持ちもわかるから、怒っていないよ」
「レンさん……」
二人で微笑んでいると、急にハルのお腹が鳴った。
それにハルは赤面し、レンは笑いをこらえていた。
「ふふっ、ハルのお腹も鳴ったことだし、食堂に行こうか」
「そっ、そうですね……」
それから、二人は布団をたたんで、食堂に向かった。
食堂では、昼休憩に入ったであろう、研究員たちであふれていた。
「うわー……これじゃ座れませんね」
「そうだね。なら、売店に行こうか」
「へぇー、ここって売店もあるんですね」
「研究員たちが過ごしやすいように、いろいろ揃っているよ」
「前は、他の所見ていなかったから知りませんでした」
ハルが興味津々で周りを見ていると、レンが手を握ってきた。
「レンさん?」
「少しの間、こうしててもいいかい?」
「はっ、はい……」
優しく微笑むレンに、ハルは恥ずかしくなって俯く。
やがて、小さな売店が見えてきた。
しかし、誰もいなかった。
「あれ、店の人いないですね」
「ハル、このベルを鳴らすんだよ」
「あっ、これですね!」
レンが指さした先に、丸いベルが置かれていた。
ハルがそれを押すと、奥から年配の女性が出てきた。
「はいはい、いらっしゃいませ」
女性は面倒くさそうに挨拶をした。
そして、ハルの顔をじっと見つめる。
「おや、あんたここじゃ見ない顔だね。新入りかい?」
「いや、私は……」
「彼女は、俺の契約者だ」
「ほぉ……前の女をやめて、この子にのりかえたのかい?」
「人聞きの悪いことを、言わないでもらいたい」
珍しく怒るレンに、ハルは驚いていた。
だが、女性は気にせず大笑いをする。
「はっはっは、そんなに怒りなさんな。それで、注文は決まったのかい?」
「……からあげ弁当ひとつ」
「あっ、私も同じので!」
「あいよ、二人分で千円でいいよ」
そして、会計を済ませ、レンが弁当を受け取る。
「ありがとうございましたー」
そう言うと、女性はまた奥に戻っていった。
「じゃぁ、俺たちは庭で食べようか」
「はい!」
頷いたハルに、レンは微笑む。
そして、どちらからでもなく手を握り歩いていった。




